第10話 黒船
そして塩里さんの部屋で勉強会。
亜優ちゃんは塩里さんの顔が赤くなっていると言ってたが、年洋が見ると普通だった。階段を一気に登ったから、血行が良くなったのかな?
でも、なぜ先にいったのだろうか。年洋は分からない。
いや、今は勉強だ。
塩里さんの部屋で小さなテーブルを出して、年洋、塩里さん、亜優ちゃんの三人。
年洋と塩里さんは互いに分からないところを教え合う。学年の違う亜優ちゃんは分からないところが出てきたら、他の二人に訊く。という形で始めた。
成績で言うと、年洋は平均よりやや上。塩里さんは前の学校でトップクラスとまではいかないが、平均よりかなり上。亜優ちゃんは平均より少し下なのだそうた。
亜優ちゃんは平均より下というが、天瑠のヤツよりはいいと思う。アイツが得意なのは保健体育と日本史の戦国時代から江戸時代にかけてだけだ。天瑠が剣道を始めたのも、その辺りの時代が好きだから、刀がカッコイイから、という理由。
それ以外はさっぱり。前に『この時の作者の気持ちを答えなさい』という問題で、『なんだかエロい気持ち』と書いて先生に呼び出し食らってたぐらいだ。
――もしかしたら、本当は作者もそんな気持ちだったかもしれないが。
それなら天瑠は天才だ。でも、試験的には違う。実際の気持ちでは無く、文章から気持ちを考えないといけない。
塩里さんは途中で転校してきたので、まずは試験の範囲の確認から始めた。
塩里さんとの勉強は力が入る。一人なら全くやる気が出ないのに。今回の試験はいつもより点数が取れそうな気がする。
三人が勉強をしていると、
「ねぇ、せんぱぁい、お姉ちゃぁん」
日本史の勉強をしていた亜優ちゃんが猫撫で声で話しかけてきた。
「ふと思ったんだけど、ペリーってなんで来たの?」
「なんでって、黒船じゃないの?」
「東豊くん、亜優が聞きたいのはそういう事じゃないと思うよ?」
「ああ、手段じゃなくて理由ね」
「黒船って、ホントに黒かったの?」
亜優ちゃんは答えを聞く前に、興味が黒船に移ったらしい。年洋を見ながら訊いてくる。
「黒かったの?」
と、塩里さんも年洋を見てくる。塩里さんは黒船が本当に黒かったか、知らないらしい。
これは……二人に期待されてる。
「当時の船は木製で、防水や防腐、速度低下の原因になるフジツボなんかが付着しないようにする防汚の為に、コールタールを塗ってたらしい。それが黒く見えたとか」
「へぇー。今は? 黒船滅んだ? コールタール塗らない?」
「完全には滅んでないかな? 船が木造から金属や強化プラスチックになったから、コールタールじゃなくて塗料に変わったってだけで。今でも木造船にコールタール塗る事も有るよ」
「あっ! そういえば、船の下の方って赤ぁい! あれはなんで?」
「あれも、元々は銅板を貼り付けたらフジツボが付着しにくいのが分かって、それが進化して塗料に赤い亜酸化銅を混ぜたからだとか」
「はへぇー。先輩、なんでも知ってますね。ぼく、尊敬しちゃいます!」
「なんでもは知らないよ。なんかで見たのを覚えてるだけで。それに、なんでも知ってたら、こうやって勉強してないさ」
「そっか!」
ここで年洋は一つの疑問が浮かぶ。
「てか、ペリーって今回の範囲なの? 日本史でも後の方のはずなんだけど」
「全然?」
亜優ちゃんのその表情は、全く悪びれてない。
「せめて試験範囲の質問して……」
「はぁーい」
その後も三人で試験勉強を続けて、時が経った。
「ちょっと休憩を入れましょうか」
塩里さんが言った。時計を見ると、十五時を過ぎていた。
「俺、まだ出来ますよ」
「東豊くんは大丈夫かもしれないけど、こっちが……」
こっちとは、当然亜優ちゃんの事である。
「あうぅ……こんなに勉強したの、久しぶりだよぉ……」
目をぐるぐるにして、フラフラと揺れている。
「もう限界だから、亜優が」
さすがお姉ちゃん。妹の事はよく分かってる。
「二人とも、ちょっと待っててね」
と言うと、塩里さんは立ち上がって部屋を出ていった。
なんだろう……。トイレ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます