第8話 近所付き合いの範疇?

 週が明けて月曜日。

「トシ、なんかいいことあったか? お姉さんとの進展具合はどうだ? 娘に乗り換えたか? 別の女ができたか?」

 席に着くなり早々、矢継ぎ早に天瑠から訊かれた。休みの出来事を訊いてくるのは、休み明けの恒例行事だ。いっつも「お前はどうなんだ?」と言いたくなる。

「んー……娘の家に行ったんだ。娘ってか、お姉さんの家でもあるけど」

「なぁぁぁぁにぃ!? ヤっちまったのか?」

 天瑠に両肩を掴まれて、前後に激しく揺さぶられる。首がガクガクとなって辛いので、年洋は天瑠の手を払って止めさせた。

「手は出してねぇよ。お姉さんには会えなかった」

「そっか。それは良かった」

 良かったのか?

「あと、娘には妹がいた」

「ふーん」

 あまり食いついてはこない。天瑠にしては珍しい。

「どうした? 女なら誰でも良さげな天瑠がノって来ないとか」

「オレをケダモノかなんかと思ってるのか?」

 ちょっと思ってる。

「娘の妹だと、ちっさいんじゃないかと思ってな。オレはロリコンじゃないからなぁ」

「一つ下だってよ」

 ついでに言えば、この学校にいる。天瑠には言わないが。

「ま、オレには塩里ちゃんという、大切な人がいるからな」

 それが娘なんだが。

「あの美人の塩里ちゃんが普段どんな生活しているか、知りたいぜ」

 すまん天瑠。先週塩里さんの家に行ったし、部屋も入ったんだ。

「家を突き止めるために、帰りに後を付けようかな」

「ストーカーはやめとけ。嫌われるぞ!」

「そうだな! やめておこう」

 年洋は珍しく強く言ったが、それをやられると年洋まで巻き込まれるからであった。


 学校ではバカな天瑠と。そして登下校は美人な塩里さんと過ごしながら、日が過ぎていく。

 今週は途中から亜優ちゃんとも帰るようにもなった。来週が中間試験で、部活が休みになったからだ。

 塩里さんよりも亜優ちゃんの方がおしゃべりで、色々と話してくる。いるだけで、場がとても明るくなるような感じさえある。


 そして金曜日。

 塩里さんから衝撃的な発言が飛び出した。

「東豊くん」

「なんでしょう」

 塩里さんと二人っきりだと緊張してしまう年洋だが、亜優ちゃんがいるお陰なのか、いつものような緊張感は無い。

「東豊くんが良ければ、なんだけど……明日、私の家で試験勉強しない?」

「え?」

 年洋は耳を疑ったが、塩里さんはそんな冗談を言う人では無いし、真剣な眼差しで見てくる。

 これは本気だ。

 だが、疑問が出てくる。

「でも、なんで俺なんですか? 他にもいるでしょう。クラスの友達とか」

「家に呼べるほど親しい人、まだいないから……」

 塩里さんは少し恥ずかしそうに目を伏せた。

「東豊くんは来た事有るし、呼びやすいかな……と思って」

 塩里さんの声が最後の方は小さくなっていった。

「せんぱぁい、女の子が誘ってるんだから、乗ってあげてくださいよぉ」

 そう、はやし立てる亜優ちゃん。

 亜優ちゃんの場合、

(面白そうだから)

 で言っている。

 亜優ちゃんはそういう人だと、ここ数日一緒に帰って分かった。面白ければいいのだ。面白そうだから、家に来て欲しい。そう思っているに違いない。

 でも、年洋に断る理由は、特に無い。

 それに、家に呼んでくれるという事は、

(それぐらいの親しい仲である)

 という事。


 もしかしたら、平日はいないお姉さんも土曜日ならいるかもしれない。会える確率が上がるのではないか?


 そう考えて年洋は、

「それでは、明日行きます」

 と、返事をした。

 心無しか、塩里さんの口元が緩んだように見えた。

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