第4話 大きい娘

 かくして、今日は塩里さんと登校するハメになった。

 本来なら嬉しいイベントなのだろうが、昨日の決断から今日のコレ。神様がお姉さんを忘れさせる為に仕組んだ罠なんじゃないかと疑う。

 朝迎えに来て一緒に登校なんて、幼馴染がやるなら、まだ分かる。

 ――いや、やるか? 多分やる。きっとやる。高校生まで仲が良ければ。

 だが、年洋の横にいるのは美人転校生。

 話が出来すぎているのではないか?

 とは思うものの、やっぱり嬉しい。

(天瑠の奴には絶対黙っておこう)

 そう思った。

「どうかしたの? 考え込んでたみたいだけど」

 と、塩里さんの優しい声。

「いや、なんでもない。今日はいい天気だなぁと思って」

「そうだね」

 こんな朝も、悪くない。


 学校に着くと、年洋は「トイレに行くから」と塩里さんを先に行かせた。一緒に教室に入らないようにしただけで、本当にトイレに行きたかった訳じゃない。

 少し時間を潰してから、教室へ向かう。

「おい、トシ」

 教室で席に着くなり、天瑠が声をかけてきた。

 塩里さんと登校してきたのを見られただろうか。緊張が走る。

「お姉さんとはどうなった?」

「そっちか」

 ホッとした。塩里さんと一緒に登下校しているなんてバレたら、絶対に天瑠の奴がウザい。

「『そっち』って……なんだと思ったんだ?」

「それは忘れろ」

「よし、忘れる」

 天瑠は単純なヤツで助かる。

「で、お姉さんとはどうなった?」

「ああ、なんかお姉さんより娘さんの方と急接近してるな」

 その娘さんが塩里さんなのだが。

「なぁぁぁぁにぃ!? ……待て。お姉さんの娘だよな? ……ロリに目覚めたか? そりゃあマズいだろう、子供は。さすがのオレでも手は出さんぞ?」

「バカ! 娘さんは大きいよ」

「おっぱいがか? けしからんな! アップで写真撮ってきてくれ」

「アホ! 年齢的な意味だよ」

 今この教室にいるし、年齢は同じ歳だ。

 まぁ、でもそっちも大きめではあると思う。天瑠が最初にそう指摘したせいで、どうしても意識してしまう時がある。

「年齢的に大きい……と言うことは、お姉さん結構年上だな」

 そう言われると、塩里さんが娘ならそうなるだろう。気付かなかった。でも、あのお姉さんはそんな感じが全くしない。年齢不詳だ。

「それ、本当に母娘おやこなのか?」

「うーん……」

 そう言われると自信が無い……。

「でも、娘さんの方は、お姉さんを『お母さん』と呼んでたのを見たからな」

「なら母娘おやこか……。ひょっとしたら、そういうプレイかもしれんぞ?」

「どんなプレイだよ!」

「ハハッ! トシには早かったか」

「うっせえ! エロ将軍」

 知識だけのクセに。

 でも、確かに「お母さん」と呼んでいる所を見ただけで、お姉さんが本当の母親かどうかは分からない。

 もっと塩里さんとの仲を深めて、お姉さんの事を探らないといけないだろう。

 モヤモヤしたまま塩里さんと近所付き合いはしたくないし、いつかはお姉さんとも再会するかもしれない。

 それまでに真相を知りたい。お姉さんの正体を。


 お姉さんは、本当に人妻なのか。

 はたまた、そういうプレイなのか。

 あるいは、おかあという名前なのか。

 それとも、小林千登勢的な意味なのか。

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