第5話 私をスーパーに連れてって

 放課後。

 今日も塩里さんと帰宅。クラスの男子で一番塩里さんに近付いていると思われる。これは幸運なのかもしれない。

「ねぇ、東豊くん」

「なな、なんでしょう」

 まだ塩里さんと歩くのも、話しをするのも、緊張する。

「家の近くに、帰りに寄れるスーパーってないのかな? ウチの周辺、詳しいでしょ?」

「スーパー……」

 脳内にマップを展開して、家の周囲を探る。

「――って、駅の所に有るかな?」

 年洋も、さしてスーパーに詳しい訳では無い。駅周辺だと百均には行くが、スーパーにはほぼ行かない。場所とどんな感じのスーパーか、ぐらいしか知らない。

「ほんと!?」

 塩里さんの表情が一気に明るくなった。これでは「詳しく知らんけど」とか言い出せない。

「あ、ああ……。でもスーパーは二軒あって、日常的に使えるようなスーパーと、やや値は張るけどあまり見かけないような食材も有るスーパー、どちらがいいですか?」

「んー……後の方かな? 日常に使う方なら、いつでも行けるでしょ?」

「そうですね。そのスーパー、特別感が有っていいんですよね」

 そういう年洋も超が付くレベルで庶民なので、ハードル高く感じて後者のスーパーは行った事が無かった。想像だけで語っている。

「それは楽しみ! それじゃあ、行きましょ」

「え? 俺も行くの?」

 そこまでは予想していなかった。

 なぜ、ここまで誘ってくるのか。これは本当に近所付き合いなのか? 疑問は尽きない。

「え? 行かないの?」

 塩里さんも驚いていた。

 塩里さんのキレイな目は、潤いを帯びていた。その目でジッと見てくる。

 通常状態でも攻撃力の高いのに、さらに攻撃力の増した目で見られて断れるだろうか。

(――無理です)

 塩里さんは天使か、小悪魔か、それとも両方か。

「行きます、塩里さん」

 年洋は承諾した。これで行かない理由は無い。例え、これが罠だったとしてもいい。後悔は無い。

「それじゃあ、連れてって」

「は、はい」


 スーパーでの買い物は楽しい物だった。落ち着いた雰囲気のスーパーは、塩里さんによく似合った。こっちをメインにした方がいいんじゃないかというぐらいに。

 予想以上に買い物をしてしまい、荷物がかなり重くなってしまった。「どうせ帰り道は一緒だ」と、年洋は買い物袋をを持って塩里さんの家まで行った。

 塩里さんは「玄関まででいい」というが、重い荷物を持たせたくは無い。家の中まで運ぶことにした。

 下心は無い。本当に無い。

「おじゃましまーす」

 塩里さんの家には初めて入る。

 下心は無いのだが、一緒に帰る時よりも緊張する。鼓動が早いのは、自分でも分かる。

 ギクシャクした動きで、キッチンまで買い物した荷物を運んだ。

 家は新築では無い感じだがリフォームしたのかキレイで、広めのリビングダイニングキッチンに至っては、オシャレなキッチンカウンターまで設置してあった。年洋の家には、こんなオシャレな物は無い。

「ごめんなさいね。ここまで運んでもらって」

「いえ、いいんです」

 塩里さんは冷蔵庫やセカンド冷凍庫に買ってきた物を入れて行く。

 その慣れた手つきに、年洋はふと疑問に思った。

「あの……塩里さんって料理するんですか?」

 何をどこに置くか、知っているような動きだった。食材を普段から扱っていないと、あの動きは出来ないと思った。

「そうね。お母さんが忙しいから、朝夕は大体私が作ってるの。だから、私は部活してないんだ」

 お母さん。そう、お姉さんである。

 そう言えば、お姉さんの姿は無い。


 ――ん? って事は今、一つ屋根の下で塩里さんと二人っきりなの?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る