第21話 四
ミミが心配そうに俺を見た後に、キッとアナトにキツイ視線を向けた。そして、大きく両手を広げて俺の前に立つ。
「ミーナおねえちゃんをいじめたら、ミミおこるよ」
「ミミ……」
こんな風に家族にかばわれたことなんて無かった俺は、なんだか胸の奥がジーンと熱くなった。鼻の奥も熱くなり、目の奥も熱くなり、何か汗のようなものが出てきそうだ。
「ミミ、このかわいそうなお姉ちゃん、一応、私の友達だから大丈夫だよ」
「ほんとに? ほんとにだいじょうぶ?」
「うん」
こんな小さな子にこんなことをさせるのって、あまり情操教育によくないよな。だから、仕方がない。ここは俺が折れてやろう。
「わかった……」
なんだか、ミミは納得していないみたいだな……。こんな小さな子にも、アナトのうさんくささが分かるのか?
「な・ん・で、私が悪い奴みたいになってんの?」
見るからに機嫌が悪そうなアナトの、更に不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「あー子供って、正直だから……」
やべー……アナトの顔がもっと不機嫌に……。
「あ、それより、今日は色々と教えてくれるんだろ?」
「……」
アナト、無言だ……。やっぱり、調子に乗りすぎたか?
「いや、さっきのは悪かった。ついつい調子に乗っちゃって……」
「……」
「俺も、いきなりこんな状況だろ? 不安もあってさ……」
「……」
「……アナトさん?」
「……」
「聞いてる? アナトさん」
無言を貫いていたアナトが、ぷいっと横に顔を向ける。あぁ、やっぱり機嫌悪くなっちゃってたか……。女の子の機嫌とりなんて、どうすればいいんだ? 甘いものを食わせる? って、そんなのここには無いしな……。じゃあ、見た目を褒めるとか? うーん……。それも、どこを褒めれば良いんだ? 胸がかわいそうなのが致命的だよな……。というか、俺に女の子を褒めるなんて高等技術は無い。
「……ま」
「ん?」
何か聞こえ、反射的に返事をする。
「秋鹿蒼真」
「ん? って、あ、俺の名前か……」
そういえばそうだった。ずっとミーナって呼ばれてたから、ちょっと自分の名前を忘れてたよ。
「なんなの? いきなりボーッとして、私と話したくないなら、別にいいけど?」
「いや、そうじゃなくて……。ごめん、ちょっと今は……」
なんだろう……。名前を呼ばれただけなのに、なんだか胸の奥が熱い。そうだよ、俺は秋鹿蒼真なんだよ。ミーナじゃないんだよ……。
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