第4話 三

「色々と手違いがあって、その説明に来たのよ」


「はぁ」


「とりあえず、お前はもう死んでいる」


「それ、さっき聞いた」


「まぁ、手違いで、死ぬ予定じゃなかったのが死んだので、色々あって今こうなったって感じ?」


 その色々ってなんだろう? というか、俺は死んで異世界に転生したって設定なのか?


「ということで、色々とあきらめてこの世界で生活をするように」


「最近、よくある設定だよね」


「そう? まぁ、分かってくれたのならそれでいいわ」


「うん」


「じゃあ、そういうことで!」


 微少女改めアナトが軽く手を上げ、颯爽とドアへと向かった。うーん……。まぁ、異世界転生は分かったけど設定がつまらないよな。それで、俺の特殊能力ってなんだ?


「あ、忘れてた」


 そう言い、アナトが戻ってくる。


「これにサインして」


 目の前に何か書かれた紙を出し、一ヶ所を指差している。ここにサインって、俺の名前を書くんだよな? それって、どっちの名前? というか、この紙って何? 何が書かれているのか見ようとしたら、アナトがいきなり手にした紙を自分の後ろに隠してしまった。


「それ、何?」


 俺は疑問を口にするが、アナトは紙を見せてくれない。


「いいから、サインして!」


「ふっ……」


「な、なによ! その顔!」


「内容も分からないのにサインする馬鹿がいるか?」


 そう、ここは夢の中だ。普段なら言えないことも、スラスラと言えてしまう。リアルの俺なら、何も言い返せずに黙って言われたとおりにサインしただろう。だが、今は違う。


「べ、別に変な内容じゃないわよ」


「じゃあ、見せて」


 俺は、ベッドから降りるとアナトに近づいた。アナトは、紙を後ろに隠したまま後退る。俺が前に進むと、アナトが後ろに下がる。それを何度か繰り返して、アナトはついに壁にぶち当たった。リアルの俺なら、こんな強気な行動って出来ないよな。夢ってやっぱ凄いわ。


「もう、今日はいいわ」


 そう言い、後ろに紙を隠したまま、壁に沿ってアナトは横移動を始める。


「明日、また来るから!」


「ちょっと待って」


 ドアに向かうアナトに向かって、通称、壁ドンをする。イケメンのみが許される、超必殺技だ。一回ぐらいやってみたいと思っていたけど、俺、今は女の子みたいだし……なんだか微妙? でもまぁ、夢だしこれでもいいか。


「な、なによ?」


「その紙、見せて」

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