第37話 君達、お笑い芸人?って状況なんだが?

「さぁ、そろそろお客様がご到着します。こちらへ…」

サオリの言う『お客様』とは、言わずもがな、勇者と賭博神である。


俺は、サオリに言われるがまま、『闇空間』に身を潜め、頭半分を出して、周りを見ながら時を待つ。


普通に隠れててもいいのだが、やはり、2人の顔を拝みたい。


(どんな顔をして来るのやら…)

とか思っていると、サオリはサオリで、山の影に潜み、同じく頭半分出して、様子を見ている。


「ニヤリ」byサオリ

「ニヤリ」by俺

2人で顔を合わせ、ニヤニヤしてしまう所が、サオリたる所以であり、俺たる所以なのだ。


もちろん、俺がサオリに毒されているのは間違いない。


たぶん…(自信なし)


そこへ、王妃から念話が届いた。


『ありがとうございます』

『別にいいよー!』

『で、ですね…』

本題はお礼ではなかったようだ。


『賭博神とは、タイマンはしないでください。危険です』

『なんで?』

『私が、5竜を召喚した時…』

『あ、来たわ!ごめん』

『ちょ!』

プツッ


王妃は、何かを言いたげだったが、時間切れだ。


先に勇者が到着した。


勇者!瞬殺してやんよ!勇者!瞬殺してやんよ!勇者!瞬殺してやんよ!勇者!瞬殺してやんよ!


木霊は、未だに廃鉱山の中で鳴り響いている。


ギュゥゥーーン!!


「うおぉぉーー!!誰が誰を瞬殺するってぇー!!お前こそ、この45が瞬殺してやるわぁぁーー!!」


(プッ!)

魔王が第45魔王、勇者が勇者45号…これは笑うしかない。


「「「「ギャハハハハハ!」」」」

やはりというか、当然というか、鉱山の中から、思いっきり笑い声が聞こえる。


勇者45号!勇者45号!勇者45号!勇者45号!勇者45号!

わっしょい!わっしょい!

勇者!瞬殺してやんよ!勇者!瞬殺してやんよ!勇者!瞬殺してやんよ!勇者!瞬殺してやんよ!


「そっちか!待ってろよ!!今すぐ黙らせてやる!!」

勇者、案の定…顔真っ赤!


んー。

これはあれだ。

みんな、変なテンションになっているんだ…。

いい挑発になってる。

これはウケる!


今から皆んなの、が楽しみである。


☆☆☆


(賭博神を無視して、勇者のおちょくりに参加しちゃダメかな?)

などと考えてる俺がいる。


そうこうしているうちに、おちょくり作戦が決行されたようである。


『ナナ、行きまーす!』

『カナ、行きまーす!』


しばらくの沈黙…。


「ぎゃぁぁぁーー!!」

そして、勇者の叫び声。


『マオも入りまーす!』


「ぎゃぁぁぁーー!!」

またもや、勇者の叫び声。


『レイナも混ざりまーす!』


「ぎゃぁぁぁーーー!!」


『ヨウも参加しまーす!』


ズッデェェーン!

「いってーー!!」

「「「「ギャハハハハハ!!」」」」


想像

勇者、転ぶ

頭を打つ

叫ぶ

みんな笑う


(君達、いったい何をしているんだ?)


ソワソワ…。


ダメだ!見たい!

リアルで見たい!!


「サオリ…中に入ったらダメかな?」

「どうでしょう…クスクス」

「もしかして、サオリは全部見えてる?」

「はい。影と闇のはざまから…」

「ちょ!解説解説!!」

「クスクス」

「おい!!」

「クスクス」

「………」


何か、無駄にサオリを楽しませてしまっている俺。


クッソー!!


それからしばらくして、鉱山の入り口が塞がり出した。

これはヨウの仕業で間違いないだろう。


見たい見たい見たい見たい!

賭博神!来んな来んな来んな!!


これが、今の俺の本心である。


だが、そんな期待を裏切るかのように賭博神はやって来てしまった。


(賭博神、いらねー!)


☆☆☆


ギュゥゥーーン!

ピタッ!


賭博神は空中で止まり、俺を見下げた。


(まさに上から目線だな…上等だ!)


スッ…。


俺は、賭博神が名乗りをあげる前に、闇空間から出て、再び光魔法を放つ。


ドン!

『賭博神!ぶっ殺す!』

光魔法に音声が加わり、俺の代わりに喋ってくれる。


俺自身はもう、勇者が気になって気になって、喋る気も起きないのだ。


(こいつを瞬殺して、勇者をおちょくりに行かねば!)

俺の中では、すでにが抜け落ちてしまっていた。


それもそのはず、鉱山の中では、想像する限り、めっちゃ楽しい事が起きているはずなのだ!

時間が惜しい!賭博神、どうでもいい!


「お前か!俺を『ぶっ殺す!』とか言った奴は!!」

「あー、そうそう」

「やれるもんなら、やってみろ!神を舐めんなよ!!」

「あー、そうそう」

「貴様!俺を舐めてんのか?!」

「あー、そうそう」

賭博神が何か言っているが、適当に返事をして、鉱山内で起こっているであろう、に思いを馳せる。


「貴様!せめて、こっちを見ろ!!」

「クスクスクスクス…あははは!あー!ダメ!ご主人様!せめて賭博神を下さい!私、ツボに入っちゃいました…失礼します…クスクスクスクス」


スッ…。


サオリが、いつになく大笑いをしているので、賭博神ではなく、サオリの方を見てしまった。

んで、サオリは、堪えきれずに影の中へ…。


これを、ちまたでは『笑い逃げ』と言う。

第三者が、笑うだけ笑って立ち去るだ。


当人にとっては、たまったもんじゃない。


しかも、笑われてるのは、ギャンブル依存症だと予想できる転生者だ。


ギャンブル依存症の人は


(このまま、いじくり倒してやろうか)

とさえ、思えてくる。


もちろん、勇者のおちょくりが見られないに…だ。


とりあえずは…。


①顔を見てやらない

②わざと無視


この辺からいってみようか…。


「貴様だ!貴様!俺を誰だと思っている!」

「………」

「賭博を司る神であるぞ!控えおろう!!」

「プッ!お前は助さん角さんかよ!」

不覚にも、思わずツッコんでしまった俺。


あー、ダメだ…無視できない!


控えおろう!

これ、自分で言うか?普通…。


つか、いつの時代から来たか、もう分かってしまったわ!


この、昭和人間め!!


ジャンケンを『賭博ー!』とか言ってそうだ。


確かに、賭け事には勝ち負けがある。


だが!

広い範囲で言えば、コイントスもジャンケンも、賭けの対象にしようと思えばできるっちゃできるのだ。


金を賭けた時点で違反なだけで。

見つかったら処罰されるだけで。


しかし、異世界では日本の法律は適応されない。


だからなのか、ギャンブルギャンブル言ってる割には、どうもが悪目立ちする。


ギャンブルをしなくても、タイマンを張らなくても、言動では分かる。


控えおろう!

これにツボってしまったからな。


賭博神を名乗ってるくせに、俺を笑い死にさせる気かよ!


勘弁してくれ!頼むからっ!

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