第36話 ツナギ刺繍の有効活用

今一度、マップを確認する。


現在地は王都の冒険者ギルド、訓練所の中だ。

そして、王妃もまた、冒険者ギルドの応接室に居る。


何故、王妃が応接室にいるのか…。

それは、ギルドマスターの部屋は王様の寝室となっているため、王妃は応接室で執務をこなしているという事になる。


実質、ギルドマスターになっている王様はであるのは間違いない。


だが今、ここに『賭博神』と『勇者』の襲撃を許すわけにはいかない。


王様はどうでもいい。

だが、王都自体を荒らされるわけにはいかないのだ。

大半の国民に罪はない。


排除するべきは、ギャンブルに興じて堕落している連中、および、賭博神を崇める信徒達だ。


ギャンブルをするのは構わない。

それをとして生活している人々も多いからだ。


だが、それを利用して、職業を変えてしまうのは、当人達にとっては、とても厳しい環境になっているのは間違いない。


その混乱を信仰という形で、どんどんと信徒を増やし、取り込んで力にしている。

国民の混乱は、信仰心を煽るには打ってつけだからだ。


それは地球でも、時代が証明している。


なんていやらしい奴だ!

流石、転生者というべきか、地球人というべきか…。


ここまで考え、行き着くのは、ギャンブルというキーワード。


転生者は、前世でギャンブル依存症だったのではないか?


神を名乗るだけあって、ギャンブルに固執しているのではないか?


神を名乗り、供物を要求するあたり、もしかしたら『働いたら負け』という、日本でいうところの、働かず、でギャンブルに興じる類の人種ではないか?


とさえ思えてくる。


ここは魔法が使える異世界だ。

イカサマだってやりたい放題だろう。


だが、そこまでの推測が合っていたとしても、実際にここで『賭博神』の進行を許してしまったら、更にここ、王都に混乱を招くのは火を見るより明らかだ。


(ふむ、嫌だが…めっちゃ嫌だが、やるしかないか…)


そうして俺は、決意をするしか無くなってしまった。


タイトルにあるだろ?

それだよそれ!


仕方ねーだろ!

考えてる時間はない!


俺に選択肢はないんだ!

クソが!


☆☆☆


ここで、ツナギに縫い付けてある刺繍を、今一度確認してみよう。


『喧嘩上等』が金色、背中。

『ぶっ殺す!』が白、右腕。

『瞬殺してやんよ!』が緑、左腕。

『かかってこいや!』が赤、右足。

『俺!最強!』が水色、左足。

『お尻ぺんぺん』が茶色、お尻。


これが、何のリスクもなく…いや、ある意味リスクはあるか…。


属性魔法が使える刺繍、音声付き。

リスクは、もちろん音声だ。


だが、『賭博神』と『勇者』が、同時に王都に向かっている、この一大事には、好都合でもある。


このリスクを、逆利用するのだ。

嫌だけど!


「サオリ!この大陸で、1番広くて、周りに被害が及ばない場所に移動できるか?」

「もちろんでございます」

「よし、んじゃ、ナナは刺繍に『賭博神!』という文字を追加してくれ!」

「はいっす!」

「でだ!カナは『勇者!』を追加な」

「わかったー」


(よし!)

これで、両腕に煽り文句はできた。


「サオリ、頼む!」

「はい、影転移!」

「「「私達も行くー!!」」」

俺の合図で、全員が転移する。


いやいや、全員来なくても良くね?


『影転移』で来たのは、大陸の中心部、廃鉱山とおぼしき、枯れ山の中腹。

使われていないと、一目でわかるが、入り口は無数にある。


「さてと…ここを更地にして…」

「「「え?」」」

「ん?更地にして、戦いやすくするんだよ?何か問題あるか?」

俺は正論を言っているはずだ。


だが、みんなは更地案に反対なようである。


「おそらくは…ゴニョゴニョ…」

サオリは、みんなの意図を理解したのか、俺に耳打ちをしてきた。


「あー!そういう事な」ニヤリ


「「「「ニヤリ」」」」


こいつら…性格わっるいわぁー!!


「よし!全員配置につけ!」

「「「「ラジャー!!」」」」

俺の合図を受け、サオリ以外が廃鉱山の入り口に入っていく。


作戦はこうだ。

勇者は、廃鉱山内で、みんなが

賭博神は、闇空間で俺が対峙して退治する。


「さむっ」

「ん?」

「いえ、何でもありません」


今、サオリにバカにされた気がしたのは思い違いか?


☆☆☆


「さて、やるか…まずは…」

俺は、左腕を廃鉱山入り口に向け、風魔法を使う。


「風魔法!エアショット!」

「エアショット!エアショット!エアショット!エアショット!エアショット!エアショット!」


ドン!ドン!ドン!ドン!

俺は、入り口すべてにエアショットをぶち込んだ。


『エアショット』

いわゆる、風の弾丸。

イメージする殺傷能力はほぼ無し。


そして、程なくして鉱山内に木霊する音声。


勇者!瞬殺してやんよ!勇者!瞬殺してやんよ!勇者!瞬殺してやんよ!勇者!瞬殺してやんよ!勇者!瞬殺してやんよ!勇者!瞬殺してやんよ!勇者!瞬殺してやんよ!勇者!瞬殺してやんよ!勇者!瞬殺してやんよ!勇者!瞬殺してやんよ!


「「「「ギャハハ!!」」」」

木霊する音声に反応して、みんなの笑い声まで反響している。


続いて、天空に右腕を掲げ、魔法を発動!


「光魔法!ライトニングショット!」

ライトニングショット!ライトニングショット!ライトニングショット!ライトニングショット!

これも、風魔法同様、殺傷能力は皆無に等しい。

音声さえ響けばいいのだ!


賭博神!ぶっ殺す!賭博神!ぶっ殺す!賭博神!ぶっ殺す!賭博神!ぶっ殺す!賭博神!ぶっ殺す!賭博神!ぶっ殺す!賭博神!ぶっ殺す!賭博神!ぶっ殺す!賭博神!ぶっ殺す!賭博神!ぶっ殺す!賭博神!ぶっ殺す!


天空に『賭博神!ぶっ殺す!』という音声が響きわたる。

この音声に関しては、大陸中に響き渡っている事だろう。


勇者は俺狙い。

賭博神は王妃狙い。


だが、大陸中に響き渡った音声を聞けば、王妃なんか放っておいて、俺の元に来なくちゃいけなくなる。


何故なら、神を名乗っている限り、ぶっ殺す発言は無視できないだろうからだ。


マップを確認する。


「作戦通り…ニヤリ」

案の定、勇者は猛スピードで、賭博神は、王妃から、標的を俺に変え、これまた猛スピードで、こちらに向かってくる。


とりあえず、王都と王妃の安全は確保された。


クソ刺繍も、俺自身が使うなら嫌すぎるが、文字通り、には、打ってつけの効果をもたらす。


今頃、勇者も賭博神も、顔を真っ赤にして、こちらに移動している事だろう。

ザマァ!だな!


ハッハッハ!

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