第35話 王妃に振り回されている感が半端ない

「ふぅ…」カチャ…。

ただ今、冒険者ギルドの訓練所。


テーブルを囲み、出されたお茶を飲んで一息つく。


王妃の傍らには、専属メイド2人。

俺の傍ら…もとい、後ろには、7人のメイドが並んでいた。


「結構大変だったよー」by土神ヨウ

「お疲れ様」byサオリ&ナナ

「ご主人様が、王妃と敵対しなくて良かったです」byレイナ

「同じく」byマオ

「あれはヤバかったね」byカエデ

「確かに」byカナ


何故、先程まで別空間で、勇者を倒す云々の話をしていたのに、また訓練所に戻ってきているのかというと、それにはちょっとした訳がある。


端的に話すなら、『敵の攻撃を受けた』からなのだ。


この国の神は『賭博神』。

勇者に狙われる俺。

倒す前に神に取り込まれたら、神が2人になり、殲滅が難しくなる。


など、一通りの注意事項と、ある程度の話が終わったタイミングで、いきなり地鳴りが鳴り響いた。


どんな攻撃を受けたのかは定かではない。

だが、間違いなく、別空間から、サオリ&ナナの空間への干渉があった。


マリナ王妃が条件として提示していた『傍受阻害結界』が、誰かに気取られ攻撃されたのだろうと推測はできた。


何故なら、要望があったのは、ではなく、だったからだ。


そこから導き出される答えは、王女達の口が固かった事に加え、マリナ王妃がを依頼してきた事で、神や勇者にとって、マリナ王妃からの情報漏洩が、となっていたからだ。


それ以外に、攻撃を受ける理由がない。


そこで、この国…もしくは、この世界では、神や勇者にとって、内容は話してはならない。

つまり、知られてはいけない。

という結論に至る。


供物を備えなければ天誅、いらん事を話したら天誅。

まぁ、そういう事だ。


もっとも、今回の場合、という時間が、神や勇者にを抱かせ、攻撃の理由を作ってしまった…という感じだ。


攻撃されていると感じた俺達は、一旦、変な動きを見せないように、訓練所でお茶をする事にした。


ツンツン…ツンツン

クイックイッ


マリナ王妃は、天高く指を上げ、無言でツンツン、その後、横に指をやってツンツン。

人差し指と親指を重ねて、口元にクイックイッ。

なんともおかしなジェスチャーである。


おそらく、俺達以外には通じないであろう、ざっくりとしたジェスチャー。


手話ではない。

大事な事なので、しつこく言う!

本当に、ただのジェスチャーだ。


解読すると、こうなる。


ツンツン

(敵が攻撃してきているので)

ツンツン

(一旦、訓練所に戻って)

クイックイッ

(お茶しましょう)


んなもん、わかるかーい!!


☆☆☆


マリナ王妃は監視と称して、未だにスクワットをしている男に厳しい目を向ける。

「そろそろかな?」

「何が?」

「さて、このまま、街に放り出すか…」

『私の言葉には反応しないで下さいよー』

『わ、わかった』

喋りながら念話をするマリナ王妃。


実に器用である。


「こい!!結局、お前だけしか生き残らなかったな…褒美に、命だけは助けてやる!メアリーよ!連れて行け!!」

『とりあえず、この国の地図を送りますね』


シュッ!


マリナ王妃は、『連れて行け!』と、手をシュッとした瞬間、俺にマップを送信してきた。


(実に器用だ)


見た目には、マップを送ったとは気づかない。

スクワット野郎を連れ出す指示にしか見えていないのだ。


カチャ…。


俺は、その光景を見て見ぬ振りをし、カップに手を伸ばしながらマップを確認する。


王都は、大陸の中心より上、上から3分の1ぐらいの場所に位置する。


やはり、な、城を中心に円を描くように城壁が作られていた。

王都の外が貴族街、その外が商業区、さらに平民街があって、農業、畜産業区となっている。


簡単に説明するなら、五重丸といったところか…。


そこから北は天界領、神殿や教会がわんさかある。

そこから南は、各地に点々と、村や街があり、公益幹線は充実しているようだ。


最初に行った歓楽街は、遊郭領と言い、この大陸のエロを詰め合わせたような場所だという事がわかった。


だが、各地に領主はいない。

何故なら、ギャンブル大国であるがゆえ、職業がシャッフルされているからだ。


忘れているかもしれないが、今、ギャンブル大国エキサイトの王族はである。


忘れてただろ?w


☆☆☆


さて、マップを受け取った俺だが、マリナが言ったの意味がわからない。


攻撃してきた相手すらわからないのだ。

マップがあろうがなかろうが…それで何かがわかるはずも…。


(いや、待てよ?)


俺は、何となく…本当になんとなくだが、マリナがマップを送ってきた理由がわかってしまった。

それと同時に、嫌な予感が頭をよぎる。


「………」

ふむ。これは、ここでゆっくりとお茶をしている場合ではないかもしれない。


「探知…」

俺は、マップにを念じながら、探知を発動する。

ここで注意しなければいけないのは、魔力を使う事。

あと、明確に対象の名前を口にしない事。


魔力制御が完璧ではない俺が、対象の名前を口にすれば、それは詠唱と同じ効果をもたらし、相手に気取られてしまう。


「よし、上手く発動した…」

マップに映し出されたのは、マリナ王妃と、そこへ向かう謎の光。

俺の現在地と、ここへ向かう謎の光。


レーダーとかでよくある、ピッコンピッコンする光だと思ってもらえば、わかりやすいだろうか…。


そして、謎の光の正体は、ほぼ確定している。


傍受阻害を使った王妃の口封じ…相手は『賭博神』。

魔王を倒した俺を狙う『勇者』。


これで間違いないだろう。


ここで問題発生だ。

この大陸にいた第45魔王…それに相対する勇者も、おそらくは第45勇者とか、そんな感じの雑魚い奴…これはスルーで良い。

問題は、この大陸をギャンブル大国にしてしまった『賭博神』。


勝つか負けるかの勝負で、勝ち続けるだけの運と実力(主にイカサマ)がなければ、神は名乗れないはずなのだ。

下手な力自慢の奴よりも厄介なのは明白だ。


「さて、どうするかな?」

今まで、王妃が『賭博神』のルールに甘んじてきたのは、何か思惑があっての事だと推測できる。


それを、俺のワガママ(情報収集)のために、不意にするわけにもいかない。


いつから、『賭博神』が暗躍していたのかは聞きそびれた。

何故、今までギャンブルルールに甘んじてきたのかもわからない。


今、王妃を失うわけにはいかないのだ。


(あ!)


ようやく、王妃がマップを送ってきた理由にたどり着いた。


その理由とは…。

『秘密を喋った私を守って』だ!

これしかない!


なんてこった!

この国の秘密を聞いた俺に、意図してなかったというおまけが、否応なしについてきたって事だ!


どおりで、ペラペラと内情を話したわけだ。


傍受阻害結界がなければ、即攻撃を受けていたかもしれない。


だが、内情を喋るだけの時間は作られた。

結果、俺は内情を知る事ができた。


だが、こうして勇者に狙われながら、王妃も守らなくちゃいけなくなったというわけだ。


それが計算なのか、はたまた偶然なのか…。

どちらにせよ、俺は『賭博神』と『勇者』を、ほぼ同時に相手をしなければいけなくなった事は覆りそうにない。


マリナ王妃…案外、食えない奴だ…。


どんどんと深みにハマっていっているのは気のせいだろうか…。


まーためんどくさい事になってきたわぁー!!

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