第34話 王妃の本質と異世界の常識非常識

「では、改めまして」ぺこり

王妃は、最初とは違い、とても穏やかな表情で一礼をする。


「あ、どうも」ぺこり

釣られて挨拶をする俺。


人の態度により、こちらの態度も変わってくる…良くある話だ。

礼に対しては礼で返す。

失礼に対しては失礼で返す。


「まずは、タイマン勝負の勝利、おめでとうございます」

ん?タイマン??

君、5神竜で攻撃してきたよね?


「私の名前は…ステータスをご覧ください」

手を抜きやがった!


「鑑定!」


名前 マリナ•インフェルノ

(元名) 鬼龍院麻里奈

年齢 321歳


種族 龍人族

称号 龍神の巫女

属性 全属性


HP 100万

MP 50万


得意魔法 終焉魔法

得意スキル オール•キャンセラー

備考 元インフェルノ大帝国初代皇帝


ざっくり見た限り、名前以下、何かにつけてで、魔法やスキルが物騒極まりない。


「確か、レイナも『水円の舞い』とか使ってたよな?」

「はい。コロシアムでは、終焉魔法の応用を使いましたね」

レイナが、静かに答えた。


ん?応用??


「マリナさん、本来の終焉魔法って、どんなの?」

「えと…天空から、その属性の魔法を、対象にズドン…かな?」

わからねー!!


「マリナさん、転生前に住んでた場所は?」

「大阪ですけど何か?」

やっぱりかぁー!!


何かにつけて、大雑把なのはが原因だわ!


「不老不死のマモルさんはおいくつ?」

「ん?17…って、こっそり覗き見してんじゃねー!!」

「キャハハハハ!おもしろーい!」

こいつ、これが本当の性格か?


今や、訓練所でスパルタをやっていた、この空間で容赦なく魔法をぶっ放していた、その本人とは全くの別人になっている。


王妃曰く

スパルタ訓練をさせていた奴らは、死んでもいいクズばかり。

厳しい雰囲気を出さないと、国民が舐めてかかり、神側に肩入れしてしまう。

結果、ギャンブルにハマり、神の養分となってしまう。

との事。


元来、お笑いが好きで、争いは好まず、みんなが笑って暮らせる国を目指していた。

らしい。


(天然が入ってやしないかい?)

とツッコミたかったが、あえて伏せておいた。


王妃、マリナ•インフェルノ

本来の性格は、優しく、気高く、気さくなお姉さん。


俺は、こう結論づけた。


☆☆☆


「この国を支配しているのは、実質、神と悪魔なのです。どちらも雑魚なのですが、厄介なのは、やはり神でしょうか…」

「というと?」

「この世界に於いて、悪魔は人の悪意や殺意を糧として生まれます」

「うんうん。それは知ってる」


「しかし、神は名乗っているだけで、その実態は全員が転生者なのです」

「へ?」

「自分の得意分野を人類に押し付け、供物を巻き上げるような、堕落した奴らなのです」

「つまり、元人間が神を語って世界征服を狙っていて、悪魔は悪魔で世界征服を狙っている…で、その中間に居る人類が、そのを受けていると?」

「そうなります」


「でも、この国の悪魔…魔王は倒したぞ?ちょー弱かった」

「なるほど…って、えぇーー!!」

しばらくの間は、一問一答をしていたのだが、ここに来てマリナが目をひん剥いて滅茶苦茶驚いた様子で叫んだ。


「どうした?」

「不味いですよ!先に魔王を倒しちゃ!」

「え?意味がわからんのだが?」

何に反応しているのかがわからない。


『先に』…つまり、倒す順番があるって事だ。

何の順番だ?ってなる。


「いいですか?マモルさん!」ガシッ

マリナは、俺の肩を掴んで、自分の方に向け、真剣な顔で訴える。


「この世界の勇者も、神と同じく転生者なのです!」

「え?あ、うん。だから?」

「マモルさんも地球から来たのならわかるでしょう!」

「な、何が?」

「魔王が居るから勇者がいる!」

「ま、まぁな…」

「勇者は魔王を倒す正義の味方!」

「ま、まぁ、おおよそ、そういう展開だわな」

「ハァァァァーー…」

マリナは、大きくため息をついた。


(???)

いったい何が言いたいのか…こいつは…。


まるでわかっちゃいない!

と言わんばかりに、深呼吸をして今一度、俺に向き直り、目をクワッとさせて、こう言い放った。


「魔王がいなくなった国の勇者は、その国の神になるのです!!」

「は?」

「魔王を倒した勇者は、人々から崇められ、を受けたと称して、神を名乗るのです」

「え?倒したのは俺なんだが?つか、連れ去られただけだけど…繁殖魔王とか言ってたし」

「なんと!それは、以外はからっきしダメな下級悪魔、種魔しゅまですね…この国にいた魔王は、あいつでしたか…」

それが何か?


「何が問題なんだ?」

「勇者は、魔王を倒さなければ崇められません。他の人が魔王を倒した場合、倒した奴を狙ってきます」

なんてこった!

俺、勇者に命狙われるの?


勇者と魔王

これは、ほとんどの異世界物に出てくるテンプレなキャラ設定。


だが、この世界では、勇者は必ずしも正義ではなく、魔王は必ずしも悪ではない。

という事らしい。


そして何より、マリナは言った。

「魔王がいなくなった国の勇者は、その国の神になるのです!!」


そう、『世界』ではなく『国』と。


魔王を倒せなかった勇者は、魔王を倒した奴を倒す。

これから、勇者に狙われるであろう俺。


各国には、それぞれ勇者と魔王が居る。

倒すべき優先順位は

勇者(転生者)

魔王(悪魔)

神の信徒(異世界人)

神(転生者)


この順番を間違えると、話がややこしくなるという。


「いいですか?この世界に、国家間の戦争という物はありません」

「まぁ、それどころじゃないからな…魔王がいるなら…」

「倒すべきは、神を増やさないために勇者!」

「あ、あぁ…」

「それから魔王!」

「神を崇める信徒を制圧して…」

「う、うんうん」

「孤立した神を倒す!これが、この世界における、最短のクリア条件なのです!わかりましたか?」

「お、おう…」

マリナが、王妃というよりは、先生みたくお説教をかましてくる。


「では、魔王を先に倒してしまった責任をとって、勇者を葬ってきてください!この国の神『賭博神』に取り込まれる前に!!いいですね?」

「は、はいっ!!」


知らんがなぁーー!!って叫びたいのを我慢して、俺は頷く他、選択肢は残されていなかった。


なんちゅー世界やねん!!


めんどくさっ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る