第31話 水神と炎神の裏切り?
「負けてしまったからには仕方がない。お前のために時間をとろう」
「助かる」
「だが、先程も言ったように、あやつらに休憩を与えるつもりはない!あやつらに…」
パチン!
俺は、指を鳴らして魔法を発動した。
イメージは『強制運動』
意思に関係なく、体が勝手に動くイメージだ。
王妃の話を聞いていたら、また何らかの勝負をさせられ兼ねない。
理由はわからないが、あやつらにスクワットをさせ続けられれば、王妃も文句はないはず。
「これで、俺が解除するまでやり続ける…異論は?」
「な、無い…」
「それじゃ、賭けをしよう」
「俺が勝ったら、俺の望む質問すべてに答えてもらう。俺が負けたら、王妃の願いをひとつ何でも叶える…どうだ?」
「すべてか…少々、条件を付けさせてもらえるなら…」
ん?
普通は、『何でも』に反応するところじゃね?
今の言い方だと、負ける前提で話が進んでる…よな?
「いいよ、何でも言ってくれ」
「なら…私が負けたらすべてを話そう」
王妃は、何やら覚悟を決めて、顔を引き締めて、俺の提案を了承した。
王妃の条件は、別空間での対戦。
訓練所では狭いから…との事。
そして、傍受阻害結界の展開。
何故、それが必要なのかは聞かなかった。
勝負の行方がわからないからだ。
つまり、王妃が負けた場合に限り、傍受阻害結界を必要とする内容が、俺の提示したすべての質問に必要になるって事だ。
誰かに聞かれたくない内容が含まれる
と解釈してもいいだろう。
「さぁ、王妃が勝った時の報酬、何でもひとつ、願いを叶えるから言ってみろ」
そう、王妃にも賭け対象を提示してもらわなければ、勝負の対価は成立しない。
「それも質問と受け取る!私の願いを聞きたかったら、まずは私に勝ってからだ!!」
またかよ!
ちょーめんどくせーよ!!
☆☆☆
別空間は、サオリ&ナナが作った『
濃い影が光の影響で、多少薄くなったような感じだ。
日中に、太陽にあたってできる影。
夜に、月明かりでできる影。
どちらが濃い影かは、言わなくてもわかるだろう。
この空間は、前者の影が広大に広がっていると思ってもらってもよい。
真っ暗でなくてよかった、光空間だけでなくて良かったと思うのは、俺だけではないはず。
明かりのない闇夜に身を置く。
太陽の直射日光を見続ける。
そんな状況は、どちらも苦痛にしかならないからだ。
「はじめ!!」
サオリが、またもや手を振り下ろしてバトルが開始された。
別空間に移動する
↓
はじめ!
まったく予備動作も、心の準備もあったもんじゃない!!
ある程度、配置についた時点で、前置きもなしに始めやがったサオリ…。
まぁ、らしいっちゃらしい。
だいぶ慣れてきた自分を褒めてあげたいぐらいだ。
ちなみに、傍受阻害結界は雷神カエデと風神カナに担当してもらっている。
全力を出すため、俺のそばから離れている。
「獄炎気球!アースブラッド!!」
王妃が魔力をあげ、大きな魔法陣を頭上に幾重にも重ねて魔力を練り上げている。
この様子だと、発動には多少時間がかかるようだ。
それを完成まで待ってやる義理はないのだが、この時間を使って俺の装備を整理してみよう。
闇のサオリと光のナナは、遠く離れているので加護は無し。
雷のカエデと風のカナは結界に従事しているので加護は無し。
土のヨウは、忙しいと言っていたが、何やらサオリに頼まれて、そもそもここにはいない。
水神レイナと炎神マオは、棄権するからと離脱してて…。
今、王妃の魔法に加護を与えて、威力の増大に勤しんでいる。
つまり、今の俺には誰の加護もない…制御がまったくできない状態…ん??
(え?)
えええええぇぇーーー!!
おい!
まてまてまて!!!
レイナとマオは、何で王妃の手伝いなんかしてんの?
「おーい!」
「「………」」
無視かよ!!
ドォーン!!
そうこうしているうちに、膨大な熱量を持った火炎の球?星?が出来、こちらに発射されてしまった。
ゴゴゴゴゴゴォォーーー!!
先程までは、王妃の真上にあったので、形を認識出来ていたが、発射された今、目の前一面は、炎の壁とも言える物騒な物が広がって、何も見えない。
そもそも、別空間に大きさの概念はなく、宇宙と違って、様々な星も無い。
つまり、比較対象物がないために、距離感がつかめないのだ。
現在、リミッターの無い状態な俺。
目の前には、広大に広がる炎の壁。
魔力を抑えるだの、イメージするだの、悠長な事はしてられない。
ここは、回避の一択だ!
「空間転移!!」
俺は焦りからか、思わず何の座標も距離も定めずに詠唱をしてしまった。
シュン!!
それに気づいたのは、恐ろしくでかい火の玉が、ピンポン玉に見えるぐらい離れた場所に移動してからだった。
「あ、やりすぎた」
そう、俺は先程居た場所から、かなーり遠くへ転移してしまっていたのだった。
距離感が掴めない。
どれだけ離れたのかもわからない。
何故、レイナとマオが王妃側に居るのかもわからない。
別空間だから、距離感が掴めないのは仕方がない。
あの火の玉が、どれくらいの大きさかは、これから調べればわかる。
だが、レイナとマオの行動だけは意味がわからない。
2人に何があったんだ?
☆☆☆
特大だった火球が、次第に大きくなっていく。
ゴゴゴゴゴゴォォォォーーー!!
「鑑定!探知!うわっ!」
オオォォーーン!
(あ、あっぶねー!)
先程までピンポン玉ぐらいだったはずなのに、一気に俺の横を通りすぎて行った。
来る時の音と通りすぎる音は、俗に言う『ドップラー効果』というヤツが発生している。
訂正しよう!
王妃との距離がわからない。
火球の大きさがわからない。
その火力がわからない。
そして、速度がわからない。
ここは宇宙のような真空の空間ではない。
ただの、だだっ広い別空間だ。
空気があるから火球も出せるし、空気の振動も伝わる。
いかんせん、比較対象物がない、どこまでも空間が広がっている。
この二つの条件によって、俺は王妃と対峙すら出来ていないのだ。
そんな事を考えていると、次の瞬間、物凄いモノが俺目掛けて飛んでくる。
5色の光の塊だ!
バシュウゥゥーー!!
「ダァー!!」
あまりの勢いに、俺は仰け反るように、ダイブジャンプで何とかソレを凌いだのだった。
『捕捉しましたよ!』
次に来たのは、王妃からの念話。
『オール•キャンセラー!!』
「は?」
王妃の姿は視認出来ない。
だが、確かに王妃は、俺を『捕捉した』と言った。
つまり、何らかの方法。
例えば、視覚拡張で俺を視認。
もしくは、探知で俺の魔力を感知。
そんな感じで、とにかく、王妃には俺の居場所がバレているのだ。
そして、何らかの魔法をかけてきた。
チカッ…。
グオォォォォォォーー!!
そうこうしているうちに、空間の彼方へと飛んでいったはずの火球が戻ってきた。
更に勢いを増して…。
(チッ!追尾型かよ!!)
良くも悪くも別空間。
障害がなく被害は出ないが、反対に何かにあたって弾け飛ぶ…というシチュエーションも期待できないようだ。
そこへ、間髪入れずに先程の、5色の光の塊。
「ご主人様!ご容赦ください!」ベシッ!
「ご主人様!ごめんなさい!」ドカッ!
「グヘッ!!」
ヒューーー!!
今の声は、間違いなくレイナとマオの声だ。
あいつら、俺を蹴飛ばしやがった!!
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