第30話 さぁ!1000km走勝負だ!!
「それでは!よーい!スタート!」
サオリが上げた手を振り下ろして、王妃us俺の、1000km走の勝負が始まった。
ドン!
一気に空気が震えてる。
王妃がスタートダッシュする瞬間、空気砲が放たれたかのような勢いで飛び出したのだ。
すでに300…500
目を離したら、一瞬で周回遅れになりそうだ。
「やるなぁ…なら、俺も…」
バシュン!
一気に踏み込み、スタートする。
スクワットをしていた連中は、壁に激突し、あたかも何かのギャグ漫画のような、壁のオブジェと化していた。
「あぶねーあぶねー、周回遅れになるとこだったわ」
一周する瞬間、ようやく俺は王妃にたどり着いた。
「ふん!これぐらいやってもらわねば拉致があかんわ!ほらそこー!いつまで壁にへばりついておる!」
ブワッ!
走りながら、壁のオブジェと化した奴らに火炎弾をぶっ放している。
案外、器用だ。
「まぁまぁ、そう固い事言うなよ…つか、この速度だと、俺以外には聞こえてないと思うぞ?」
「………」
「無視すんなよぉー!楽しく勝負しようぜ」
「うるさい!爆速エンチャント!!」
グオン!!
王妃が、自身に何を付与したかは定かではない…が、俺を突き放しにかかっている事は確かである。
からの、即座に追いついて見せた。
何の事はない、ただ、回転を上げただけだ。
『回転』とは…もちろん、足を動かす動作の事。
背の高い人に合わせて、背の低い人が歩行を同じにしようと思えば、結果的に歩数は、背が低い人の方が多くなる。
それに慣れてしまうと、1人で歩いていても、自然と早歩きに見える歩き方になってしまう。
回転数を上げるとは、回転している物だけを指すのではない…って、言いたかっただけな。
一応。
「なぁなぁ…今のは、付与魔法だろ?良く体がもつよなぁ…最初のダッシュだけでもGがかかってて、相当キツイと思うんだが…」
「!!!」
はい!凛としていた王妃の驚き顔、いただきました。
「つーかよー!!なんで空中飛んでんの?『爆速』を使ってから、走ってねーだろ?お前」
「ふん!先程、私は何と言った?『そんな事は、1000本走ってから言え!まずは1000km勝負だ!』と言ったんだ!私は含まれておらん!!」
『そんな事は、1000本走ってから言え!まずは1000km勝負だ!』
いや、確かに王妃はそう言った。
確かに、俺に対して言った言葉だ。
「それってずるくね?」
「私に時間をとらせたいのだろう?」
「そうだ」
「だから、こうして勝負をしている」
「そうだ」
「そう、私の言葉に同意したのはお前だ…違うか?」
「つまり…」
「お前は走る…私はどんな方法であっても良い…という事だ」
「それって詭弁じゃね?」
「騙してはおらん、わたし《《も》走ると思ったのは、お前が勝手に思い込んだ事だ。私に責任はない」
「いや、まて!あるだろ?」
「私も走る…と確認しなかったお前の落ち度だ。諦めろ」
「………」
これって、地球だったら、反社や詐欺グループが良く使う『言い回し』による騙しになるんじゃね?
そう、相手にそう思わせて、後出しで隙を突いて優位に立つやり方。
騙してはいない、そんなつもりで言ったんじゃない、勘違いした貴方の落ち度
↑
これで身を崩した人は少なくないはず。
書類でさえもありがちな話であり、口頭なら尚更、言った言わないの揉め事になるパターン。
みなさん、お気をつけ下さいね。
と、そうこう話しているうちに、勝負は互角のまま、500周を超えていた。
☆☆☆
「さぁ、私は、あやつらにもっと試練を与えねばならぬ。時間をとらされるわけにはからな…じゃ!」
「爆裂エンチャント!!」
スゴゴゴォォーー!!
王妃は俺に別れを告げ、更に先程よりも強力な付与魔法をかけて蒸気を発して爆発的な加速をして、突き放しにかかってきた。
おそらく『爆速』は熱気、『爆裂』は、その高温の熱気に水分を加え、水蒸気爆発を起こして推進力としているのだろう。
「まぁまぁ、そんなに急ぐなよ」
「な!」
口をあんぐりと開けながら進む王妃。
「言っておくけど、俺はちゃんと走っているぞ?」
「わ、わかっておる!クッ…」
わかっているならよろしい…ハッハッハ!
そう、俺は普通に走っている。
普通の人間なら、足の残像すら見えないだろう。
人間が作ったブーツなら、とうに擦り切れて使い物にはならなかっただろう。
だが、何の問題もなく走れている。
感覚で例えるなら、最初は競歩程度、今はジョギング程度だ。
当然、マラソン程度にスピードを上げれば、王妃を周回遅れにする事は容易い。
だが、コミニュケーションは大事だ。
何も答えない王妃に、いきなり『これから時間をとって勝負をし、俺が勝ったらいろいろと教えて欲しい』とは、流石に言いにくい。
だから、この勝負の最中に、その約束を取り付けなければならない。
今、全速力で進んでいる王妃に難なく追いついて、虚をついたのは効いているだろう。
話を進めるなら今だ。
グラウンドに居る奴らには、赤と黒の残像しか見えていないだろう。
上から見たら、赤と黒の輪っかが出来ているように見えるはずだ。
流石の王妃も、汗が蒸気になって飛び散るぐらいは必死な様子。
からの
「これ以上、スピードは上げられないのか?」
余裕で聞く俺。
それは、王妃にとってはダメ押しの一言。
俺の思惑通り、提案は快諾された。
快諾された瞬間、俺は王妃を100周回遅れにし、圧勝して1000km走勝負は幕を閉じた。
勝った!ハッハッハ!!
☆☆☆
ダン!!
王妃は、うつぶせになって地面を叩きつけ、無言でギリギリと歯軋りをしていた。
「さぁ、時間をとって、戦ってもらうぞ?」
「うむ。だが、あやつらに休憩を与えるわけにはいかん…」
「それ、必要?」
「あぁ、絶対だ。でなければ、今頃、骨も残らず灰にしておるわ…」
おー!
『骨も残らず灰にして…』
このシチュエーションなら、めっちゃ説得力のあるセリフに聞こえる!
さっき、実際に1人を炭にしてたしな…。
「なんでそこまで?」
「次の勝負に勝ったら教えてやる」
まーなー。
今の勝負は『時間を作る』ためだけの勝負。
質問タイムは『バトル勝負』に勝ってからって事だ。
下手をしたら、質問ひとつひとつに対して、勝負を挑まれる可能性がある。
どこまで言っても勝負勝負勝負…。
ギャンブル大国ウンザリだわ!!
クソが!!
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