第27話 王族管理の冒険者ギルド 2

連れてこられた場所は、ギルドの横に隣接させている、解体場。


本来なら、冒険者に解体の技術があれば、新鮮で状態の良い素材が手に入り、すぐに換金できる。

引き取る側のギルドとしても、鮮度が落ちたものを持って来られるよりは、メリットが大きいから、無償で場所を提供している。


あ、そういう設定のある異世界物もあるって話で、すべてを指して言っているわけではない。

念のため。


でだ。

それを、現在は王国直属の医師団が解体専門職としてやっており、1番の功労者、つまり、少人数でやらなければならなくなった解体作業の中心人物が、このイケスカナイ偉そうな医師団長なのだ。

流石と言うべきか、下手な解体者よりも手際がいい。


ちょっとばかし、それを鼻にかけているさえなければ…だ。


彼は、解体するにあたり、部位に一切を傷つけないで、素材を区分けし、冷凍、冷蔵魔法で新鮮度を維持する。


本日分も、おおよそ500体の魔物を、すでに半分は解体し終わっている。

数人かかりでも手こずる数を、1人で時間にして2、3時間。

その短時間でを済ませてしまう。

恐ろしい能力だ。

まるで、どこかの無免許医みたいな奴。

そう人だよ、半分白髪の…。


そのような相手に対して、これから俺達は、解体勝負をしようというわけである。


ギルドにとっても、とってもメリットのある勝負なのだ…プッ


「………」

サオリから冷気が出ている。

どうやら滑ったようだ。


勝負は、残り約200体と、騎士団総出で狩ってくるであろう魔物。

何体来るかはわからない。


だが、が搬入された時がスタートの合図だ。


本来なら、魔物討伐に、王家直属の優秀な人材がいて良かったね

…と、称賛を送りたいところなのだが、今はそういうわけにもいかない。


この国の経緯を聞かねばならないのだ!

何が何でも勝たなければならない!


まぁ最も、解体技術のない俺は今回、サオリが提案したによって、勝利を手に入れるわけだが…。


みんな頼むぞ!

(建前)

この国の未来がかかっているんだから!

(本音)

ミッションクリアがかかっているんだから!


☆☆☆


シャッ!

スッスッスッ…。

静かになった解体場に、メスの音だけが鳴り響く。


医師団長は、几帳面なのか、何かのこだわりがあるのか、残っている魔物を、種類別に数を揃え、余った数体は自分で解体している。


手には、ナイフならぬメス。

指に挟んで、両手で8本。

何をどうやって、扱っているのかはイマイチ意味がわからないが、8本のメスを自在に操り、目にも止まらぬ速さで捌いている。


言うだけあって、恐ろしく手際がいい。

メスも尋常ならざる業物わざものだ。


『ソルトタートル』なる、甲羅が岩塩で出来ている魔物の硬い部分でさえ、手持ちのメスで切りさばいている。

そのへんの冒険者が持っているような剣でも、これほどまでの切れ味はないだろう。


つか、そもそも、医師団長は冒険者ではない。

その実力は、人類に対しての知識であり、技術なのだ。


だが、それは人類に対してであり、検死のためにはするだろうが、はしない。

だからこそ、ならば、部位を傷つけずに、あっさりとできてしまうのだ。


そして、元々は医師団をまとめる長。

その立場にある者が、最前線に立って解体をしているのだ。

少々、天狗になっても仕方がない事なのかもしれない。


だが、解体する姿を見て、その考えを改めた。


その理由とは…。

解体した物が積まれた置き場にあった。


『武器、防具用』『食料用』『生活品用』『薬品用』『肥料用』『エサ用』『生ゴミ』

こう8区分けされた場所に、解体した側から順に、丁寧に山積みしていく。


解体→冷凍保存→区分け→掃除→解体→冷凍保存→区分け→以下エンドレス

を、1人でやっているのだ。


つまり、同じような工程をやって、トリプルスコアで勝たなければいけない。


知識のない俺からしたら、サオリ案であっても難しいのではないかと不安になる。


が!

「まぁ、いくら凄くても、所詮人間ですから」

これがサオリの言い分である。

で、俺はサオリの指示通りに動くだけ。


今更、考えても仕方がないと、思考を止めたのは言うまでもない。


☆☆☆


そうこうしているうちに、騎士団が到着した。

冒険者とは違い、訓練を受けているだけあって、その量は凄まじい。

しかも、持ち込まれたのは魔物だけではない。

動物や魚介類、野菜以外の様々な生き物が、血抜きをされて運び込まれてくる。


普通なら、依頼に対してに獲物を狩る冒険者をまとめるのが冒険者ギルド。


しかし、今はとして、必要な獲物を騎士団が狩ってくる、いわば国営ギルド。


幸いにも、この大陸はひとつの国であり、他の大陸からの侵略がなければ、軍とも言うべき騎士団の活躍する場は無いに等しい。


だからこそ、冒険者という肩書きにはなっているものの、国のために大量に仕入れてくる事を是とし行動している。

…という推測だ。

知らんけど。


ただひとつ言える事は、この統制がとれた連携を指示している者が王族か貴族かに居るという事。

まぁ単純に考えれば、これだけの統率力は国王がしっかりしているからと考えられるが、詳細はわからない。

わからないからこその解体勝負なのだ。


だが、その手腕も、ギャンブルによって、その地位を奪われた。

各職業がシャッフルされてしまった。


そんな最悪の状況で、王族、貴族(騎士団含む)が冒険者というジョブになっているのは救いであろう。

収入はほとんどないだろうが、少なくとも、国民に飢えはなくなる。

栄養バランスはなくなるだろうが…。


どう考えても、農民では国の運営はできない。

適材適所というものがあるのだ。

得て不得手もある。


スラックスで仕事をしている人は、その格好で田植えはしないし、手を振るだけの仕事をしている人に土木作業は不可能である。

まぁ、そういう事だ。


早く詳細を調べ、対応して、この国を《本来あるべき姿》》にしなければ、いずれバッドなエンディングを迎えるであろう。


唯一神の言っていた『この世界を云々』以前の問題なのだ。


まずは、この国を何とかしなければ『本来の世界に』という根本的な問題が詰んでしまう。

まったく、誰か何を考えて、こんな国にしたのか!

厄介極まりない!

クソゲーもいいところだ!

あー!イライラする!


と、考えているうちに、準備は整ったようである。

団長が騎士団に対して指示を出し、均等に山積みにしていた。


ひと山

魔物100体+元々あった魔物100体

動物50体

魚類200匹

貝類1000個


(騎士団頑張ったなぁ…)

と、心の中で労っておいた。


「準備は出来ました。覚悟はいいですか?」

「いつでもどうぞ」

おい!何でサオリがやる気で返事してんの?

勝負するのは俺だぞ!

ほとんど何もしないけど…。


そんな俺の気持ちも知らないで、更にサオリは続ける。

「確認ですが、冷凍、冷蔵魔法を使っているという事は、こちらも魔法を使っていいのですよね?」

「もちろんだ!だが、これは解体勝負だ!魔法でそのへんを壊したら、即負けにするからな!」

医師団長は、やっぱり上から目線でものを言う。


やってる事は凄いが、こいつの性格嫌いだわぁー!!

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