第26話 王族管理の冒険者ギルド 1

…と言う事で、自由になって、ようやく調査が出来るようになった俺。


やって来たのは、当初の目的地、冒険者ギルド。

サオリの『影転移』を使って、洞窟からポンと移動しましたわ…一瞬で。


どうあっても、洞窟の場所は教えたくないらしい。

この世界のではあるらしいが…。


その理由として、サオリの移動、転移は次元を超えられない…という事。

そして、夜であるなら『影転移』の上位魔法、『闇転移』が出来るという。


つまり、次元は超えられず、その世界に影や闇がなかったら使えない魔法なのだ。

しかも、サオリが装飾品になっても、問題なく使える魔法だと思う。


唯一神の『次元転移』は、その世界の空間を捻じ曲げ、次元間を移動する魔法。

サオリの『影収納』と唯一神の『次元収納』もまた、別物…というわけである。


ただ、サオリはずっとサポートとして同行しているので、影移動を使う必要がないだけ。

次元転移は、唯一神がいないとコントロール出来ないので、これまた使う事が出来ない。


使ってみたい!と思うのは我儘だろうか…。


とかやっていたら、またタイトル詐欺になりそうなので、本題に入ろうと思う。


ガチャッ…。


ギルドの扉を開け、サオリと2人で同時に入る。


「クスクスクスクス」

「………」

何故、入っていきなりサオリが笑ったのか…。

何故、俺が無言になったのか…。


それは、ギルド内がカオスだったからである。


ここで、ジョブの確認をしてみよう。

本来→現在だ。


農民→王族、貴族

商人→農業

科学者→商業

冒険者→研究

王族、貴族→冒険者、ギルド管理


何がどうなって、そうなったのかはわからない。

だが、『これで国は大丈夫?』と心配になるのは、誰が見てもわかる事なのだ。


しかも、武器屋、防具屋、宿屋、各種職人など、まだ知らない職業を生業なりわいとしている人達も、シャッフルされている可能性は大である。


ミッション『何とかせよ』

うん。確かに!

何とかしなきゃ!ってなるわ!これ!


☆☆☆


でだ!

本題のカオスなんだが…。

コソッと鑑定スキルで覗きながら様子を見る。


まず、ギルド職員が王族直轄、近衛騎士団。

魔物、動物の解体場にて、作業にあたっているのが下級貴族…騎士爵、準男爵、男爵まで。


「そこはそうじゃない!!もっと丁寧に扱え!解体が出来ないなら、薬草採取に行ってもらうぞ!!ドブ掃除でもするか?あ?」

「いえ!頑張ります!」

「いい機会だ!冒険者や平民を見下していた根性を叩き直してくれるわ!」

ものすごい迫力だ。


「よーし!王宮から畑を荒らす魔物討伐の依頼が来ている!C班はただちに編成をしたのち、畑に向かえ!」

「「「御意!!」」」

流石、騎士団!

統率がとれている!


だが、そうして指揮官の元、指示通りに動いているため、『仕事を求めてギルドに来る』とか『換金システム』とか『素材買取り』という、お約束の光景は全くない。


貴族は、やった事もない解体を、おぼつかない手付きで、汗だくになりながらやっている。


そんな光景を戦場とするなら、ギルドの受付はお花畑である。


「ちょっとすみません」

「はい、いらっしゃいませ。御用向きは何でございましょうか?」

受付嬢に声をかけると、アニメでよく見るような笑顔で応対された。


受付嬢の服装は、制服ではなくドレス。

気品といい、纏うオーラといい、間違いなく『王女』のそれである。


「冒険者になりたいのですが…」

まずは牽制の一言。

返答はわかっている。


「申し訳ありません。冒険者は、貴族階級のない方は登録できないようになっています」

ほらね。


「でしたら、ギルドマスターに会ってお話を伺いたいのですが…」

「申し訳ありません。前国王のお父様がマスターをやっておりますが、今は謁見は出来かねます」

はて?忙しいのか?

そんなわけないだろう!


「何故ですか?」

「その質問にお答えするには、勝負に勝って頂かないとお答えできませんが、よろしいでしょうか?」

ほらきた!

たかが質問ひとつでも、勝負。


俺とサオリは、お互いの顔を見合わせて、無言で頷きあう。


「こちらが求めるのは、ギルマスとの謁見、その対価は金貨5枚でいかがでしょうか?」

少々無粋ではあるが、今払える対価は金貨しかない。

さぁ、どうでる?お姫様!


「申し訳ありません。先程もお伝えしましたが、謁見は無理なので、お父…マスターが、現在、どのような状態かまではお話が出来ます。対価は金貨1枚で結構でございます」ペコリ

ふむ。


「領主や領民の話も聞きたいから、金貨5枚出すよ。いいかい?」

「申し訳ありません。そこまでの情報ですと、お母…教官に聞いていただかないといけなくなります。教官に対しての対価は、でございます」

えぇー!!

王妃が教官やってんの?

どんなギルドだよ!!


「では、マスターの情報に関する勝負ですが、解体勝負をしていただきます。より早く、たくさん、綺麗に解体できた方の勝ちといたします。よろしいでしょうか?」

俺は、サオリを見る。


ニヤリ…。


この笑い方はGOサインだ。

たぶん。


「それでお願いします」

「ありがとうございます。当ギルド、ひいては、この国の資材が不足しておりますゆえ、素材が必要なのです。ご協力感謝致します」

いいお姫様じゃないか!

わざわざ冒険者にならなくても…って、ギャンブルでシャッフルされてたんだよな。


これは勝つしかない!

解体なんかやった事ないけど!


☆☆☆


「騎士団長!あの方をお連れしてください!」

「御意!」

場所は冒険者ギルドだが、中身は王国のだな…。


しばらく待つ事約10分。

「お連れいたしました。」

騎士団長に連れて来られたのは、まるで外科医が手術後に出てきたような、血だらけでマスクやらゴム手袋やらを纏ったであった。


(何してたんだ?こいつ)


「王女様…私、今忙しいんですけど?こちらの解体は進んでいませんし…朝から新しい魔物も搬入されましたし…」

「申し訳ありません伯爵様。今から、こちらの方と解体勝負をしていただきたいと思いまして…」

「はぁ…またですか…まぁいいですけど…」チラッ

明らかに見下している。


「ふぅ…私はね、元々、王宮直属の医師団長なのですよ。負けを承知で挑んでくるとは、滑稽ですな…フッ」

「伯爵様!才能があるのは承知しています!しかし、今はただの解体主任、あまり横柄な態度ですと、教官お母様が待っているのですよ?お控え下さいませ」

「はぁ…そうですね。しかし、この奇天烈キテレツな格好をした若い者が勝てるとは、到底思えませんね」


カッチーーン!!


「おい!こら!!俺を舐めてんのか?お姫様!賭け対称追加だ!!この勝負!ダブルスコアで勝ってやる!!俺が勝ったら、こいつに、こんな生意気な口を辞めさせろ!!」

売り言葉に買い言葉とは、この事。

男には、引いてはならない場面があるのだ!


「はん!そんな口を聞いてて大丈夫かい?俺は早くて確実だよ?俺が負けたら、何でもやってあげるよ!はっはっは!」

「伯爵様!それ以上は…」

お姫様がオロオロしだした。

このお姫様は、国を思って、解体の勝負を選択した。

だが、この外科医もどきの伯爵とやらの態度が気に入らねー!!


スッ…。

そこに割って入ったのはサオリ。


「いいでしょう!こちらも、ご主人様をバカにされて黙ってはいられません!トリプルスコアで、その鼻をへし折って差し上げます!!」ニヤリ


まてまて!!

俺は解体なんかした事ないんだって!

さっきは勢いで言ってしまっただけ!!


「ちょ…」

俺の反応に、サオリは「策はございます」と、俺に耳打ちをする。


ゴニョゴニョ…。


「え?それってイカサマじゃ…」ボソッ

「ご主人様、これはあくまでです。バレなきゃセーフです。証拠も残りませんし…クスクス」ボソッ

「ま、まぁ…それなら」ボソッ

サオリは、任せろ!と言わんばかりに、満面の笑みで相手をしていた。


いざ!解体勝負開始である!

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