第24話 ギャンブル大国『エキサイト』1

ようやく、遊郭エリアから悪魔が撤退した。


唯一神のミッションはクリアできたと言っていいだろう。

よくよく考えてみれば、『死者蘇生』は、悪意を対価に発動する。

つまり、対価にできるがなければ発動しないのである。


ピコン!

『ミッション1 クリア…』

来た!

…が、何か歯切れが悪い。


『…寸前』

ガクッ!


「クリア寸前のアナウンスなんかいらねーよ!!」

「クスクス…唯一神様ですから」

サオリは、さも当たり前のように言い放つ。


(お前も「闇属性ですから」で済ますじゃねーか!)

とは言わない。

今更だ。


「うーん…寸前って言われてもなぁ…」

頭を切り替えて、前向きに考えてみても、正直、どうすればいいのか全くわからない。

ヒントがないのだ。


『ミッション1 この辺一帯を何とかせよ』

だいたい、このミッション自体がアバウトすぎる。

ミッションが『悪魔を駆逐せよ』であるなら、すでにミッションはクリアされている事になる。

だが、現在は『クリア寸前』なのだ。


悪魔族の駆逐、もしくは排除が『何とかせよ』でないのなら、『この辺一帯』とはどこを指すのか…。


「とりあえず、拠点に戻りますか?」

俺が考えこんでいると、サオリがナイスな提案をしてくれた。


「そうだなぁ…その方が…「影移動!」」

シュッ!


サオリは、俺の返答を待たずにアッサリと洞窟に移動してしまった。


「やっぱり、この洞窟が拠点なのね…」

「ですね…クスクス」

「つか、この洞窟って、どこにあるの?」

そう、お気づきの人も居るだろうが、俺は、これまで、

自分の部屋

洞窟

遊郭エリアの屋根の上

コロシアム

洞窟


これだけの移動しかしていない。

自分の部屋から屋根までは、唯一神が使った『次元転移』、それ以降は、サオリの使った『影移動』『影転移』…だったらしい。


更に、マップはあるが、現在地は表示されていない。

ぶっちゃけありえない。


地球の世界地図でも、国の名前ぐらいは書いてある。

ナビなどのGPSなら、現在地は表示される。


しかし、俺が表示できるマップには『エキサイト』としか表示されていない。

現在地がわからないのだ。


その質問に、サオリは涼しい顔で答える。

「この世界のどこか…地中深い場所にあります」


「………」

全然答えになってはいなかった。


☆☆☆


洞窟にて…。

全員が俺の装備から外れ、各々おのおの、役割分担で作業にあたっていた。


一度、サオリがすべてを消してしまったからだ。


ベッドにキッチン、テーブルや椅子、電気機器にストーブ、エアコン…。

着々と準備が整っていく。


その大半は、土神ヨウの仕事であったが…。


準備前に、サオリは「良く見ていて下さいね」と念を押していた。

その理由は、すべての調度品が作られる工程にあるからだそうだ。


ヨウが木材を出す。

風神カナが切って材料をつくる。


ヨウが地中から鉱石を取り出す。

炎神マオが溶かして形成する。


ヨウがガラスの材料となる砂を用意する。

マオが溶かす。

カナが風を入れて形成する。


こんな要領で、蓄電機も作り、雷神カエデが充電する。

接着剤は木材から抽出した樹脂、鉱石類は溶接。


サオリはさしづめ現場監督といったところだろうか…。

光神ナナは、調度品の艶出し、電気が光るように加護付け。


つまり、艶出しで光らせるには、光の加護が必要であり、光の加護がなければ、いくら磨いても仕様になってしまうらしい。

電球もまた、電気を流しても、光の加護がなければ光の調整はできないとの事。


「へ、へー…」

地球で、何気に使っていたものは、あくまで職人さんや技術屋さんが作ってくれたり、やってくれていた物であり、それぞれの神の力がなければ作れない…なんて考えた事もなかった。


無から有は作れない。

異世界で使う攻撃魔法や武器防具も、地球に置き換えたらという形で…いや、犯罪者は、本来の用途をとして使う場合もあるか…。

要するに、魔法という概念がなくても、それぞれの加護があって、初めて使用する事ができるのである。


だから、麻薬にも規制があり、武器にも規制がある。

包丁だって、料理以外に使ったら、立派な武器だ。

縄だって、本来は何かを縛る物であり、首を絞める物ではない。


使用者の使い方次第で、本来の用途を大きく異なってくる。


そんな、取り止めもない事を考えているうちに、すべての用意は終了した。

そして、にたどり着いた。


そう!

『使い方次第で本来の用途と大きく異なってくる』

これだ!


☆☆☆


マップに表示されている名前は『エキサイト』

しかし、よくよく見てみれば、大陸の一部という表示ではない。

つまり、国境が表示されていないのだ。


他の大陸には、区切りがあるにも関わらず…だ。


その確信を得るため、サオリに問い正してみる。

「もしかして、この大陸全部が、ひとつの国??」

「はい」

やはりだ!


ここで「何で教えてくれなかったの?」とは聞かない。

「聞かれなかったので」という返答くるのが、容易に想像できてしまうからだ。


(これは、遊郭エリア以外を調査してみる必要があるな…)

と、を確かめるために調査が必要だと結論付ける。


俺の出したヒントは

①大陸が1つの国である。

②ギャンブル大国という肩書き。

③クリア寸前。

この3つだ。


「なぁなぁ、この国に、冒険者ギルドってある?」

「王都にございます」

「サオリは、エキサイトという国をどこまで知ってる?」

「ほぼ全部かと…」

「………」

「何か?」

「もしかして、影を使って?」

「はい。それが何か?」

「………」

サオリが、いつやっていたのかは知らない。

知らないが、今までの流れで、おおよその検討はついていた。

サオリは、そういう奴だ。


「なら、質問を変える」

「はい?」

「今、この国を納めているのは?」

「農民でございます」


やっぱりだ!

この国はおかしい!!


「農業は?」

「商人がやっております」

「商業は?」

「科学者がやっております」

「研究は?」

「冒険者がやっております」

「冒険者やギルドは?」

「王族、貴族がやっております」

「………」

「他にご質問は?」

「いや、いい…」

予感は的中した。


この国では、ギャンブルですべてを決めている。

ルールまでは知らないが、何らかのルールに基づき、職業まで変更してしまう。

だから、ギャンブル大国。


つまり、『この辺』とは、この国『エキサイト』を指し、『何とかせよ』とは、このシステムを何とかしろって事だ。


最初、エキサイトの由来は、夜のあれこれを指すと思っていたのだが、それはあくまで一部であり、ギャンブルこそが『エキサイト』。


おそらくこの国は、ギャンブルでに甲乙をつける、とてもスリルのある国なのだ。


すべてがギャンブルに依存しているなら、遊郭なんて必要ない。

やりたい時に、相手にギャンブルで勝てばいいのだ。


いや、これは考えすぎか…。

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