第21話 俺の装備と守護神の養分、そして…
サッ!
防御壁を砕いた俺は、転移で魔王の目の前に姿を現した。
召喚士になっていた悪魔は、とりあえず無視だ。
分身体すらまともに作り出せないぼっち魔王とのタイマン勝負の方が優先に決まっている。
「おのれ!我を愚弄するか!目の前になんぞ現れよって!跪かせてやるわ!」
クワッ!
魔王は俺に向けて右手のひらをかざし、目をひん剥いて、何やら魔力を流し込んでくる。
「………」
だが、何もおこらない。
「!!!」クワッ!
魔王は、更に目を見開き、額に青筋を立てながら魔力を放ってくる。
「………」
威圧だろうか?何かの魔法だろうか?
無詠唱でクワッ!とかやられても、イマイチ、何をされているのかわからない。
「サオリ…」
スッ!
「何でございましょうか、ご主人様」
サオリは俺の影から出てきて、何食わぬ顔で返答をする。
魔王は眼中に無いらしい。
「さっきから、あいつ何してんの?」
「おそらくは、魔力バレットを放っているのではないかと思われます」
「魔力バレット?魔力をツブテにして放つ的な?」
「そうですね。本来なら悪魔の魔力は、通常の魔力より悪意を帯びておりますので、悪魔族以外には、魔力の放出だけで結構なダメージを受けます」
サオリは平然とした顔で答えているが、俺は何も感じない。
「あの類は、無視して良いかと…」
魔王、哀れである。
サオリ曰く
俺に何の影響もない原因は、サオリが作り直してくれた衣類にある
という。
「こ、これかぁ……」
俺の衣類…。
それは俺が服の詳細を、ずっと語りたくなかった要因の残念な衣類。
洞窟で、サオリは衣類を揃えてくれた。
元々が、スエット…つまり、部屋着だったからだ。
その衣類とは…。
現場作業に使うツナギと、昔懐かしい、今では某卒業式にしか需要がなくなった特効服。
どちらも色は黒だ。
そして、俺が選んだのはツナギ。
理由、まだマシだから。
靴らしき履き物は、いつの間にか黒のハーフブーツとなり、土神のヨウ(茶色)が居なければ、真っ黒な靴紐なので、肌以外は真っ黒となる。
はっきり言って、真っ黒だとツナギだか特効服だか、判断がつかなくなる。
え?まったく違うだろうって?
そうさ!違うさ!
上着があるかないか…形状だって違う。
そんなのはわかっている。
特効服に、うんこ出来る用ジッパーは必要ない。
わかっているのだ!
しかし!
背中に金色の糸で『喧嘩上等』と書いてあったら話は別だ!
下半身にも、『ぶっ殺す』だの『瞬殺してやんよ!』とか、いつの時代のセリフだよ!!って刺繍が色とりどりに縫い付けてある。
黒に、金やら赤やら目立つ色で刺繍がされていたら、もはやツナギだろうが特効服だろうが関係なくなる。
どんな服装でも、古き良き時代の、ソレにしか見えなくなる。
しかも、今のこの異世界は日本人基準の言語。
誰しも読めてしまう。
明らかに『文句があるなら、いつでもかかってこいや!ゴルァー!』を宣伝して歩いているようなものである。
さて、その様な服装について、何故今更、語っているのか…。
それは、サオリ製衣類やブーツが、『魔力吸収』の能力があるという性能を持っているからである。
だから、魔王の魔力ごときでは、俺に直接影響はない。
最初に説明されて着せ替えられたはいいが、俺自身には、今の今まで何の効果も感じられなかった。
そして、ようやく実感(?)出来たのが今、魔王に『魔力バレット』やらを打ち込まれて、サオリに説明されたからだ。
更に付け加えるなら…。
☆☆☆
光属性攻撃魔法は、右手バングルのナナが魔力変換して吸収し、水属性攻撃魔法は、胸当てのレイナが魔力変換して吸収する。
ちなみに、剣にしてダウンした炎神マオは、現在、風神カナの代わりに拳銃となっている。
炎属性魔法は、今の拳銃マオに吸収されるという事だ。
つまり、各属性魔法は各守護神の養分となり、その他の属性は闇魔法の養分となる。
それは、現在の俺の装備に対して、『すべての魔法』は『すべて無意味となる』…という事を指す。
実は、そんな内容の説明に講義したい気が満々だったのだが、刺繍については「私、闇属性ですから」で済ませられ、装備については「だいたい想像していましたので」で済まされてしまった。
ある意味、サオリが最凶であり、俺が手のひらで転がされている感は否めない。
(どんどんとクソ設定になっていくのは気のせいか?)
と、思わなくもない。
だが、もっと可哀相なのは、目の前にいる魔王だったりする。
本当に頭が悪いのか、クワッ!クワッ!しかやってない。
(他にも魔法があるだろうに…)
ドラゴンに変身できてたんだ。
魔力バレットが通じてないなら、他にもやりようはあるはず。
サオリのガンスルー(ガン無視の意)が、相当効いていて…って、そんな事はないよな?
「もう許せん!!こうなれば…「正座!」」
あまりに目障りなので、喋ってる最中に口を挟み、魔王に正座をさせた。
からのー
「
魔王に向かって、手をかざし詠唱を唱える。
これは、これから行う言語魔法の実験と言うべきだろうか。
まぁ、これはわかりやすい。
魔王の口を塞いだだけだ。
『閉口』の意味がわかっていなければ、何をされたかはわからないはず。
日本語には、他にも『平行』『並行』『平衡』など、読みと意味が違う言葉はかなりある。
俺の中に口を塞ぐと言うイメージがあるからこそ『閉口』は機能する。
これを応用すれば、相手側に悟られず、遠慮なく魔法がぶっ放せる。
わかりやすく言うなら『四捨五入』を『四捨五捨』とした場合、端数はすべて切り捨てられる。
18歳は『四捨五入』したら20歳、『四捨五捨』したら10歳。
四捨五入を『死者母乳』にしたら、死体から母乳が出る。
地球人には、なんとなくニュアンスは通じるだろうが、異世界人には、まったく意味がわからないだろう。
実験とは、まぁそういう事だ。
☆☆☆
しかし、俺が使おうとしているのは既存の言葉で意味を変える実験だ。
造語は容易い。
これからも多様していくつもりだ。
だが、既存の言葉を意味違いにするメリットはある。
造語を考える必要がない事。
『弱肉強食』の意味は変えられても、『焼肉定食』の意味を変えるには、イメージしにくいと言う事。
『焼肉定食』は『焼肉定食』
こればかりは日本人の性である。
思い浮かべられるのはひとつしかない。
え?『弱肉強食』の意味をどう変えるか…だって?
まぁ、本来なら、弱い者は食事となる肉となり、強い者がそれを食べる。
弱い者は死に、強い者が生き残る。
…簡単に説明すれば、こうなる。
しかしだ!
弱い者は食用肉に変化し、その者と戦って勝った強い者は、その肉を普通の食材として扱える。
なんてイメージすれば、意味はかなり違ってくる。
魔物、例えるなら、異世界ではめっちゃ臭い設定のゴブリンでさえ、普通の食用肉に出来てしまう。
しいて言うなら、野菜不足になるのが欠点となるぐらいだろう。
これが俺の言う『日本語アドバンテージ』だ。
俺は詠唱をすると、とんでもない能力になってしまうから、無詠唱で、尚且つイメージをしっかりしていなければいけない。
だが、前述した日本語は、発声するだけでは本来の意味にしかならない。
イメージが大事な俺が、既存の言葉を詠唱する事で、既存の意味を捻じ曲げられると考えている。
だから、このぼっち魔王を使って実験するのだ。
「ぼっち魔王よ…これからの俺のために、その身を捧げてくれ」ニヤリ
「良い判断だと思います」ニヤリ
サオリが、俺の意図を察したのか、わっるい顔でニヤリと笑う。
(この世界のラスボスは、実はサオリ…)
いや、やめておこう。
闇属性でも、謎が多くても守護神は守護神だ。
サオリを怒らせたらダメだと、俺の直感が警報を鳴らしていた。
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