第20話 ぼっち魔王…草草草

「見たところ、もう観客席には誰もいないね」

カエデが全体を見回し、死者蘇生からの瞬間移動を見届けていた。


しかし、まだ終わってはいない。

人類がすべて、瞬間移動した時点でトラップカードが発動したのだ。


そう、トラップカード『隠蔽無効』だ。


【隠蔽無効】

『人類全員』が『瞬間移動』した時、『悪魔』の隠蔽魔法は無効化される。


ズゴゴゴゴォーー!!


コロシアム内に、ものすごいオーラが立ち込め、観客席からは、黒いかたまりのような物が3つ。

フィールド内では、あからさまに違和感のあった、召喚士とドラゴンが悪魔へと姿を変えていった。


総勢5人の悪魔共が姿を現す。


「何故だ!我の変身魔法は完璧であったであろう!!人間ごときに破れるはずはない!!」

「左様でございます!魔王様!あやつらは、何かしらの魔法を使って、我々の魔法を打ち破ったのではないかと…」

バカだ!こいつら、やっぱりバカだ!

会話が成立していない事にも気づいていない!


人間ごときに破れるはずはない!

左様でございます!

あやつらは、何かしらの魔法を使って、我々の魔法を打ち破ったのではないかと…。


言っている事が無茶苦茶である。


まぁ、俺たちは全員人間ではないから、該当はしないんだけどな…ハッハッハ!!


「お主ら!いったい何者じゃ!我を謀りおって!!」

「いやいや!騙してない騙してない」

「言い訳は死んでから吼えろ!!」

「………」


何か変だ…日本語が。


☆☆☆


俺はサオリに聞いてみる。

「なんで、あんな変な日本語使ってんの?」


「おそらく、異世界語と日本語を変換した事が原因ではないかと…」

「つまり?」

「今の言葉を異世界語にして翻訳したら、適切な言葉になる…という事です」


サオリの説明によると、俺がヒールを唱えてハイヒールを出したように、反対にも通じる所があると言う話だった。


「ちなみに、回復魔法のヒールは『◎▲✖️◯※』と書きます」


「なるほど!異世界人は、自然に日本語を使っていても、イメージが湧かないから変になると?」

「おそらくは…日本語は難しいですし」

フッフッフ…。


「ワーッハッハッハァーー!!」

日本語アドバンテージ来たでぇー!!


「どうしたの?急に…」

カエデは、変な人を見るような目で、俺の顔を覗き込む。


やめなさい!


「何か、妙案が浮かんだ…と?」

サオリは中々鋭い。


俺は、イメージさえしっかりしていれば、大抵の魔法が使える。

これは、サオリ先生から聞いた話だから間違いはないだろう。


つまり、異世界人にとって、日本語はイメージしにくい…という事だ。


本気ほんき』と書いて『マジ』と読む。

『www』と書いて『草』と読む。

地球の年配の人でさえ、『草』=笑い、とは読めないはずだ。

要するになのだ。

略語然り、ネットスラング然り…。


これは大きなアドバンテージになる。

例をあげるなら、『靴を履け』を『靴を吐け』とした場合、相手はを吐かなければならない。


ある種の言葉を、頭の中で、として発声した場合、相手には想像もできないような効果を発揮するだろう。


これは面白い!

やってみる価値は十分にある。


魔王には、その実験体になってもらおう。

あの魔王は、バカっぽいし、まぁいいだろう。


ラスボスが実験体とか、ちょー笑える。

…が、反対に、ラスボスがバカとか、あまり笑えない。


はっきり言ってクソである。


☆☆☆


「今から使う魔法は、言語魔法にあたる…と思う」

「で?」

って言うな!カエデ!


「最初の魔法は、おそらく闇属性魔法に該当するのでサオリな」

「承知いたしました」ニヤリ

怖い怖い…。


「で、次の魔法は…どうしよう。お漏らしならレイナ、痙攣ならカエデ、抜け毛ならナナ、オナラならカナ、水虫ならヨウ…」

「すみません。カナとヨウはいませんよ?」ニヤリ


すかさず、サオリがわっるい顔をして、ツッコミを入れてくる。

(チッ!忘れてたぜ!)


「はいはいはいはい!やりたい!やらせて!」

カエデが、めっちゃ光速で手をあげ、猛アピールをする。


これ、一般的には、手の残像すら見えないんじゃ…と思わなくもない。


「よし!2番目の魔法はカエデ!」

「やったぁー!!」


つか、これからやる事、絶対にわかってねーだろ?こいつ…。

まぁいいか。


「とりあえず、防御壁を壊してっと…」チョン


バリィィィーン!!


フィールドと観客席を隔てていた防御壁は、ちょこっと突いただけで、あっさりと砕け散った。


(薄っす!)

これでは、防御壁ではなく、防御紙だ。


良くある設定で、防御壁を多重にして自身を守るシーンがある。

攻撃を受けて、バリンバリン割れていくだ。


俺的には、何故薄い防御壁を多重にするのだろう…と思ってしまう。

最初から、分厚い防御壁を作ればいいんじゃねーの?って事だ。


まぁ、多重防御壁の方が、ビジュアル的には迫力があって、見応えはあるとは思うが…。


コホン

話が逸れた。


逸れたが、観客席にいる悪魔は、何故棒立ちなんだろう?ってなる。


まったく攻撃をしてくる気配がない。

魔王1人に、悪魔が4人。

普通に考えたら、魔王の側近、四天王という設定になるはずなんだが、何を考えているのかわからない。


魔王と召喚士だった悪魔は、俺が防御壁を砕いたのを見て呆然としている。

しかし…。


それを差し引いても、隠蔽が解かれてから、結構時間はたつ。

観客席の悪魔に、動きがないのはおかしな話である。


「まさか…な」ニヤリ

「どういたしました?」ニヤリ

サオリも、何か感じたらしい。


そして、俺は魔王に向かって叫んだ。


「まおーう!もしかしてお前の手下っぽいやつぅー!」

「何じゃ!我を愚弄するか!!」

いやいや、愚弄するのはだから!


「お前の分身かぁー??」

「そ、それがどうした!!」ギクッ!!

魔王からは、遠目に見てもわかるぐらい汗が滴り落ちている。


こりゃ図星だな…。


「お前、配下のいない『ぼっち』かぁー??」

「「「マジ???あははは!!」」」

俺の言葉に、守護神達は大爆笑!


ギクゥ!!

ダラダラ…。


「おのれぇー!!」ダラダラ…。

おそらく、の意味はわかってないだろうが、バカにされたのはわかったらしい。

顔が真っ赤だ…ケラケラ


普通なら、分身体を作っても、を持たせて配下とする場合だってある。

実際に、魔王の側にいる悪魔は、自由に動いていた。


おそらく、自我を持たせる事が出来ず、尚且つ遠隔操作ができない。

だから、3人は死体の振りをしていた。

これなら辻褄が合う。


それを指摘してみたら、更に顔を真っ赤にして「おのれーおのれー」と体をヒクヒクさせていた。


やはり図星だった…ケラケラケラケラ


笑い転げる俺たちだったが、薄い防御壁を砕いた事に驚き、分身体に自我すら持たせられないに、ある意味驚いている。


(こいつ、魔王を名乗ってはいるけど、ラスボスじゃねーな)

これが俺の、率直な感想である。


もっとも、クリア条件が『魔王を倒す』ではないので、あまり意味がないっちゃない。


サクッとやりますかね…。ニヤリ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る