第19話 守護神の力と俺の誤算

しばらくの静観。


観客席の死体も少なくなってきた。

もちろん、殺し続けて暴れまくっている生き残りもいる。


目障りだから、拳銃で遠隔射撃…と行きたいところだが、残念ながらカナがいない。


そもそも、風神カナを拳銃にしたのは、弾丸の装填がいらない、追尾機能が付与できる、損傷を最小限にしたダメージが与えられる。

…と言った『空気弾』をイメージしていたからだ。


「という事で、コロシアムを一周してくるか…」

『お手柔らかに…』by炎神剣マオ

マオ…すまん!

の意味がわからない。


ズザザザザァァァァーー!!


俺は走る!

イメージは、炎をまとった剣撃『炎斬』。


「うりゃーー!!」

フッ…。


ズシャ!

『ギャアァーー!』

(ん?)


シュタタタタタ!


「ふん!」

フッ…。


ズバッ!

『ギャァァー!!』

(………)


「なぁなぁ…マオ?」

『は、はい…なんでございましょう…か?ハァハァ』

「切る直前に、炎が消えるんだが?」

『が、頑張り…ます』

『『『『マオちゃん!頑張って!!』』』』


マオが、何やらみんなから応援されている。

って、ちょっとまて!切ってるのは俺なんだが??


「まぁいいか…」


シュタタタタタ!


「とりゃ!」ズバッ!ドシュ!ザン!!

『ギャァァー!!ヒィィー!!誰か変わってぇーー!!』

炎神が、何か泣き言を言っている。

意味がわからない。


「マオ?」

『は…い…』ガクッ

マオは、剣からメイド姿になって、倒れてしまった。


「おい!マオ!まだ生き残りはいるぞ?」

ペチペチペチペチ


『『『『やめたげてぇーー!!』』』』

みんなから、同情の声があがる。


まてまてまて!

なんか、俺が悪者みたいじゃね?


☆☆☆


スッ!


そこへ、サオリが影から出てきて説明をしてくれた。


「マオさんは、魔力切れとダメージで瀕死の状態です」

「え?マオってナマクラな剣?」

『『『ひどーい!!』』』

装備品からの大ブーイング。


なんで??

俺が持ったら『神器』って設定は??


「ご主人様は、ご自身の能力を甘く見過ぎです」

「どういう事??」

未だに意味がわからない俺。


サオリは、呆れたような顔で「よく聞いて下さいね」と念を押し、説明をしだした。


「いや、早く『事』を済ませたいんだが?」

という意見は却下された。


サオリの話を要約するとこうなる。

①炎は、俺の魔力を制御するために、マオが自分の魔力で調整する。

②余った魔力は主神へと還元される。

③しかし、剣の形状を維持するのはマオ自身。

そして、1番重要な事。

④俺の剣速が速すぎて、すべての魔力を形状維持に回さなければいけなくなり、それでも追いつかず、俺の剣速によってマオ自身にダメージが与えられてしまう。


「属性魔法は制御できますが、剣を振るうという行為は、ご主人様自身の力なので…」

だそうだ。


つまりマオは、俺の言う通りに変化したものの、を予期して『大変なのは私』と言っていたのである。


切るたびに悲鳴を上げていたのも、必死で剣の形状を保とうとした結果、耐え切れず出した悲鳴だったという事だ。


俺は、マオに魔力を流し込み、光神ナナの回復魔法で治癒を施した。


「マオ!すまん!選択ミスだった…言ってくれたら良かったのに…」

「いえ、あの時のご主人様には、言える雰囲気ではなかったので…」

『『『『確かに!!』』』』

「う、うるせー!!」

みんなからツッコミが入った。


「そりゃあ、確かにあの時はキレてたさ!でもなぁー!言ってくれたら…」

「聞いてくれましたか?」ニヤリ

サオリが悪い顔で、俺の顔を覗きこむ。


「さ、さぁ!次だ次!」

観客席の生き残りは、あと15人ほど…。

コロシアムのフィールドでは、召喚士が1人、ドデカいドラゴンが一体。


召喚士は、もう誰もいないのに、右往左往逃げまどい、ドラゴンは、そんな召喚士を襲おうともせず、まったく関係のない場所にある防御壁に向かって、やたらとブレスを放ちまくっていた。

その光景の違和感が半端ない。


そして、もうすぐ『時』は来る。


☆☆☆


「さて…死者蘇生は、対象がチリになったら効果はなくなるし…どうすっかなぁ…」

そう、死者でなければ蘇生はできない。


チリと化した人体は、『死体、死者』とは言わないのだ。


よく『骨も残さずチリにしてくれるわぁー』とか、魔王クラスの敵がドヤ顔で叫ぶシーンを見かけるが、それは紛れもなく人体が残らない…つまり、死体が残らない事を意味する。


まぁ、敵がドヤ顔で、そんな『テンプレなセリフ』を吐こうもんなら、それは人間に置き換えると『この戦いが終わったら結婚するんだ』に等しいと思っても良い。


「って事で、胸当て、盾、よろしく!」

「仰せのままに」by水神胸当てレイナ

「だからぁー!装備品の名前で呼ばないでって!」by雷神盾カエデ


「お、おぅ…」

という事は、消去法でバングルは光神ナナだ。


炎神の剣や風神の拳銃、八つ当たり気味に靴紐にした土神ヨウ…俺が意図して変化させた奴以外は、誰を何に変えたか、ふと忘れてしまうから…とは言えない。

口が裂けても!


「レイナは、観客席全体に水をばら撒いて!カナデは…後はわかるよな?」

「もちろん!」

カエデが元気よく返事をする。


「では!」

レイナが、無表情で水球を作る。

(え?)

ちょっと予想外である。


てっきり、観客席を回りながら水を出すと思っていたからだ。

これは、じっくり観察する必要があるみたいだ。


水球

観客席全体に水を撒く

…が、繋がらない。


そうこうしているうちに、水球はどんどんと大きくなっていく。


「………」

俺は、無自覚で口を開けたまま見守るしかなかった。


水円すいえんの舞い!」

レイナの詠唱と共に、水球は形を変え、まるでが踊っているかのように観客席の頭上に展開して行った。

しかも、俺たちがいる場所は省いて…だ。


目測で、おおよそ厚みが30cm、幅は、コロシアムの壁から防御壁まで。

まるで、そこに『水槽』でもあるかのように、キッチリと水が行き渡る。

これは、上から見たら、視力検査時の『C』に見える事だろう。

いや、たぶん。


「おぉーーー!!やるじゃねーか!!」パチパチパチパチ

俺は、大道芸でも見ているかのように、その過程に惜しみない拍手を送った。


「ありがとうございます」

「あとは降らせるだけだよな?」

「チッチッチッ!レイナ姉は、そんな雑な仕事しないよ?」

カエデがドヤ顔になって、俺の予想を否定する。

レイナは、バツの悪そうな顔で微笑んでいるだけだ。


(カエデ…なんでお前がドヤ顔?)

と思うのは、間違いではないはず!


「終焉の舞い!!」

詠唱が物騒である。


☆☆☆


レイナの詠唱に呼応するかのように、水は波を打ち始め、波の揺らぎと共にゆっくりと降下していく。

これが閉鎖空間なら、さぞ恐怖を感じるだろう。


そうこうしているうちに、波は穏やかになり、水は静かに観客席を埋め尽くしていった。


「以上でございます」

レイナは丁寧に会釈をする。


水球を出してから観客席を水浸しにする、その間15秒足らず。

俺たちの周りには、線でも引いたように、一滴の水も散らばっていない。

中々の職人技である。


それから、カエデが電撃を放つ事、ものの1秒ほど。


「「「「ギャァァーーー!!」」」」

ずぶ濡れになった観客席の狂人達が、感電して倒れていく。


シュゥゥゥ…。


「はい!おしまい!」

カエデは、俺たちに向かってVサインを出していた。

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