第15話 動き出したミッションと予想外な歓楽街

しかし、ラスボスワンパンな俺でも、残念な事に、この世界におけるクリア条件が、普通のRPGとは違うから難儀な話である。


ラスボス倒しました!

でも、世界は平和になっていません!

ではダメなのだ!

地球に例えるなら、某国の独裁大統領を抹殺しても、世界平和にならないのと同じである。


「………」

地球って、何気にラスボス沢山いるよな?

あちこちに…プッ!


まぁ、それはさておき…ゲームだったら、ラスボスを倒したらゲームクリア、世界が平和になりました!

…となる。


でも、このリアル異世界は違う。

ミッションを課せられた今、選んで攻略とかもできない。

NPCがヒントをくれるわけでもない。


今は、唯一神のミッションをこなすために、サオリを筆頭とした守護神達に任せるしかないのだ。


他種族見てなーい!

旅をしているわけでもなーい!

出会いもなーい!

マイペースな守護神達と居ても、ハーレム感なーい!

…を、引っくるめて、異世界感ゼロォー!!


はっきり言って、ちょーーつまらん!


とか思っていたところへ、能天気な念話が届いた。

調査に進展があったらしい。

やる気が1ぐらい上がった気がする(気のせい)


『あーあーテステス、聞こえますかぁー!』

マイクじゃない念話なんだから、テストは必要ない。

聞こえてるのがわかっててふざけているのである。


これは、雷神カエデで間違いないだろう。


名前をつけた事と、昇格して下位神になった事で、それぞれの性格が明確になってきた。


ざっくり言うと、元々生まれた『属性の欠片』に由来して、性格が形成されるらしい。


水神レイナ→冷静で優しい『涙の滴』

炎神マオ→義理堅くて熱血『火災の火の粉』

風神カナ→いつもフワフワしてる無口『そよ風』

雷神カエデ→天真爛漫で陽気『踊り子の衣服から出た静電気』

土神ヨウ→短気でイケイケ『台風で舞い上がった土煙、草木の養分含む』

闇神サオリ→性格自体に闇を感じる『原始の闇』

光神ナナ→素直、何も考えてない『スキンヘッドのテカリ』


てな具合だ。

なんて言えばいいんだろう…テカリから発生した、光から生まれたナナに同情する…うん。

そして『原始の闇』は、おそらく、世界創造が闇から始まったのと同じ理屈だとして、その一部なのだと思う。


地球基準の宇宙だって、最初は暗闇しかなく、ビックバンが起こって、ようやく星々が形成されたという説があるのだ。


仮に、これらがみんなの原点だとしたら、同じ地位で並んでも、闇神のサオリには逆らえないんじゃないかと思ってしまう。


この世界を唯一神が作ったとするならば、それ以前から存在した『闇の欠片』がサオリなのだ。


闇空間で、ナナに言っていた『消しますよ?』も、あながち本気だったのかもしれない。


☆☆☆


コホン

話が逸れた。


とりあえず、カエデが報告をしようと連絡をしてきた。


よし、本題に戻った。


『で、なんです?』

サオリが、ドスの効いた念話で返す。


『えと…悪意がかなりヤバいみたい』

byカエデ

『空気が澱んでる』

byカナ

『飲料水、麻薬が入ってます』

byレイナ

『みんな狂乱してる。殺していい?』

『ダメです』

byヨウ、サオリ

『みんな麻薬で熱狂してる』

byマオ

『薄暗い』

byナナ


察するに、歓楽街でよくあるドラッグによる暴走。

飲料水にも麻薬が使用されているなら、スタッフも、乱痴気騒ぎに参加している。

確か、歓楽街のスタッフは、みんな女だったはずだ。

悪意は、贔屓していた女を寝取られた…という感じだろうか…。

いや、経験はないけど。


どちらにしろ、歓楽街は夜の街だ。

そして、屋根から見る風景から、ただの飲み屋街ではない事は明白である。

名ばかりの飲み屋。

その実、女が体を提供する遊び場。


つまり、ここでは麻薬を使って薬漬けにした女を意のままに操って、金を稼いでいる事になる。


薬欲しさに、必死で男を獲得しようと、女が奮闘しているのだ。

おそらく…。


しかし、飲料水に麻薬とは、さすが悪魔の支配下…というべきか…。


遊女もスタッフも客も、みんな薬に魅了されて狂っている。

というのが想像できる。


しかし、その報告と現在の状況がまるで噛み合っていない。

ここ、屋根から見聞きしている分には、とても静かなのだ。

とても乱痴気騒ぎを起こしているようには感じられない。


(どういう事だ?)

俺は、守護神からの報告と考えられる範囲で状況の把握を試みる。


「ご主人様?」

「え?何?」

「何をお考えになっておりますか?」


「え?何って、今の感じだと、麻薬…それも吸引型のドラッグを何とかしなきゃ、この辺一帯は荒廃するだけだろ?麻薬で空気汚染とかシャレにならないぞ?女遊びだって、健全に遊べば、必要な施設だからな…その麻薬を何とかしなきゃ…特に飲料水、これには、液体型の麻薬が使われているはず…これはまずい!関係ない人まで麻薬に侵されたら…」


「ちょ、ちょっと待って下さい!何の話をしておられますか?」

俺が、麻薬対策を考えていたら、サオリが止めに入った。

珍しくサオリが焦っている。


「まぁ、任せろ!こういう場所での麻薬云々は良くある話だ。奴隷とか人身売買とかな…飲料水が不味いよなぁ…いくら悪魔の支配下地域だからってやりすぎだよ、これは!」

はっはっは!

簡単だ!対策もある!

元凶…そう、よく居る悪の元締め、マフィアが絡んでるのは間違いない。

マフィア潰し…一度はやってみたいイベントである。


「いえ、そうではなくて…ご主人様は、ここがどういう場所か、お分かりになっておられますか?」

「え?昔、日本にも存在した歓楽街、遊郭街だろ?それぐらいの知識はあるぞ?」

やる気満々…テンション爆上がり!


悪魔の支配下地区解放!

目指せ!健全なあんな事やこんな事のできる街!


「はぁ…そういう事ですか…」

あれ?サオリはあからさまに落胆している。

俺はやる気満々なんだが?


この落差は何だ??


☆☆☆


「盛り上がっているところ、申し訳ないのですが…ここは、ご主人様の思っておられる場所ではございません」

「え?」

目が点になる。


ありえない!

煌びやかな街並みが広がり、各店の暖簾もある。

違和感があるとすれば、人が1人も歩いていない、騒ぎが大きいような報告の割には静かすぎる…という点だけだ。


「コホン…『お兄さん、寄ってかない?いい子いますよ』『ほう!強いのかね?』『そりゃあもう!』『よし!買った!』というやり取りは、午後7時より午後11時までに行われます」

客引き役、お客さん役を一人芝居でやりだすサオリ。


『お兄さん、寄ってかない?いい子いますよ』

『そりゃあもう!』

『よし!買った!』

まではわかる。

お客さんが、店の遊女を選ぶのだ。


しかし

『ほう!強いのかね?』

これがわからない。

イッてもイッても体力的に大丈夫…とか?


「ですから、そういう地域ではないんです!そもそも、この国の民衆は、色恋を金では買いません!!」

「国???」

「はい!女を抱きたきゃ勝て!男に抱かれたきゃ勝て!敗者に人権はない!…という国です」

「はい?」

「勝者の男は敗者の女を一定期間自由に出来、勝者の女は敗者の男を一定期間自由に出来ます…勝つか負けるかがすべてなのです!」

「まるでギャンブルだな…」


ホッ…。

サオリは、安堵のため息をつき『ようやく伝わったか』みたいな顔になっている。


「何か、安心してるとこ悪いんだが、イマイチよくわからない…すまん」

「そ、そんな…」ガクッ…。


あらら…崩れ落ちたよ…。

闇神サオリの四つん這い姿、何かシュールだ。


「ご主人様…この国の正式名称は…」

「正式名称?」


「『ギャンブル大国エキサイト』と言います!」

「は?」

「ここら一帯は、世界でも有数のバトルエリアでございます!」

「って事は?」

「普段は、地下のコロシアムで賭けバトルが行われているのですよ」

「へ?………」


ガーン!!

何んだよそれ…この煌びやかな風景は何なんだよ!

俺のテンションを返せ!!


「今現在、おそらくは、麻薬によるドーピングで、観客もろとも狂戦士化した輩が……」

「………」

サオリが何か言っているが、頭に入ってこない。


思考停止…俺は固まったまま、数十分を屋根の上で過ごす事になる。


ホゲェ……。。。


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