第11話 闇神サオリの独壇場

サオリ曰く

部下になった6人は、上司であるサオリの指示に従い、待機中

との事。


つまり、全員が力を貸してはくれるが、形的には『パーティー』から『コンビ』になった…という事らしい。


「これからは、全力で『私達が』サポートします。よろしくお願い申し上げます」ぺこり

その洗練されたおじぎに、本来のメイドっぽさを感じ、俺は内心歓喜した。


(やっぱりメイド最高ー!)


「さて、ご主人様が出してしまったハイヒールは、売却いたしましょう」

サオリが提案した内容は、山のように積まれたハイヒールを、何らかの方法で『消す』ではなく、『売却する』という提案だった。


ポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイ…。


何かデジャブ感はあるが、以前の『大事な物』をポイポイされるよりは、よほどマシであった。


ポイポイポイポイポイポイポイポイポイ


「えと…その空間は?」

見覚えのある、黒くて丸い、渦巻き状になっている空間に、ひたすらハイヒールを放り込んでいくサオリ。


「影収納を使っていますよ?何か変ですか?」

「いや、いいんだ」

いきなり『影収納』と言われて、なんとなく想像はできるものの、『変ですか?』には答えようがない。


『亜空間収納』ならわかる。

何故『影』なのかがわからない。


しかし、今の俺には、サオリのやっている事を見守る事しかできない。


(まぁ、片付くなら何でもいいか…)


ポイポイポイポイポイポイポイポイポイ


サオリは意外と手際がいい。

山のようにあったハイヒールは、瞬く間にすべて。『影収納』に納められていった。


ジャラッ…ドン!

「ん?」

収納し終わって、『影収納』から取り出したのは、異世界物でよく見る皮袋。

お金が入っているである。


「ご主人様、ハイヒールは全部で金貨180枚となりました」

「え?」

「はい?」

「………」

サオリは、俺がキョトンとしている事に対して、反対に不思議そうな顔で返してきた。


収納し終わって、すぐに売却完了とか、何それ…と言う雰囲気ではない。


俺の頭の上には、盛大に?マークが飛び交っているのだろう。


☆☆☆


「今のは…」

「それはさておき、今から能力テストをしていただきます」

まてまて!俺の疑問をな!


「能力テスト??」

「はい。今のままでは、ご主人様ご自身の魔力量、魔法の効果、詠唱の失敗…など、数々の問題が発生してしまいます」

「あー、さっきの閃光にも、ハイヒールにも、原因があるんだな?」

「左様でございます」

確かに言われてみれば、授けられたであろう、俺のが、どの程度かはわかっていない。

数値を見ても、この世界の基準がわからなければ意味がない。


あと、詠唱…これには、何かしらの問題があるのは明白だ。

回復魔法を使うつもりで『ヒール』を唱えて、ハイヒールが出てきたのだ。

今の俺に、それを理解するすべはない。


(しばらくは、サオリに付き合ってみるか)


俺は、異世界物に対しての知識は豊富だと自負している。

伊達に何年も設定を考えていたわけではない。


それが、痴女な唯一神の依頼であったとしても…だ。


「まずは、魔力量をお調べいたします」

「わかった」


ガチャ…。


俺の返事に呼応するように、サオリは何事もなく真っ黒な扉を出し、扉を開けて「どうぞ」とか言っている。


『この中に入れ』と言う意味はわかるが、その素早さには驚かされる。


(どこから出したんだろう)


詠唱どころか、扉を出す仕草すらなかったように思う。

そんな事を思っていると、「私、闇属性ですから」という返答が返ってきた。


いやいや、仕組みがわからんって話なんだが?


「さ、さ、どうぞどうぞ」

「あ、うん」


言われるがまま扉を抜けると、どこまでも続く闇が広がっていた。


コンコン…。


真っ暗すぎて、床という概念がなくなりそうだが、つま先で突くと、確かに足元には床がある…ような気がする。


(あれ?)


「どうかしましたか?」

「あ、いや…俺、靴履いてたっけ?」

「入る直前にましたが?」

「え?」

「はい?」

「………」


直前っていつだよ!作らせたってなんだよ!

いろいろおかしいだろ?!


「では、お召し替えもいたしますね」

「あ、うん」

「いかがですか?」

「いや、まって!着替えた感触はないし、真っ暗だし、いかが…とか言われても困るんだが?」

「クスクスクスクス…ご主人様は面白いお方ですね。私、闇属性だと申し上げたではありませんか。ここは闇空間ですよ」

「………」

闇神の笑いのツボがわからない俺だった。

ついでに、神達は全員マイペースなのだと実感させられた。

どいつもこいつも、人の話を聞きゃしない!


とりあえず、灯りが欲しいと頼んだところ、「恥ずかしいので見ないで下さいね」と念を押され、何やらゴソゴソやっている。


いやいや、真っ暗で何も見えねーから!


☆☆☆


今の場面を漫画に例えるなら、ベタ塗りのコマの中にフキダシだけがあり、会話をしているようなものである。


(まぁいい。少しでも灯りがあれば…)


「ちわーっす!ご主人様が灯りをご所望という事で参上したっすよ!」

灯りが灯ったと思ったら、光神ひかりしんになったであろうナナが、全身を光らせて、真っ白なメイド服でサオリの横に立っていた。


サオリの見た目に、若干の違和感はあるが、今は『真っ暗』な状態から解放された事に感謝しよう。


「では、灯りもついた事ですし、さっそく始めましょうか」

「灯りがついたって、なんすか?私は松明たいまつ代わりに呼び出されたんすか?」

「いえいえ、本題はこれからです。これから、ご主人様にご自分の能力をご自身で体験していただきます。ご協力下さい」


ふむ。あの閃光に関するテストをするという事らしい。


(ん?体験…とは?)


「なんか、めんどくさいっすね。体験とか必要なんすか?」

「消しますよ?とりあえず灯りを!」ギロリ

「ひっ!やります!やらせていただきます!サオリ姉さん怖いっす!」

ナナは両手から、淡い光を出現させる。


光度はそんなになく、例えるなら『ホタルの光』を巨大にしたような淡い光の球体。


その球体の灯りをもってしても、この空間の形状が把握できない。

足元もそうだ。

はあるのに、足元の下には、延々と闇が広がる。


俺の横でニッコリとする闇のサオリ、その目の前で汗をダラダラ流して直立不動になっている光のナナ。


(神の上下関係って、そんな開きがあるのだろうか?)

とさえ考えてしまう。


「では、最大出力で全身から光を放って下さい。どれぐらいの範囲が必要ですか?」

「んー。半径50光年ぐらいっすかね?」

「わかりました…」チョン


シュッ!


サオリがナナの頭をちょっと触っただけで、ナナは消えてしまった。


今更、『どうやってナナを…』なんて事を聞く気はない。

どうせ、闇属性だから云々…という返答が返ってきそうだからだ。


ここまでの会話を整理すると

①光のナナは闇のサオリに逆らえない。

逆らえば闇が光を消す事ができる。

②最大出力で直径100光年の光を放つ予定らしい。

③これは想像だが、ナナは、かなり遠くへ移動させられた。

たぶん、それ(最大出力)を見せるため。

④現在の俺は、サオリの言うがまま、流されるまま、ここに立っている。


しばらくして

『では行きます!よろしいっすか?』

ナナから念話ではなく、らしき雰囲気の音声が届く。


人間基準なら

(スピーカーはどこにあるんだろう?)

と疑問に思う場面である。


今、『異世界なんだから何でもありだろ?』

と思った諸君!

それは、異世界物の見過ぎだ!


実際の俺は

『自分の部屋の外に別空間があった』

『曲がりなりにも魔法が使えた』

『謎の闇空間にいる』

これだけしか体験していない。


未だに、異種族すら見ていないのだ。

実感が湧くはずもない!

『まだ』、日本の現実感覚から抜け出せてはいないのだよ!残念ながらっ!


わかった?

わかったならヨシ!

なんてな…☆


まぁ、現時点でわかっているのは、現在、闇のサオリが、俺を置いてけぼりにし、光のナナを巻き込んで、この場を『取り仕切っている』という事だけだ。


俺は何もしていない。

これが事実だ!

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