第97話 魔法陣職人ジンの非常識な魔法陣認識

「さてと…確か、クズ転生者の脳を使って、魔法陣発生装置を作ったんだっけか?」

「そうだよっ!そのためにお前を呼んだんだ!勝手に名付けなんかさせやがってっ!なんだ!その格好はっ!俺の顔で、イカれた格好してんじゃねーよっ!」


俺は、好き勝手にやるのは好きだが、好き勝手にされるのは許容できない男なのだ。


「…ってか、これを使いこなすために俺を呼んだんじゃねーのか?」

「まぁ、そうなんだが…」


そう、俺はもちろん、分身体を含めて俺の血肉を分け与えた眷属達が動いたら、天王神一派に俺達の動きを読まれてしまう。


だから、他者の脳髄と肉体を使って、魔法を行使できるように装置を作ったのだ。


天王神一派には、認識阻害も通じない。


通じていれば、今頃、北半球の世界に戻っている。

閻魔とも連絡がついている

…はずなのだ。


つか、北半球の世界に戻れないのはともかく、地獄との連絡が取れないのは極めて予想外だ。


地獄は、西洋の悪魔界、神話の冥界、全てをつなげて、今や死後の世界、闇の世界は統一してあるのだ。


異世界に来たからといって、なくなるはずはないのだ。


現に、北半球では浮遊要塞、各種族の住処、集めた資源諸々、必要な物資は地獄で管理、建設が行われ、必要な時に必要なだけ地上と地獄を行き来できるようにしてある。


南半球のここでもそうだ。

この世界の鉱石は、ありったけ地獄送りにしている。


それからだ。

連絡がつかなくなったのは…。


抜け道として、地獄経由で北半球に戻れた可能性だってある。


それができないから魔法陣頼みになったのだ。


「で?どうなんだ?この装置なら、転移魔法陣を構築できるんじゃないか?」

「ま、まぁ、出来なくはない…かも」

「なんだ?いやに歯切れが悪いな…お前」


ジンがヤレヤレといった顔で、俺を見つめる。


「まったく…いつも適当に魔法陣を作り出す奴はこれだから…」

「なんだよ…」

「いや、もういい…」


げっ!

分身体に諦められたし…。


こんなやり取りをしているうちに、イノリ達5人は、眠りこけている。


「いい気なもんだ…」

「いや、こいつらは、俺の睡眠魔法で眠らせてある」

「い、いつの間に…」

「ん?装置に近づく動きをした時に、隠蔽魔法と睡眠魔法を掛け合わせた魔法陣を、全員の足元に滑り込ませておいた」

「………」


そうだった…こいつは、魔法陣単体を、自由に動かせるんだった。


念じた魔法陣を具現化させ、任意の場所に移動させらる。


大きさも規模も任意。

敵の体に魔法陣を貼り付け、火炎魔法をゼロ距離で放つ事だって、追尾して仕留める事だってできる頭のおかしい奴。


「今、なんか失礼な事を考えてなかったか?」

「いや、そんな事はないっ!」


こいつに、読心能力がなくて助かった。


「で、みんなを眠らせたって事は、聞かれたくない内容があるからだろ?」

「まぁ、そうなんだが…」


そこからのジンは、真剣な眼差しで俺を見つめ、深刻そうな雰囲気で語り始めるのだった。


…がっ!

ホストみたいな格好で真剣な眼差しを向けられても、俺はノーマルだから、何の感慨もないのだが?


いやまて、勘違いするなよ?

俺は、ホストを貶めているつもりはないからな?

と言っただけで、ホストの服装やセンスにケチをつけるつもりはない。

ホストなら、すべてが一流だからだ。


だが、ジンは違う。

白衣が黒衣になり、その上着には、丸や三角、四角に六角…そんな魔法陣が所狭しと黒衣を埋め尽くしているのだ。


服装だけなら、ぶっちゃけ、ホスト寄りと言うより、お笑い寄りだ。


(あー…目がチカチカする)


これが俺の本音である。


☆☆☆


「いやぁ、確かな事はわからんが、地獄に原神がいるみたいだぞ?」

「え?」

「俺の魔法陣は、原神には効かない。認識された時点で、魔法陣は破棄されるんだ。お前に魔法陣による遠隔攻撃が効かないのも、体内に原神の神格を保有しているからだ」

「基本的にはな…まぁ、お前に大抵の攻撃が通じないのを差し引いても…だ」

「で、どんな原神なんだ?」


気になる…。


「いや、それがわからない。探知魔法陣を隠蔽魔法で隠し、密かに地獄に潜らせていたんだが、地獄に行くつく前に、ことごとく無効化されている。地獄からは、こちらの動きが丸見えらしいな」

「どんな原神なんだ?原神は、天王神一派だけじゃなかったのか?」


地獄に原神が存在するなんて情報は入っていない。

地獄の総括は閻魔のはずだ。


俺は地獄の支配権限を持っているだけ。


「いや、新しく生まれた原神だな…これは…」

「新しく??原神って、そんなにポンポン生まれるものなのか?」


ギロッ


「お前なぁ、地獄と悪魔界と冥界を一緒くたにして、闇の世界を統一したのを忘れたのか?」

「いや、それが何か?」

「はぁぁぁ…わかってないな。原神は、世界を司る神の頂点!闇の世界が統一された今、闇世界は一つの世界としてカウントされているんだよっ!」

「で、闇世界に原神が新たに生まれたと?」

「そうなる…」


俺のせいかいっ!


「ま、邪神に死神、その原神の資格を持ったお前なら、闇世界の原神も何とかできるだろうが、地獄に行く手段が、構築されていない。これは、極めて稀な事例だから、お前以外には教えられなかったんだ」

「ちなみに、全員で地獄に突っ込んだら、どうなる?」

「全員、地獄に行き着く前に灰になるな…極めて好戦的で、闇世界を現世に甦らせ、全異世界を蹂躙するつもりだな…やつは…」


魔法陣が破棄されてるとか言いながら、ずいぶんと闇世界の情報を持っているじゃないか…。


「闇世界について、ずいぶんと詳しいな…」

「そりゃあ、隠蔽魔法を付与した探索魔法陣を1万は破棄されたからな…断片的な情報をまてめると、こうなってたって話だ」


いつの間に…。

魔法陣職人侮りがたし…。


「そろそろ起こすか…」


スルッスルッスルッスルッスルッ…。


手に持った魔法陣を、まるでフリスビーのように全員に投げつけ、足元に展開する。


ただ1人、ミーコだけには、顔面ヒットしていた。


「何をするにゃー!!」


「えと…魔法陣って、投げつけられるものだっけ?」

「普通は無理だろうな…だが、俺は魔法陣の擬人化にも成功している。心配はないっ!」


は?魔法陣の擬人化って何??


☆☆☆


「えー。今わかった事だが、地獄との連絡がつかないのは、閻魔が身動きが取れないでいるかららしい」


「「「「では、地獄にがいると?」」」」


「いや、敵かどうかはわからないが、地獄に侵入者がいる事は間違いない!閻魔の事、地獄の住人の事、次元空間から廃棄場に流れている資材、素材諸々、侵入者を排除し、元の状態に戻さなければ、ゆくゆくは、北半球での活動が困難になるだろう」


「「「「「………」」」」」


ここでとは言えない。


連れていくのも、おそらくはイノリとジンだけ。


あとは、悪いが死なせる未来が見えているに、連れていくわけにはいかない。


そこでジンが、各自に100多面体のキューブを手渡していく。


「ヤバい敵が地獄からきたら、迷わず使え!殺傷能力は皆無だが、足止めにはなる」


「「「なんだろう?これ」」」


「敵に投げつけたら、自動的に、見た目は防御壁魔法陣で作られた球体が敵を包む。まぁ、足止め程度にはちょうどいい」

「あの…その威力は?」

「敵にも能力の個体差があるが、その球体に囚われた敵が、イライラする魔法がランダムで放射されるようになる…まぁ、ある意味、精神攻撃だな…」


精神攻撃魔法の魔法陣??

なんじゃそら…。


「まぁ、たとえば、火に耐性のある魔物には、氷属性の魔法をダメージ付きで掠らせるとか、黒板を爪で引っ掻いたような気に触る音が延々と流れるとかだな…敵の能力に合わせて威力も痛い、熱い、イライラする!ってレベルに自動調整される」


「「「………」」」


いやらしいっ!なんて実にいやらしい魔法陣の球体だっ!!

精神攻撃とは名ばかりの、嫌がらせレベルの魔法陣球体だ。


(こいつの常識外れた魔法陣制作には、俺でもついていけない…)


「で、どうやって地獄に潜入するんだ?魔法陣は無効化されるんだろ?」

「そこでだ!お前の作った《《魔法陣作成装置を、擬人化して凸撃させる」

「「「「「は?今なんて??」」」」」


意味がわからない…。


「だから、魔法陣作成装置を擬人化して…」

「魔法陣の擬人化って何??」

「え?もちろん、魔法陣が人型になって、無効化能力をぶち破るんだよ」


と、何言ってんだこいつ…みたいな反応で、想像すらできない発言をバンバンしてくる。


「でだ。魔法陣装置は、元々はクズ転生者、突破するだけなら、あとは砕けようが魂が地獄に落ちようが、なんら問題はない…要は、阻害されている地獄への侵入さえできれば、あとは敵を倒して帰還するだけだ。簡単だろ?」

「「「「いやいやいやいや」」」」


お前がサラッと説明する内容は、みんなにとって、理解不能な内容ばかりだからなっ!


しかし、地獄に行かなければ話が進まないのも事実。


こうして、ジンの発案は有無を言わせず、全面的に採用され、実行に移す事となった。


『ワタクシ、マホウジンマシン1号ト、モウシマス、ミジカイツキアイデスガ、ヨロシクオネガイシマス』


魔法陣マシン自身は、地獄への突破が目的であり、その後は命の保証がない事を自覚している。


「みんな、しゃべるからと言って、同情は必要ないぞ?所詮は魔法陣だ…魔法を行使したら消えるのが魔法陣…遠慮はいらない」


こ、こいつ…。

魔法陣に人格を持たせても、スタンスは変りゃしねーよっ!!


まぁ、何はともあれ、地獄へ突入だっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る