第96話 魔法陣職人の分身体が俺の眷属になった件
ピカァァァァーー!!
分身体に名を与えた事で、奴の体が光出した。
「どうして、こう…名前を与えた事で、与えられた者に変化が起きるんだろう…」
という、俺の疑問に、全員が『異世界あるあるなんですっ!』とか、訳のわからん事を言う。
「ふむ…」
(それって、魔物の類に適応されるあるあるなのでは?)
と思うのだが、現在、俺の立場はあまりよろしくない。
さも、納得したように振る舞わなければ、また置いてけぼり感を味わうという憂き目にあうのは目に見えている。
(しばらくは静観だな…)
何があっても、変なリアクションはやめておこう…と、周りの流れを見ているだけの俺に徹する事にした。
だが、自由に好き勝手にやりたい派の俺には時として、こうした無言の圧力的な物が、やけにイライラの元となるのだ。
(何故こうなったっ!)
と、使い古されたセリフは胸の内にしまっておく事にしよう。
シュゥゥゥ…。
で、分身体改め、『ジン』の変化が終わったようだ。
「って…」
まてまてまてまてまてまてっ!!
ちょっとまてっ!!
ジンの異様な変化は、そのイかれた性格も相まって、俺の分身体であるにもかかわらす、まったく別人のオーラを醸し出していた。
(とーってもイヤな予感がする…)
チーコのふざけた能力然り、レーコの追加能力然り…。
この男…ジンは、すでに分身体の枠をかるーくぶち破っている!
…ような気がする…。
そして、その予感は、斜め上な状況で当たってしまうのだった。
(……て、手がつけられねーよ!こいつっ!!)
俺は、ジンに関しての一切を放置する事に決めた…ハハハ…。
☆☆☆
side ジン
(お?本体が俺の事を諦めやがったな)
「ハッハッハ!」
まぁ、それも仕方がない…なんせ、本体は知らないのだ。
異世界は、何かと『名付け』が重要な役割を持っている。
能力向上然り、自己の覚醒然り…。
つまり、俺は名付けをされた事で、分身体としての本体の一部から、本体の眷属へと昇格したのだ。
まぁ、眷属である限り、本体とは切っても切れない縁がなくなったわけではないのだが…。
まぁ、しかし、番号で管理されている分身体よりは自由が効く。
なので、本体と同じ服装はやめにしたのだ。
本体が驚いたのは、その服装と、分身体にあるまじき保有魔力のせいだろう。
なんせ、上着、スラックスは上から下まで真っ黒。
シャツは真っ赤。
それに、俺独自が開発した魔法陣を紫色で上着に書き込んである。
シャツには赤で魔法陣を、ズボンには銀のストライプに見える、極小の魔法陣が書き込んであるのだ。
ネクタイも取り、髪の毛も逆立たせて本体との区別がつくようにもした。
本体が驚いて、思考を放棄するのも仕方がない。
見た目は、どう見てもドクター寄りではなく、ホスト寄りなのだから。
だがっ!
この衣類に刻んだ魔法陣は、派手さを求めたわけではなく、あくまで自己防衛のためだ。
そうした魔法陣を組み込んだ結果が、派手な衣装となり、ホスト寄りにしてしまっただけなのだ。
いくら、分身体から眷属になったからと言って、魔力総量が本体を上回る事はない。
戦闘能力が向上したわけでもない。
俺はあくまで魔法陣職人であって、戦士ではないのだ。
まぁ、本体も戦士ではないが…。
コホン。
とにかく、俺には100トンもの白衣を気軽に着れるようなバカげた身体能力はないし、10トンもあるメスで、繊細なメス捌きができるはずもない。
本体は気づいてないかもしれないが、10トンもあるメスを握り、指先で手術をするなんてのは、普通に考えれば無理なのだ。
普通の人間が、1kgの鉄アレイを指先だけで自由自在に操れると思うか?
無理だろ?
それを軽々とこなすには、どれだけの腕力が必要となるか…。
おっと…話が逸れた。
なんせ、本体は非常識なのだ。
魔術師は、知識を蓄え、魔法陣を組み上げて己の魔力と同調させて魔術を行使する。
それをまとめ上げたり、開発した魔法陣を魔術書にするのが俺の役目だった。
しかし、魔法は違う。
詠唱魔法であろうが、無詠唱魔法であろうが、魔法使いは魔法を行使すると、それに呼応するかのように魔法陣が出現するのだ。
その魔法陣を瞬時に読み取り解析し、無詠唱の場合、魔法陣の紋様から詠唱の言葉を拾い出して、魔導書としてまとめる。
本来は、魔術書と魔導書は、似て非なる物なのだ。
だが、魔術書を読み漁り、魔導書を読み漁り、術者は行使できる魔法を増やしていく。
それが、一般的な魔術師であり、魔法使いなのだ。
しかし、本体は違う。
得た知識を自分の能力にするごく普通の事をまったくやらない。
魔法は使うくせに、魔術書も魔導書も、読んだ事がない。
好きなように魔法を使い、魔術を使い、見た事もない魔法陣をバンバン出現させる。
いわば、本体オリジナルの魔法陣が幾度となく使われるのだ。
それを読み取り解析し、書にまとめるのが、どれだけ大変か…本体はまったく気にしていない。
つまり、本体が魔法を行使すればするだけ、魔術書と魔導書が増えていくのだ。
要するに、本体が魔法を行使するという行為は、現存する書物を読み漁った結果ではなく、新たな書物が延々と増えていくという事を意味する。
今でも、俺の所属していた魔法陣研究室では、昼夜を問わず、本体の使う、現存しない魔法の解析と書物制作が行われている事だろう。
☆☆☆
ちなみに、俺が開発した魔法陣は、これまたオリジナルであり、それを魔導書として独自に書き記した物は、世には出回らない。
ただし、本体は見ただけで真似ができるだろうし、解析スキルを持った者なら、容易に使いこなせるだろう。
ただしそれには、その魔法を行使するに値する魔力総量が必須となってくる。
Sランクの魔法使いでも、行使できるかどうかってレベルだ。
本体の魔力総量は♾️。
俺の魔力総量は1億。
最低でも、魔力総量が1千万超えをしてないと、発動前に命を落とすか、体内の魔力回路が焼き切れるか、魔力回路かフリーズするかという、悲惨な末路が待っている。
まぁ何故、俺がそこまで言い切れるのかというと、一度、本体の魔法指南をした事があるからだ。
分身体が本体に指南とか、ありえんだろ?
…とか思っている奴は、本体の非常識さがあるでわかってない。
相手は、魔法世界に来る前から、自ら肉体改造をしていて、すでにチートな存在だったのだ。
その本人が、あまりに無自覚に魔法を連発する為、俺が「自分の非常識さを認識しろっ!」とクレームを入れた事がきっかけだったりする。
その一部を紹介しておこう。
無詠唱の
↓
直径10mの
技名『火球』ありの
↓
直径100mの
詠唱『火の
↓
直径50cmのファイヤーボール
無詠唱『火の粉玉』(意識するだけ)
↓
直径10cmの普通のファイヤーボール
とまぁ、こんな感じだ。
だから、俺は本体にこう言ってやった。
「『火は火の粉、雷は火花、水は霧の雫、土は砂一粒』をイメージして使え…『詠唱はするな!』」…と。
「世界が滅びていいなら好きにしろ!」…と。
今のところ、世界が一瞬で消え去るなんて事態は起こってないので、俺の言いつけを守っている…と思いたい。
ちなみに、本体が魔力を制御せずに放つファイヤーボールは、月と同等の大きさまで膨れ上がる。
本体が本気で魔法を行使すれば、一撃で世界は終わるのだ。
それはダメだろ?
だから、自覚を持って行動してもらわなきゃいけないのだ。
本体は悪気なしに、蟻を踏み潰す感覚で星丸ごと消し飛ばしちゃうからな。
自分は死なないからと、手加減ってものを知らなさすぎる。
まぁ、あえて言うなら、次元空間で神相手なら、魔力全解放状態で魔法の乱発をしてもいいってレベルだ。
間違っても、有限な空間に住まう人類の生息地では、魔力全解放なんてヤバい事はしてほしくない。
それを思えば、俺が眷属になったのは良かったのかもしれない。
本体が無自覚に暴走した時、俺がそばにいれば、外部からの干渉も可能だからだ。
どデカいファイヤーボールを放っても、瞬時に細分化して大地を燃やし尽くす事もなくなる。
ただし、細分化した分、被害は広範囲になるのは間違いないのだが…。
ま、その辺は、世界が滅亡しないだけマシだと思ってもらおう。
ハッハッハ!
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