第94話 ミリヲタ転生者の使い方
「あ、そうそう…」
「え?まだ何かあるのか?」
チーコのカミングアウトは、もうお腹いっぱいなのだが?
これ以上聞いたら、腹を下しそうだ。
いや、マジで…。
「あちらの土地は、あのままでありんすか?」
「いや?こっちにいる人類を住まわせる為に、ある程度、変えるつもりでいるけど、それが何か?」
元々の計画では、地獄に避難(という名の軟禁)させている人間や多種族の生き残り、これから出てくるであろう難民の為の移住先として、この世界を利用しようと考えていたのだが…。
閻魔との連絡がつかない。
よって、物理無視の、地獄と現世を繋ぐ
家屋や生活に必要な道具、すべて、地獄で生産し、ストックしてあるのだ。
この世界を含む、10000以上ある異世界を仕切る特殊な結界も、すべて取り払って地獄送りにしてある。
つか、地獄の
制作者が自由にできない代物って何だよっ!
で、こちらの転生者は、鉱石を使って物質変化の能力で、あらゆる武器、アンドロイド達を生産していた。
その鉱石も、今や地獄に転送済みだ。
今、この世界にあるのは、痩せた大地にハゲ山と呼ばれる不毛な山々、鉱石を使っていない、強固とは言い難い、
何故鉱石を使ってないのか…これは想像だが、ここは近代国家にある、強固な金属製の城壁ではない。
中世期に作られていた、土と石の城壁なのだ。
普通に考えれば、石とは鉱物を含む土が固まった物であり、砕いて抽出すれば、微量の鉱物は採取できるだろう。
だが、そこまでしなくても、この世界には、充分な鉱石が眠っていた。
まぁ、それを掠め取ったのは俺なのだが、問題はそこじゃない。
地獄との…いや、閻魔との連絡がつかない為、すべての物をこの世界に顕現できない事にある。
返す気はないが、鉱石だって戻せなくはない。
「やはり、
「ドクターが閻魔様に一任ではなく、丸投げしたせいですよ?」
はい、イノリさんの言う通りですっ!
丸投げしたのは俺、だが、作ったのも俺。
俺は、管理には向いてない技術者なのだ!
管理は嫌だが、権限は欲しい。
↓
でも、いちいち出し入れするのはめんどくさい。
↓
閻魔に丸投げ
至極、真っ当な考えである。
「いやいやいやいや…」
「つー事で、閻魔が…コホン…
「まぁ、仕方ないですね…」
と、イノリも諦めた模様。
現状
痩せた大地に不毛な山々、大量に分裂したスライム達(見た目はネズミ)の大群。
「では、あちこちにダンジョンを作るでありんす」
「なんで?」
「スライム達の住処にし、人類の経験値になってもらったら、スライムの処分、人類の経験値稼ぎで、一石二鳥ではありんしょうか?」
「しつもーん!ダンジョンと言えば宝箱にラスボス!それはどーするんすか?」
「そこまでは知りんせん、皆で好きにやっておくんなんし」
チーコ!お前は提案するだけで、後は丸投げかよっ!!
「つか、ここに匿われている人類ってのが、どんな奴らなのか見ておかなくては、話は先に進まないのではないかえ?」
「それはそうだにゃん」
ビクッ!
「い、いやぁ…見るほどの人間ではないであります!いや、ほんとマジで…」
ん?ここにきて、転生者の様子が明らかに変わった。
「お前、何を隠している?」
ギクッ!
転生者は、自ら正座し、ものすごい勢いで滝汗を流し始めた。
「今までの話は嘘か?」
「いえいえ、とんでもございません!人類を匿い、守ってきたのは事実であります!!」
と言いながら、手を額に当てて、敬礼をしている。
軍人かよ!
キョどりが分かりやすくてヒドすぎるわっ!
(ますます怪しくなってきた…この転生者)
☆☆☆
「帝国の奴らは始末してやったんだ。地下に匿っている人類に会わせろ!」
俺は、キョドッている転生者に詰め寄った。
人間誰しも、弱味を握られたら、本来の力は出せない。
威圧にビビる、触れられたくない過去を小出しにする、ばら撒かれたくない痴態を撮られる。
まぁ、一般的にいうなら脅迫だ。
だが、俺達は違う。
転生者に協力し、敵を撃退したのだ。
匿われている人類に会う権利は、こちら側の正当な要望である。
まぁ、もしも断ったら、その時はミリオタ転生者も帝国と同じ末路を辿る事になるだけだ。
そもそも、俺は俺の意思でここに来たわけではない。
何の愛着も未練もないのだ。
その点、北半球異世界は違う。
すでに俺好みの大陸になり、拠点となり、手駒(?)も増やしてある。
支配神なるふざけた転生者を排除し、エセ神によって、転生転移させられた地球人を、解放すれば、その転生転移者も、こちらの陣営となる。
あとは、邪魔な両サイドの大陸を制圧すれば、北半球の世界は俺の所有物となるのだ…ハッハッハ!
(いや、まてよ?天王神他、原神達がいたら、また今回みたいに俺の意思に関係なく、翻弄されるんじゃないか?)
そう、俺は2人の原神格を持ち合わせているが、最高位に位置する天王神よりは、神格ランクが下なのだ。
そうでなければ、こんな事にはなっていない!
「もっと力をつけねばっ!神をも超える力をっ!」
地獄を支配下に置き、西洋の冥界魔界を繋げ、北半球に住まう獣人族、龍族、精霊族を半ば強引に仲間にし、そこに元々あった魔族領をマルっといただき、世界そのものを拡張させた俺のセリフに、全員がドン引きしたのは言うまでもない。
「えーと…」
転生者は、まだ言いあぐねている。
(仕方がない…)
俺はイノリを残し、他の配下に目配せをし、その場から離席してもらった。
目的はひとつ!
言わないなら、勝手に見て回るだけだ。
俺の役割は、そう!時間稼ぎ!
「なぁなぁ…俺はさっき、白衣を脱いだよな?」
「いえ、知りませんが…」
「………」
「俺は元々、外科医なんだよ」
「へ、へい、それが何か?」
「………」
「ところが、兵器も作れるんだよ」
「ま、ま、マジっすかっ!」
反応するのは、そこだけかいっ!
(こいつ、もしかして、簡単に懐柔できるのでは?)
俺の脳裏に、ある計画が閃きのごとく舞い降りてきた。
「俺は医者だから、お前の体を作る事もできる」
「いや…体は…」
「まぁ、話を聞けって…お前は、延命の為に、自身の脳を保存し、機械の脳を移植しただけの貧弱な体だよな?」
「ま、まぁ…」
「それがだ!自分の脳、強靭な肉体、ほぼ不老不死になる体になるとしたらどうだ?」
転生者は、そんな事できるわけない!と、俺の話を受け入れようとしない。
いや、話自体が一般常識に固執している為、脳内処理が追いつかず受け入れられないのだ。
(脳が機械だとしても、ずいぶんとお粗末なおつむだな…)
その点、イノリは顔色ひとつ変える事なく、俺の話を聞いている。
「んん…それじゃあ、わかりやすく《《デモストレーションでもするか…」
「要塞の基盤を作る!」
「よ、要塞っ!!」
転生者は、目をキラキラさせながら俺を見ている。
わかりやすっ!
バサっ!
俺は異空間にしまってあった白衣を再び羽織った。
「要塞の基盤を作るのに、何故白衣を?」
「まぁ、見てろって…」
シャキン!
俺は白衣の内側に忍ばせてあるミスリルメスを2本取り出した。
ミスリルは、魔力を吸収しやすく、強度も申し分ない。
オリハルコンよりは弱い素材だが、魔力変換に於いてはオリハルコンをもしのぐ。
余談だが、アダマンタイトは、ひたすら硬い。
魔力の吸収も変換も出来ないが、欠ける事もなく、研磨も必要ない。
昔使っていた、10トンメスの替わりに、今は手術用に愛用しているメスだ。
「では行くぞ!」
シュッシュッシュッシュッ!
シャキンシャキンシャキン!
ガリガリガリガリ…ズーン!ズーン!
俺は、城壁から広がった帝国領に向かって、ミスリルメスを振りまくった。
「ほら、出来たぞ?」
転生者は、口をポカンとあけ、出来上がった浮遊要塞の基盤をただただ見つめついた。
「メスだけであんな物ができるなんて…」
「いや、これはそんなに難しい事じゃない」
仕方がないので、出来上がるまでの過程を、簡単に説明した。
メスの風圧で地盤を削り、風魔法で宙に浮かす
↓
地盤を、土魔法でひたすら固め、ガッチガチに固くした地盤を一つにまとめて宙に浮かばせてある
「…以上だ」
「風圧って…」
「素材とその重さによって、様々な物が切除され、縫合できるのさ…無機物なんか片手間でできるんだよ…俺の専門は人体だからなっ!」ニヤリ
「そ、それじゃあ、要塞の基盤に取り付ける兵器は?」
「まぁ、俺が作るか、どこかにいるかもしれない、兵器作り大好き人間に作らせるだろうな…ま、俺は人体が専門だから、兵器開発に精通した奴を見つけて、やってもらうのが1番なんだろうけどな…」
流石のイノリは、俺の意図に気づいていたらしく「はぁ…」とため息をついていた。
「じ、自分にやらせていただきたいのでありますっ!是非!!何でもします!あなた様の配下に加えていただきたいと懇願申し上げますっ!!」
転生者は、地面に頭を擦り付け、必死で頼みこんでくる。
チョロいっ!この男、チョロすぎるっ!
「ま、まぁ、そこまで言うなら、配下にしてやらんでもない…が、条件が2つある」
「はいっ!何でもおっしゃって下さいっ!やり遂げて見せますっ!」
「よし!もうキャンセルは受け付けないぞ?」
「男に二言はありませんっ!」
条件①
俺の手術を受け、新しい体に本来の脳を移植する事。
「願ってもない事!」
「よし…でだ。条件の2つ目なんだが、俺の血をふんだんに使って、身体を神の領域に近づけるから…」
ゴクリ…
「ド、ドクター!何言っちゃってんですかっ!過剰な力は身を滅ぼしますよっ!」
「まぁまぁ…」
「お前、俺専属の召喚士になれ…」ニヤリ
「「は????」」
流石のイノリも言葉に詰まる。
本人は、意味不明すぎて思考を放棄している。
「男に二言はない!…だろ?」
「いや、しかし…」
「これ、決定な…」
「「え、えぇぇぇーーーー!!」」
「ワーッハッハハッハッハ!!!」
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