第93話 マッドサイエンティストの末路と各世界の面倒くさい設定

side城壁


『血がぁ!血がぁ!』


床から出そうとしていたは、その姿を消し、マッドは周囲の物質を血液に変えて、自身で輸血しているように見える。


しかも、手のひらで血液を生成し、手のひらで体内に取り込んでいる。

実に器用なものだ。


さすが、生物関連のマッドサイエンティスト。


「輸血器具もいらない輸血とか、反則だよな」


「「「「ドクターが、それを言うぅ??」」」」


全員からツッコまれてしまった。


「そんな事言ってる場合じゃないですよぉ!あいつの輸血が終わったら、どんな生物を生み出して反撃してくるか…」

「輸血が終わればな…」

「え?」


チーコのやろうとしている事が、なんとなくわかってきた。


あの、貧血になっているマッドの表情、必死に輸血をしようと、周辺のあらゆる物を血液に変えている事実。

導き出されるのは、マッドの体内にレッドマウスライムを忍ばせていると言う事。


そう、輸血された血液は、マッドの体内で、レッドのエサになっているという事。


実際に、マッドの位置は徐々に沈んできている。


チーコが立ち位置を変えず、宙に浮いている為、わかりづらいが、確かにチーコとマッドの距離は広がっている。


帝国の土地も、わずかだがその高さを保っていない。


日本の地盤沈下にも似た、見た目ではわからないほどの減り方。


まぁ、地盤沈下しているわけではなく、表層が削られていっているのだが…。


人間は、体内に血液がなくなれば死ぬ。

しかし、自身の命を繋ぎとめる為とは言え、自身の領地をまんべんなく取り込んでいるマッドはすごいと思う。


絵面は、実に地味なのだが…。


ジュワッ…ドロドロ…。


そんな事を考えていると、マッドの体から、滝汗のようにが溢れ出してきている。


『ようやく成長したでありんすか…純度の低い血液だと時間がかかって敵わんでありんすな…』


チーコの言う純度とは??


☆☆☆


マッドの全身から溢れ出した赤い液体は、白衣をも真っ赤に染め上げ、まるで全身から血液が漏れ出しているようにも見える。


だが、それはもちろん、血液ではない。

そう!レッドマウスライムだ。


チーコの『やっと成長した』とは、何らかの方法で体内に忍ばせたスライムが、大量の血液を摂取し、成長して体外に溢れだしたのだ。


その証拠に、マッドから溢れ出した赤い液体が、レッドマウスライムに変化していく…。


「「「き、きもぉーーー!!」」」


うん、絵面…ひどいよね。


イノリ以外は、鳥肌を立ててキモいキモいと、騒ぎ立てている。


こちらの転生者は、初めて殺人現場に赴いた新人刑事のように、顔を背けてオェー!とかやっている。


「あの見覚えが仕草は、そうしなきゃいけないルールでもあるのか?」

「いや、違うでしょ?」


はい、イノリから的確なツッコミいただきました!


「まぁ、身体中にキノコを生やされるシーンは、どっかの物語で見た記憶はあるが、身体中からが這い出るシーンは中々ないからな…」


出血慣れした俺やイノリでさえ、多少はいる。


慣れてない奴らにとっては、さぞグロテスクに見えているのであろう事は、容易に想像ができる。


『旦那様、終わったでありんす』

「そ、そうか…で、後はどうするんだ?」

『わっちの役目はここまででありんす』

「そ、そうか…」


ザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッ…。


チーコとのやり取りを合図に、レッドマウスライムを先頭に、様々な色をした夥しい数の

スライム達が一斉に帰ってくる。


「いやいや…まてまて!そんなにいらん!!」


これでは、ここがスライムの世界になってしまう。

マズイマズイ!


ここには、人類もいるのだ。

スライムだけ放置しておくわけにはいかない!


「な、何とかしなければ…」


「ただいま戻りましたんす」


いや、その使い方はおかしいだろ!


「はぁ…」

(さて、この自体をどうすっかなぁ…)


「…って、あれ?あっちの転生者は?」

「気絶していて、魔力も枯渇していたんで、放置してきたでありんすが?…まぁ、生命維持のため、脳内に小さな眷属を置いてきたでありんすけど」

「な、なんのために?もう、用済みなんだろ?」


「いえ、賢い頭を悪さに使うぐらいなら、バカになっていた方がマシでありんすし…今後、同じバカをやらないように、脳内でスライムを暴れさせ、本当のバカになって生き恥を晒してもらう事にしたでありんす」


その言葉に、俺は言葉を失った。


☆☆☆


俺のやっている事も大概だと自覚はしているが、チーコはやはり根本が悪魔側の思考なのだ。

やる事が陰湿でぶっ飛んでいる。


「よく俺の配下になる気になったな…」

「わっちは、弱い存在には興味ないでありんすが、自ら旦那様に逆らったり、喧嘩を売るような真似をして、自分の命を粗末にするような愚行もおかしませぬ」


いやいや、胸を張っていう事じゃねーだろ?それ…。


「「「わかるぅー!!地獄にきて、冥界や悪魔界を一緒の枠にハメてしまうような…いや、それを統一して、その混ざり合った闇の世界を、好き勝手に自由に自分好みに変えてしまうようなに逆らえるはずはないよねー!!」」」


地獄出身の妖怪出身者も同意見らしい。


「いや、俺は地球の神に、肉体のままのであって、好きで地獄に行ったわけじゃないっ!!」


「えと…何の話をしてるんすか?」


まぁ、転生者にはわからんだろう。


「お前らが、神の気まぐれで殺されて、異世界に転生転移させられたように、俺は俺で、生きたまま地獄に落とされたんだよ」

「な、何やったんすか?」

「た、大した事はしていない!あー!この話題はおしまいっ!」


と、無理矢理話題を変えようとした時、妖怪出身者から、俺の知らなかった追加の情報がもたらされた。


「私達は、地獄出身ではなく、妖魔界出身にゃん」byミーコ

「ドクターが、妖怪達を地獄に招き入れ、にした為に、妖魔界と地獄が混ざり合ったんすよ」byヨーコ

「妾達雪女は、山の精霊に近い存在なので、妖魔界ではなく、幻魔界…という方が正しいかもしれまぬじゃ」byレーコ


って、チーコに負けじと、みんなを出して、自己主張をする。


唯一、ミーコの語尾だけが変わってない。


(ミーコは、元から地を出してたんだな…)

と思うぐらい、全員が今までとは全く違ったキャラになっている。


コホン…思わず脱線した…。


つまり、地獄の住人が現世に現れていたと思っていた妖怪には、妖怪独自の世界があり、妖怪だと思っていた雪女には、妖怪とはまた別の世界があったという事。


このカミングアウトには、流石に目が点になった。


俺は、それらをすべて一緒くたにし、地獄の住人としてカウントしていたのだ。


妖魔界、幻魔界、悪魔界、冥界…そして地獄…。


なんかめんどくさくなってきたわ…。


「こんな情報、閻魔から聞いた事がなかったんだが?」

「まぁ、閻魔様も、元々は地獄を総ていた絶対強者。それ以上の存在に逆らうような愚かな真似はしないでありんしょう」


(絶対強者とは、俺の事か?)


「ふーむぅ…」

「もうひとつ…」

「まだ何かあるのか?」


チーコ、グイグイくるなぁ…あっちの転生者を再起不能にして、本来の性格が戻ったか?

よくもまぁ、今まで猫を被っていたもんだ…。


「どこにも属さないの集まり…言わば、混ざり者でありんすな」

「混ざり者?」

「人間を捕食するハーフ妖怪やハーフ悪魔でありんす」


チーコ曰く

吸血鬼と淫魔のハーフが女郎蜘蛛。

男をたぶらかし、血液だけではなく、精気も奪い、最後には捕食してしまう妖怪。


夢魔と淫魔のハーフが夢食い。

人間の夢に入って操り、罪なき人々のモチベーションである人生の夢までも喰らい、廃人にして人喰い鬼に出荷する妖怪。


悪魔と鬼のハーフが人喰い鬼

夢食いからの入荷がなければ、人知れず攫って捕食する鬼。


ちなみに、普通の鬼は人間が恨みや憎しみ、殺意など、マイナス感情を拗らせる事によって変貌した妖怪であり、鬼になった人間は、それらの感情がなくなるらしい。

いわば、鬼の姿こそが、人間のマイナス感情で構成されているとも言える。


また、鬼の姿で善行を行えば、マイナス感情がなくなり、人間の姿に戻るらしい。


だが、悪魔の血が入れば話は違ってくる。


って、話の内容に信憑性がなさすぎる。

安直すぎる。

上手く出来すぎている。

はっきり言って信用できない。


だから、俺的にはなのだ。


まぁ、とにかく、こうして悪意のみで行動する妖怪、悪魔は、界隈からと蔑まれ、どこの世界でも問題を起こすので、追放されて放置されているとの事。


駆逐は、人間か善良な鬼であり、善良な鬼とは、日本では『こぶとり爺さん』が有名だし、異世界に於いては『スライムに仕えるオーガ』として語られる場合があるという。


あー!聞くんじゃなかった…。

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