第91話 スライムは『嫌がらせに有用なモンスター』だっただろ?
ザザザザァァァァーー!
城壁の上から見るスライム達は、まるでGのようであり、剣と槍と弓で行う
すべてが科学帝国の領土に消えていったのは、進軍を開始してから数秒たった頃だった。
「さて、チーコのお手並み拝見といきますか」ニヤリ
俺は、大気中の魔力を操作して、各所を映像としてこちらに流れるよう、みんなが楽しく観戦できるよう、城壁に陣を構えた。
科学帝国には、もはやマッドしかいない。
陥落させるのは容易いのだが、本気で嫌がらせをするチーコを見てみたい…というのが本音である。
ここからは、いち観戦者として、チーコを見守ろうと思うのだ。
こういう類の遊びで、チーコにかなう奴はいない。
逆に言えば、イノリとレーコ以外は、イタズラ好きであり、ノリが良い。
ヨーコは天然で、イタズラをしている自覚はない。
ミーコは、やる事なす事派手に暴れて周りを混乱させるタイプ。
その点、チーコだけは西洋出身の吸血鬼であり、元々、ブラッディークイーンという最高位のバンパイアで、立ち位置は《魔王》に匹敵する存在だ。
だからなのか、元々計算高く、用意周到で隙がない。
そんな彼女が、俺の趣味でゴスロリを着ていたり、「〜っち」とか、変な語尾をつけているのも、すべては俺の配下として、努力しての事だろうとは思う。
そうでなければ、レッドマウスライムを手懐け、眷属になるように仕向ける事など、不可能だったはずだ。
そう、いつの間にか、そういう流れに持っていったのだ。
俺個人としては、管理権限を譲渡する事に不満はない。
なんなら、それぞれのスライムを、みんなの眷属にしてもいいぐらいだ。
ちなみに、ミーコの眷属、タイガーケルベロスは、『虎に翼』という言葉にちなみ、大きな翼があるし、ヨーコのフェンリルケルベロスは、元々精霊獣の類なので、空中を駆け回る事ができる。
レーコのヒュドラは、空を飛べない代わりに、大地の障害物をすり抜け、自由に移動できる。
そんな規格外のモンスターと比べて、スライムは小さい。
スピードと数だけが武器ともいえる矮小な存在のはずだった。
「私の眷属は、レッドマウスライムでいいですっち」
だが、チーコの眷属になってからは、明らかに他のスライム達とは違った存在になっている気がする。
そのへんは、流石の俺も感知していない内容なのだ。
だからこそ、今回の進行で、その真価が発揮される事に興味津々なのである。
他のスライムに命令したのは『チーコの指示に従え!』という一点のみ。
城壁に用意したモニターは全部で20。
割と多い…が、制圧した場所のモニターは自動で消えるように設定してある。
そう、見る価値がなくなるからだ。
さぁ、チーコの初陣、お手並み拝見である。
☆☆☆
side チーコ
「さて、旦那様にいい所を見せなくちゃでありんす」
ポン!
わっちは、着ていたゴスロリを、自分好みの姿に変化させました。
洋服は戦闘服、ゴシックも捨てがたいでありんすが、やはりここはドレス。
真っ赤な生地に、黒と紫をあしらった社交界用ドレス。
これが貴婦人の戦闘服。
「よいよい!わっちは、やはりこれが似合うと思いんす!」
テンションが上がってまいりました。
「さぁ!まずは転生者のいる研究室以外の生物を食べつくしなさんし!」
ザザザザァァァァー!!
スライムが波のように蠢いている。
「爽快でありんすなぁ…おっと…」
「ドクター!機材関連は残した方がいいですっちか?」
『いや、いらね…全部処分で!』
「わかりましたっち」
『いやいや、画面越しに見えてるし、聞こえてっから!その服装と言葉使いが気に入ってるなら、無理して変な語尾つけなくていいしっ!』
ありゃ、テンションが上がりすぎて失念していたでありんすね。
「では、お言葉に甘えて…旦那様」
『『『こらー!旦那様呼びはゆるさーん!!』』』
あらら、妖怪出身の3人に怒られたでありんす。
ま、悪魔カテゴリーのわっちには、妖怪カテゴリーのみなさんの気持ちはわかりんせん。
「って言ってもねぇ…スライム達が齧る、溶かす、なくすという過程を見てるだけで、わっちはヒマでありんすよ…んん…よし!わっちが直接、転生者の心を折ってさしあげるでありんす」
スッ…。
わっちは、陰に潜り、転生者の研究室に忍びこんだでありんしたが…。
「誰だ!!」
すぐに見つかってしまったでありんす。
流石はマッド…自身の保身に厳重な対策をしているという事でありんしたか…。
「お初にお目にかかります。
そう、死にゆくクズに名乗る名などごさいませぬ。
ガチャッ!
「敵ぃ??お前、死にたいのか!!」
ふーむ。
これは、銃でありんすね?
カタカタカタカタ…。
「お前、バンパイアだな?」
「ほう…何故そう思うでありんすか?」
「人物識別ソフトってのがあるんだよ!この部屋に入った奴の情報は、逐一データとして記録されるんだ!」
人物ねぇ…。
「では、こちらは?」
スッ…。
わっちは、レッド、ブルー、グリーン、メタルを床に並べて転生者の反応を見ました。
「ネズミ?…いや、スライムか…」
「ほう…」
やはり、頭は回るようでありんす。
「では、この者らが、これからやる事がわかりんすか?」
「ふん!俺をスライムごときで殺せると思うなよ!敵の美人さん!!」
ゲェ…。
「基地外に美人と言われても、ちっとも嬉しくないでありんす…いや、むしろ死ねって感じ…オェ…」
わっちは、貴婦人用の扇を取り出し、大袈裟に嫌な顔をして、吐く真似をしました。
「くっ!!このアバズレがっ!!」
バンバンバンバン!!
「おや?これは拳銃の玉でありんすか?」
わっちの前に固定された小さな鉄つぶて…いや、これは銀の玉でありんしょうか…。
それは、わっちを吸血鬼と判断して、瞬時に鉛を銀に変えたという事。
「フッフッフ…驚いたか!俺は任意で、あらゆる物質を変化させる事ができるんだ!だから、こんな不毛な世界で、これだけの科学設備を作る事ができたんだ!」
いやいや、当たっておりんせんし…。
ガリガリガリガリ…。
「そんな事言ってていいんでありんすか?わっちの眷属が、何やら食べているようでありんすけど?」
ガリガリガリガリ…。
「えっ!あっ!お前ら!何食べてんだ!それは食べ物じゃないっ!こら!データチップをかじるんじゃないっ!!」
転生者は、まて!こら!とか言いながら、追いつく事のできないスピードで走り回るスライム達と、追いかけっこを始めたでありんした。
「オホホ!何か大変でありんすなぁ…」
「や、やめさせろ!!俺の今までの研究データだぞ!」
「そうでありんしたか…アバズレのわっちには良くわかりんせん…オホホ」
わっちは、そっぽを向き、平然と笑ってあしらってあげんした。
ガリガリガリガリガリガリ…。
「わ、わかった!俺が悪かった!」
土下座をする転生者。
ガッ!
その頭をピンヒールで踏みつけるわっち。
「謝る言葉ではありんせんね…スライム達!やっておしまい!!」
わっちの言葉に反応して、スライム達は粘液状に姿を変え、すべてを溶かして食らっていきんした。
「ぐっ…こんな事をしても無駄…だぞ!俺の研究成果は、随時バックアップされるシステムだ!そのシステムを破壊しない限り、俺の歩みは止められないっ!!」
「ふーん…」
「とりあえず、足をどけろ!」
「いやでありんす」
「………」
☆☆☆
ザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッ…。
「来たでありんすね…スライム達、よく見えるように、壁を食べなんし」
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ…。
マウスライムに戻ったスライム達は、簡単に溶かすのではなく、ネズミが寄ってたかって壁を破壊するような、嫌な音を立てて壁を崩していきんした。
「ちょっ!」
ポカンとする転生者。
顔色が、どんどんと赤みを失っていく。
壁の外には、夥しいほどの機械の部品…と、夥しい数のデータチップ。
本体は壊さず解体をし、データチップはすべて破壊せずに持ってきた模様。
転生者の反応を見る限り、言っていたバックアップシステムなのでありんしょう。
「えと…バックアップが何でありんしたかね?」ニヤリ
「くっ………」
土下座をし、わっちに頭を踏まれ、周りの研究資材を食い散らかされ、頼みの綱だったであろうバックアップシステムの無残な姿を見せられた転生者は、しばらく生きた屍のようになっておりんした。
「旦那様、おそらく旦那様が望まれていた形にはなったと思うでありんすが…」
『あははは!上出来だ!科学者にとって、何より大事な物は研究成果であり、研究データだからな…あははは!これは、俺でも流石に耐えられんかもしれんな』
「お褒めの言葉、ありがとうございまする」
『だが、そいつは、物質変化というチートスキルを持ってるんだろ?基地外がキレたら、本気を出せよ?』
「わ、わかりんした」
メキメキ…。
わっちは、旦那様の言葉を受けて、慢心していた気持ちを引き締め、警戒心を一段上げたでありんす。
と同時に、転生者は地面にめり込んだでありんすが…。
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