第90話 スライムは『嫌がらせに有用なモンスター』だよな?

「で?何からするんですニャン?」

「あっさり殺しては、何の嫌がらせにはならない…わかるな?」

「それはわかるっち」


とってつけたような語尾復活…。


「はぁ…ま、いいか。科学者は、何より自分の発明やら成果やらが自身のモチベーションとなる」

「ふむふむ…コン」

「ヨーコ………」


で、俺は軽く手順を説明した。

彼女らにも共犯…コホン…手伝ってもらわなきゃいけないのだ。


イノリ曰く、時間がかかってたのは、住人全員の体にナノマシンが臓器単位で無数に埋め込まれており、レッドマウスライムをもってしても、1人の除去にやたらと手間を取られていたらしい。


俺なら、瞬時に除去できるので、まずはマッドサイエンティスト転生者に、精神的ダメージを与えなければいけない。


となると、魔力のバクテリア化により、結界排除をしたような、…的なやり方は効果が薄い。


なので、まずはセオリー通り、マッド転生者の周囲を排除し、孤立させる。


「閻魔!科学帝国の住人を地獄へ送還!」


………。


(ん?)


「閻魔??」


………。

返事がなく、気配もない。


(後でお仕置き確定だな…)


「なら、マッドが管理していない住人のナノマシンを除去!!…ってあれ?」


「ドクター、今、ナノマシンを除去した住人全員が死にました」

「え?でも、お前らも…」


そこで、イノリが説明をする。


イノリ達は、ナノマシン除去後、イノリの体内にあるナノ分子で代用していたとの事。

そうしないと、臓器が停止し、死に至ると判断したからだ。


イノリは、金属類を使用していないホムンクルス。

そのほとんどがナノ細胞で出来ている。


つまり、代用は可能で、代用する事で住人の命も守られる。


だが、俺がやったのは除去


当然、ナノマシンを除去された住人は死ぬ。


「なんていう雑な施術だ!住人の命はお前の実験材料じゃねーぞっ!!」


「「「「いやいや…ドクターがそれを言っちゃダメでしょ?」」」」


いちいちハモんな!!


「えぇい!!これもマッドの精神を追い詰めるための犠牲だ!仕方がない!!」


と、開き直り、マッドの研究室以外の住人すべてのナノマシンを除去した。


やり方は簡単だ。

大気中の魔力を住人に吸わせ、魔力を操って、手をあげて手のひらを上に向けて叫ぶだけ。


『何が起きている!!』


マッドは、ようやく周囲の異変に気付いたようだ。


『け、結界がないっ!!何だ!この夥しい数の死体はっ!!』


って、気付くのおせーよ!


☆☆☆


まぁ、科学者は脇目も振らず、研究に没頭する傾向なのは否定できない。


だが、これだけの規模の異変に気付かないのは、ある意味異常とも言える。


つまり、マッド自身はが重要であり、この世界を征服して我が物にする事にしか興味がない…という事になる。


住人にしても、ナノマシンを埋め込んで生命維持を施した時点で、当の本人においては、…程度の認識なのだろう。


その思想は、同じ分野にカテゴライズされる俺にとっては、実に不愉快な存在である。


「チーコ、こちらに連れてきているスライムは何体だ?」

「そーですねっち、約1000体ってとこでしょーかっち」


イライラするな、こいつの語尾…。


そして、俺は地下施設にいる開発部門の分身体に指示を送る。


『レッド9000体、グリーン5000体、ブルー5000体、メタル2000体、至急に転送しろ』

『ちょ!至急は無理ぃー!!100体づつ送るから、そっちで増殖させてくれ!!』

『使えねーな!お前ら!』

『バカやろー!そんな数、地下でも魔の森でも管理できねーよ!!』

『ちっ!わかったよ…増殖機能は万全か?』

『大気中の魔力は増殖に向かないから、お前の体内魔力次第だよ…それでもお前なら簡単だろ?』


まぁ、確かに簡単ではある。


『じゃあ送るぞ?増殖させた個体は返却不可にしとくからなぁー』ブツッ


一方的に念話を切られてしまった…やはり分身体は、どいつもこいつもわがままである。


レッドマウスライム(チーコの眷属)

主に血液や内臓を好む。


グリーンマウスライム

主に生物、植物の水分を好む。


ブルーマウスライム

主に生物、植物の死肉、枯葉、枯木を好む。

※稀に血液を摂取してしまい、レッドマウスライムのターゲットになる場合あり。

その個体は、色彩の関係でバイオレットマウスライムとなり、制御不能になるため、即時廃棄が通常となっている。


放置すると、自我を持った魔物となってしまうのだ。


そして、新たに開発されたメタルマウスライム。

金属、プラスチック、樹脂など、すべての無機物を好む。


「ちょ!マウスライムシリーズって、魔の森で独自進化した個体だったのでは?」


俺以下、配下の4人は涼しい顔で聞いているが、その中でイノリだけが、何の話をしているの?みたいな反応をしている。


「んなわけないだろ?本来、スライムは球体で軟体の最弱モンスターだ。ネズミ型にしたのは、最弱を最強たらしめる為の実験によって生み出した俺の発明モンスターだ」

「そ、そんな…」

「事実だ…レッドは何故かチーコにしか従わない為、眷属契約によって、管理権限を譲渡してある。分担すれば楽だしな」

「そうですか………」


あ、思考を放棄したな、こいつ。


「私の眷属もいるコン」

「え?」

「キングフェンリルのケルベロス」


その他、ミーコには3つの属性を持つ上位種タイガーを融合させて、猫科ねこか型のケルベロスを与えてある。


レイコには、9つのクビにいろんな属性を持つヒュドラ。


この様に、それぞれ4人を補佐する為のモンスターを眷属化して与えてあるのだ。


これは、チーコがレッドマウスライムを眷属化した事により、他から苦情が出た為の措置だったりする。


また、それぞれの眷属の訓練は魔の森で済ましており、今も呼び出したがっているのだが、今回に却下である。


適材適所、今回はチーコの眷属プラス、それぞれのスライムに頑張ってもらおうと思っている。


やりたいのはなのだ。


渋々、納得する眷属達。

唖然とするイノリと兵器大国の転生者。


「スライムが最強??」

「見てればわかる」


転生者の疑問を軽くいなし、転送を待つ。


『いくぞー!』


ブーン…。


まるで、扇風機を回しているような腑抜けた擬音と共に、転送用魔法陣が構築されていく。


(擬音はいらないのでは?)


と、思わなくもない。


が、俺の仕事はスライム達に魔力を注ぐ事。


そこで、俺は転送魔法陣の上に、魔力と命令を付与した魔法陣を重ねがけする。


シャッ!


俺は転送用魔法陣の上に手のひらをスライドさせた。


(ふむ。ブーンよりはスマートだ…ハッハッハ)


ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!


俺が重ねがけしたタイミングで、それぞれのスライム達が次々と飛び出してくる。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁーーーー!!」


みんなが見守る中、転生者だけが腰を抜かしている。


ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!


「これ、全部ネズミじゃん!!ある意味スプラッタだよっ!!」

「いや、だから…ネズミの姿と機動性を持ったスライムなんだって…能力はスライムと同じだぞ?ネズミの姿をした、音速の機動性を持っているだけの普通のスライムだ」

「いやいやいやいや…マッハで走るスライムって…」


ん?


「いやぁ、すまん。流石に光速にすると、ネズミの形状を保てなくてな…期待ハズレですまん」


「はぁぁぁぁ?!論点はそこじゃねーからっ!!」


何言ってんだ?こいつ…。


そんなやり取りをしている間に、


転送→飛び出す→分裂する→科学帝国に向かう


という過程を経て、それぞれのマウスライムは科学帝国の各地へ散らばっていった。


(閻魔とやり取りできれば、こんな回りくどいやり方をしなくてすんだに…)


ともあれ、指揮官はチーコ、俺達は見学。


嫌がらせの始まりである。

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