第84話 地球に似て非なる異常な科学文明世界
とりあえず、わかった事は、この世界に魔法や魔力は存在しない…という事。
異世界なのに…。
俺的には、地球を除く世界は、魔法ありきなのが異世界なのだと認識している。
であるなら、魔法のない異世界とは、どんな世界なんだろう。
おそらく、ここに飛ばされた転生者も、最初は戸惑ったはずだ。
だが、転生者である限り、なんらかの転生特典が付与されているはずで、地球とは違う生態系になっている可能性は高い。
つまり、ごく一般の人間が、なんらかの能力を付与されたまま地球に似た世界に来た…という事になる。
そうなると、この世界の状況は、地球とは全く違っていてもおかしくはない。
俺が同じ立場なら、間違いなく地球の法律を無視した行動をとるはずだからだ。
あとは、飛ばされた転生者の性格がどんな感じなのか…が問題という事だ。
統括神、技術神、知恵神が管理しているとなると、その選択肢は限られてくる。
そう、科学文明の発展だ。
だが、いつの時代も、科学の発展は、必ずしも平和なものになる事はない。
発掘のために発明された爆薬が、戦争に使われたように…発電をする為に発明された施設が、放射能を撒き散らす爆弾に転用されたように…。
発明家の技術を駆使した製品は、作り手の意に反して、必ず武器や兵器に転用されるのが常である。
これは、地球の歴史が証明している。
つまり、ここに飛ばされた転生者の性格によっては、世界がとんでもない状況になっている可能性がある…という事だ。
『まぁ、それは、世界を見ればわかる事じゃ』
by統括神01
『だいたい想像通りなのは否定しないけど』
by知恵神
『私達が悪いんです。言われるがままに、思ったように発想や技術を付与したのですから…』
by繰上げ技術神
あ、さっき消した技術神の後釜がすでに居る不思議…プッ
☆☆☆
しかし、この空間から出るには、ペーパーテスト以外にやらなければならない試練があるとの事。
それは、別室に案内されて判明した。
つまり、自動車免許と同じく、学科試験もあれば、実技試験もあるという事。
『ここに、10人の患者が寝ておる』
「いやいや、見ればわかるし…で?この患者を治せと?」
『話が早いねぇ…』
「いやいや、そこまで鈍感じゃねーし」
『さぁ!見事にこの10人を助けてみせよ!』
「へいへい」
もう、言い返す言葉も見つからない。
何はともあれ、外に出るには、魔法なしでここにいる10人の治療をしなければならない。
とはいえ、地球でやってきた事の延長だ。
大した問題ではない。
ただ、ここにいる患者は、ある特殊な施術を施されている。
見た目は、
①ただの風邪(ウィルス)
②両足の神経切断(施術失敗)
③結核(ウィルス)
④肺炎(ウィルス)
⑤右手首切断(外傷)
⑥胃潰瘍(ストレス性粘膜劣化)
⑦皮膚病(細菌)
⑧失明(視神経断絶)
⑨骨粗損傷(骨格の劣化)
⑩心臓発作
しかし、どの患者にも、ナノレベルのマシンが各所に施術されている。
『この世界には医者がおらず、すべて科学者が治療を施しているのじゃ』
「は?」
『つまり、病気になったり怪我をしたら、科学の技術で生命を維持しておるのが現状なんだよ』
「は?」
医者のいない世界…。
『で、この世界には、なんらかの資格がないと生活できないという規制があるんだ』
は?
「なら、どうやって衣食住を確保してんの?」
『培養植物に培養動物…すべて科学技術から生み出された人工食物だな』
「あんたらは、それでいいのか?」
『いやぁ、転生者を管理する事は無理なので、あくまで監視してるだけじゃな』
(使えねーな!)
という事で、医師免許を取得するために患者と向き合う。
そして、俺が診断した結果
全員、癌だという事が判明した。
原因は明らかだ。
患者の体内に移植されたナノマシンの精度が悪く、ナノマシンを核に癌細胞が活性化しているだめだ。
ナノマシンを多用している人体には、ただの風邪でさえ癌患者となってしまうとか、狂気の沙汰ではない。
人間は機械生命体ではない。
イノリのように、ナノマシンのみで構成された人体であっても、俺の使用したナノマシンは、ナノ細胞というべき、ナノレベルの大きさを細胞レベルにまで大きくして、培養をしたのだ。
しかし、ここにいる患者は違う。
肉眼では見えない、細胞をさらに小さくした機械を埋め込んでいるのである。
せめて、人体に害のない金で構成されていたのなら、大した問題にはならなかっただろう。
だが、ここにいる転生者は違う。
明らかに、人を何らかの人体兵器として活用する気満々なのだという意図が透けて見える。
何故なら、人を人とは思わないような施術しかしていないのだ。
つまり、患者を助ける気がない。
人を駒としか思っていない。
これは、この世界を見なくても何となくわかる。
この世界は狂っている!
☆☆☆
そう結論づけて、患者を見て回る。
細胞内に巣食っているナノマシン…つまり、患者達を蝕んでいる癌の元だ。
本来なら、ナノ除去施術という、通常の医師には不可能な俺独自のやり方で取り除く事は可能である。
しかし、すでにナノマシンは劣化し、癌細胞へと変化している。
この状態で患者を治すには、通常の癌細胞摘出手術が必要となる。
さらに、癌細胞は身体中に転移し、除去手術も困難を極めるだろう。
(こんなチマチマとした手術なんかやってられるか!)
というのが、俺の本音である。
そこで、ある実験を試してみる。
ターゲットは心臓発作を起こして死んでいる患者である。
心臓発作で死んだ者を治せとか、死者蘇生させろと言っているようなものだ。
この世界の神も大概である。
そして、俺が行った事は、死神の力で霊魂を抜き取るという事。
実に簡単だ…ハッハッハ!
そうすると、どうなるか…。
そう、地獄から閻魔が顔を出すのだ。
『だ、旦那…何ををなさっているんで?』
「よぉ…ちょっと神のイタズラで、この世界に飛ばされてしまってな」
『いやいや、そういう事ではなく…なぜ、人間の霊魂を取り出しているんで?』
「え?こうするためさ」
サクッ…。
俺は、死神メスで、霊魂の頭と身体を切り離した。
「さぁ、これで、霊と魂は分裂できた」
『ちょ!』
理論上は、問題ないはずだ。
俺の仮説が正しいなら、幽霊などは人の記憶が具現化したもの。
魂は、その人の根本的な性質を司る部位が具現化したもの。
でなければ、魂が輪廻転生したあと、生前の家族に夢や幻覚で会いに行く事なんてできないはずなのだ。
つまり、除霊とは悪しき霊を浄化し、生前の悪い記憶を消すという事。
降霊とは、生前の記憶を持った人の霊を現世に呼び出すという事。
『いやいや、理論上は間違ってませんが、何故、今ここでそれをやる必要があるんで?』
ふむ。
閻魔のいう事は一理ある。
俺は、別に霊と魂を分裂させるために、わざわざ死神の力を使ったわけではない。
ニヤリ…。
「閻魔…この南半球とやらにある異世界は、10000以上の世界で埋め尽くされているらしい」
『ほうほう』
「その垣根を、すべて取り払ってくれ」
『へ?』
「そうすれば、北半球にある大気中の魔力が、こっちにも流れこんでくるだろ?」
『え…えぇ…まぁ、そうなりますかね…』
そうなれば、この世界は俺のフィールドだ。
「あと、チーコとレッドマウスライムを数匹頼むわ」
『へ、へい…』
スッ…。
こうして閻魔が消えてから数分、チーコとレッドマウスライムが姿を現した。
イノリ、ヨーコ、レイコ、ミーコと共に…。
閻魔がみんなに詰め寄られて仕方なく…という状況が目に浮かぶようだった。
「さて、始めるか!」
「「「おぉーー!!」」」
別異世界で、俺の配下全員が雄叫びを上げた。
こうして、この異常な異世界を正常?にする準備は整ったのであった。
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