第74話 ドクターの知らない私達(?)の内緒事。

「ん?」

我に返った私は、現在、体が動かない事に驚きを隠せませんでした。


意識を失って、気がつくまで、一歩も動いてはいなかったのです。


「なんで?」

『それはね…ボクの意識が君の意識を支配下におけなかったからだよ』

「あなたは誰?」

『ボクはキミであり、キミじゃない…まさか、神の加護ってのが、こんなに強力だとは思わなかったよ…はぁ…』

「えと…つまり?」


私の中のは言いました。


そのは、ドクターの幼馴染の魂だと。

そのDNAを培養して私が生まれたのだと。

幼女趣向は、その名残りだと。

幼女絡みで私が暴走した時、魂が身体を支配して、自我を入れ替えていたと。


(ホールでの惨状はアンタの仕業かいっ!)


『いや、キミの仕業でもある…ボク達は一心同体なんだよ』

「納得しかないっ!」

『で、本題なんだけど…』


本来は、魂が宿って身体は初めて人格を有する。

ところが、魂の入ってない状態で人格が形成され、そこに原神の加護が宿ってしまった。

更に、封印の儀式までされてしまった。

私が暴走する時に、身体の支配をしようとしたが、何らかの理由で支配権が私のみになってしまった。


『つまり、今のボクは、キミの人格止まりなのさ…ハッハッハ!』


サラッと物騒な事を言ってくれてましが?


『ちなみに、ボクはすでに外科医の技術も解体の技術も習得できるし、幼女のホムンクルスなら、何体でも作れるよ?』

「幼女のホムンクルスはいりません!幼女は生身!そして愛でる!それが至高!!天国!!」

『あぁ、そうだね…それには同意だ』

「で?アンタは、薬学とか工学はできないの?」

『そりゃあ無理だ…そもそも、てっちゃん(ドクター)は、人体ではなく、機械弄りが好きだったからね…で、投薬とか言って飲ませてるのは、アレ、薬じゃないからね?細胞の簡易移植術だから』


え?マジで?


『一回の投薬で、完全に体に馴染む薬なんか無いんだよ』


まぁ、確かに?


「って事は…」

『全員が、それに気づいてない』


コイツもヤベェ奴だけど、やっぱりドクターがダントツでトンデモねー奴だな!


知ってたけどっ!!


「で、なんで私達、あんな光景見てるのに、冷静になってんだろ?」


あんな光景…。

そう、奴隷市の事です!


それを見て、私は意識を手放したのです。


『いやぁ、あの時点では、完全にボクの支配下だったんだけどね?キミの身体を乗っ取る事が出来なかったんだよ』

「なんで?」


身体を支配するとか、ちょー辞めて欲しいんだけど、謎が残ります。


目の前で、幼女が奴隷市で売られているのに、身体が動かないワケがない!!


幼馴染君に支配されなくても、私なら動く!

間違いなくっ!


でも、今は何故か頭の中が冷ややかになってしまっている。


何、この状況…。


☆☆☆


『ところでさ…ボクとキミが融合しちゃった事は内緒ね?』

「なんで?」

『今の状態は、いわば混ざり合って封印が解けた状態…ボクを再度封印したり、抜いたりすると、キミも一緒に着いてきちゃうから』

「それって…」

『人間基準でいうと、死んだ事になり、神の加護も道連れになっちゃうって事…ただの肉塊にはなりたくないでしょ?』

「それは…」

『だから、一心同体なんだって…』

「なんとかならないの?」

『二重人格の、片方の意識が引き剥がせると思う?元々同じ魂に宿った性格をっ

!』

「聞いた事ないわね…閉じる術はあるみたいだけど」


という話から、意識は共有してるので、必要な時に、どちらかが主導する話で決着がつきました。


この時点で、ドクターよりも能力の劣る私の身体から、自立型が消え失せてしまったらしいです。


幼馴染君の魂が入った時点で、容量オーバーになったからなのだとか…。


ドクターの幼馴染君は、女の子になりたかった男の子で、名前をミノルと言うらしい事から、私の時はイノリ、彼の時はミノリと分ける事にしました。


常日頃の人格は私が主導!

何故なら、私の主人格でないと、神の加護が使えないから!


(なんか複雑…)

『だよねぇ…』


そう、思っている事、今まで思っていた事、私が生まれてから、現在に至るまで、すべてが筒抜けになってしまっているのです。


ウゼェ!


「で、なんで私達、奴隷市を眺めてんの??」

『なんか違和感があるんだよね』

「あー、わかる…この違和感、なんだろ?」


『「萌えない」』

『「尊くない」』


それだっ!!


第三者からみたら、ただの独り言でも、私の中では違います。


元々、趣向が合っているためか、元の素体が同じなのか、音声と心の声がハモるほど息はぴったりなようです。


ここからは、眺めているだけではなく、観察をします。

違和感の正体がなんなのか、調べる必要があるのです。


幼女趣味が消えた?


『「いや、それはない!」』


ふむ。

まったくの同意見…フッフッフ!


では、何故、奴隷市でありながら、と、思わないのか…。


『「たぶん、あの奴隷達が、純粋な奴隷ではないから」』


「あと、人間ですらないのかも…」

『いや、モフッ娘も好きだよ?』

「いや、そっちじゃなくて…」

『んじゃ、想像できる奴隷市ってのを、まず思い浮かべて、比べてみよう』

「だね…」


【奴隷】

奴隷は、普通の服を着ていない。

大抵は、ボロのような布切れを羽織っている。

全員、裸。


は?


奴隷には首輪が付いていて、鎖で繋がれている。

無い。


ん?


食べ物は、固いパンと水。

生肉。


へ?


【奴隷商】

悪趣味な高級服を着て、大抵は高圧的。

優しいサラリーマン風。


んー。。


金持ち。

金を持っていなさそう。


なんで?


【買い付け人】

高圧的で生意気なイメージ。

目がうつろで、買ってる気配がない。


【奴隷商】、【買い付け人】共に、売る気なし、買う気なし。


むしろ、檻に入れられている奴隷の方が高圧的。


「これって…」


眺めは、普通の奴隷市。

しかし、よくよく観察してみると、不自然な風景のオンパレード。


『「これはダメだ…」』


こういうのを、一般的には『食指が動かない』と言います。


檻の中に裸で入れられているご主人に、怯えながら接客のをしている人間。


というイメージ。


そんな、違和感だらけの奴隷市に降り立つ1人の男…。


奴隷を買い付けに来たようです。


見覚えのある白衣…。


「え?」


「この子は金貨1枚になります…そちらの女性は金貨15枚…」

「その娘、買ったぁー!!つか、全員買ったぁーー!!」

「「「「ありがとうございますっ!!」」」」

「現金払いにするから、全員、連れ帰るぞ?」

「「「「どうぞどうぞ!!」」」」


「へ?ど、ドクター??」


何してんのっ!

あの人!!


ギルドは?王宮は??


こんな意味不明な奴隷市に買い付けに来るなんて、何考えてんの??


おかしい事に気づいてよっ!!

アンタの目は節穴なの?!


ジャラジャラ…。

ドサドサ…。


「これで、、俺のもんだからな?使!!いいな??」


ドクター、何言ってんの?


『あの金、どこから出したの??1億枚ぐらいある感じなんだけど…』

「ドクターって、あぁ見えて、すんごく金持ちなんだよ」

『やりたい放題じゃん』

「そ、そうね…」


そうしてるうちに、広い大地に、いかがわしい格好の男2人を残して、広大な面積で行われていた奴隷市に居た、奴隷、奴隷商、買い付け人、すべての人が消えうせてしまいました。


「ちょっと待て!!話が…」

「俺は、『ここにいる全員』って言ったんだが?」

「そんな拡大解釈があってたまるかっ!!」

「ちなみに、金は、お前らの主人の金庫から拝借しておいた…ハッハッハ!」

「おまっ!!」

「金は払うと言ったが、とは言ってないからな…ハッハッハ!」


『これって…』

「ドクターの言っていた『全員』って、奴隷だけの話じゃなかったみたいね…」

『マジで?』

「ドクターが、よくやる手口…全員って言ってたし」

『ひ、ひでぇ…』


アンタがいない間に、キミの知っている『てっちゃん』はいなくなったのよ…。


『マジかぁ…』

「残念ね…」

『ようやく、そういう事を平気でできるようになったんだね』


そっちかいっ!!

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