第73話 ドクターに課せられたルールと、やっちまった神族領民。

「はぁ…」


流石のドクターも、あまりの寝耳に水な話に

若干やる気がなさそうに見えます。


つか、私もやる気が出ない…。


「まぁなぁ…この世界で収入を得るために、冒険者になったし、王宮のトップの人事も弄ったわけだからな…はぁぁぁ…これから、大陸全体を巻き込んで、人事を進めるつもりだったのに…」


は?

まだ懲りてない??

何をするつもり??


「はぁぁぁ…」

私は、ドクターとはまた違う意味で、ため息をつくのでありました。


「とりあえず、我が家に戻るぞ!」

「え?我が家??え?」


シュン!


ドクターは、私の手を引き、私の知らない『我が家』とやらに転移しました。


「って!ここ、最初に泊まった宿屋じゃないですかっ!!」 


そう、ドクターが『我が家』と称したのは、森の魔物から国を守る要の要塞都市にあった、主に貴族連中が使っていて、丁度品も接客も、無法な冒険者が泊まっているような安宿ではない、赤い屋根の高級宿屋。


「確か私、ずいぶん前にドクターの指示で、解約しましたよね?」

「ん?そうだが?」

「浮遊要塞を作ってから解約したはずですが?」

「うん、間違いない」


は?

宿屋を買い付けるなんて、聞いた事がないですよ?

こんな高級宿屋、いくら積めば買い取れるんですかっ!!


つか、なんか以前見た時よりも広くて豪華になってるしっ!!


「まぁまぁ、とりあえず入ろうや」

「は、はい…」


入ってから、更に驚きました。


「「「「おかえりなさいませ!ご主人様、お嬢様!」」」」


ずらっと並んだメイドが、メインホールに立ち並び、一斉に挨拶をしています。


しかも、その格好は本来のメイドではなく、でありがちな、本来なら『なんちゃってメイド』と呼ばれる類のコスチューム。


「これって一体…」


唖然とする私。


「お嬢様、大丈夫ですか?」

「え、えぇ…って!チーコ!あんた、こんなとこで何やってんのよっ!!」

「えと…ご主人様の屋敷で、メイド長??よくわかんない」

「………」


メイドコスチュームにビックリしている私に、チーコがメイド長だという事実を突きつけられる私。


「まぁまぁ…話は部屋に入ってからだ」

「そ、そうですね…」


何がどうして、こうなった!!


☆☆☆


入った部屋は、以前よりも格段に高級化され、まるでビルの1フロアを丸々家にしたような作りになっていました。


そう、玄関を入ってすぐ、全フロアが見渡せたのです。

神様の加護を受けてから、そんな事が無意識にできるようになっていました。


外見は、4階建ての普通の高級宿屋。

中身は、テクノロジー満載で10階建ての高級マンション風。

ところどころに魔法石が埋められており、何やら現代社会と魔法社会を融合させたような感じです。


「まず、この宿屋は、ちゃんと営業もしている」

「…というと?」

「土地は丸ごと買い取って拡張し、従業員は、オーナーごとそのまま雇った、で、通常営業している」

「へ?」

「入り口を変えただけな…こっちの玄関は、俺たち専用だ!ハッハッハ!」

「いやいや…意味が分かりません!」


ドクターは、私の疑問に答える事なく、淡々と説明をしていきます。


①浮遊要塞を作った時に、家屋を増やした際、王国の中もいじった。


②獣人族領、精霊族領、それぞれに拠点は作ってある。


③赤屋根がチーコ、黒屋根がミーコ、青屋根がレイコ、黄色屋根がヨーコ。

以上が、屋敷を管理する責任者。


④金は腐るほどあり、土地も大陸単位で広げているため、無人の家屋を増やし、亡命者の受け入れ体制を順次進めている。


⑤税収を下げて、民間人が住み良い環境にしている。


⑥3種族間の交易も順調、神族領の土地を削り、土地はまだまだ拡張中。

家屋も建造中。


「まぁ、だいたいこんな感じだな」

「質問いいですか?」

「答えられる範囲ならいいぞ?」


私の質問は3つ

①金はどこから調達したの?


ドクター、働いてないし!


②神族領の土地は、どこまで削るの?


計画性無いし!


③ドクターの最終目標は?


どこに向かってるかわかんないし!


で、ドクターの返答がこれ。


①山脈を削り取った時、人が入れない場所に金鉱山やミスリル鉱山があった。

からの、山脈の土台には金鉱床があり、根こそぎもらい受けた。


すみません!

前半は聞いた記憶がありますけど、後半は初耳ですっ!


②全部。


つまり、神族領をすべて繋げちゃうって事ですね?


③無い。


そーでしたっ!

何かをするために、ここに来たんじゃありませんでしたね…あえて言うなら、法律に縛られないで、自由にできる環境に身を置く事。


ドクターは、自分のルールで人を縛るのは好きですが、縛られるのは嫌いなんです。


「で?何故、ギルドに登録なんかしたんですか?」


そりゃあ、気になります。

ギルドには、ギルドのルールがあるんですからっ!


「登録してなきゃ、素材を買い取ってもらえないだろ?Sランクじゃなきゃ入れない場所だってんだし」


過去形になってますよ?


「で、何故、王宮からの招集があったんですか?」

「いや、それは俺にもわからん」


ドクター曰く、ギルドの呼び出しもわからないと言います。


浮遊要塞建造、防衛体制万全。

大陸の領土拡張。

家屋建造。

ダンジョン整備。

国民の生活水準向上。


「これだけやってて、なんでギルドに呼ばれなきゃいけないんだ?」

「そりゃあ、すべて、ギルドからの依頼じゃないからですよ?」

「あ!」


ようやく理解してもらえたようです。


☆☆☆


「よし!とりあえず、ギルドに行く前に、城壁の外を見に行こう!」


ちょっと待って!

話、聞いてました??


「行くぞ!」


シュン!


聞いちゃいねーよ!


という事で、やってまいりました!

城壁の上。


「「え?」」

そこで私達が見た景色は…。


本来、そこに見えていたはずの運河がなくなり、神族領側の大陸と、こちらの大陸が地続きになっている光景。


しかも、ご丁寧に、城壁から2mあたりの位置に、左右、延々と続く柵が作ってあり、これまたご丁寧に、5m間隔で『立ち入り禁止』と書かれている看板が設置されていた事。


「何これ…」ブチッ

「何あれ…」ブチッ


ドクターは、柵を見てキレ、私は、柵の向こう側に広がるを見てブチギレたのです。


柵の向こうには、当然のごとく、広大な土地が広がり、まるで陳列棚のような檻に閉じ込められた各種族の女奴隷がひしめき合っていました。


ざっと1500人。

内、若い女性500人、成人していない女の子1000人。

奴隷商50人。

買い付けに来たクズ5000人。


つまり、不当に広げた土地で、大々的なを開催していたのです。


各所には、等間隔に転移魔法陣が設置されており、広い土地でも、容易に移動ができるようです。


(こういう時は、千里眼やら探知のスキルはキツイわね…)


まだ、神の加護が制御できない私。


見えるすべての情報が、一瞬にして脳裏に浮かんできてしまいます。


ブチブチブチブチッ!!


「い、イノリ…と、とりあえず、俺はギルドに行く!ここは、お前に任せる!」

「はいっ!」


その瞬間、私の意識は飛んでしまいました。


「てっちゃん!ボクは、あいつらが許せない!殺してもいいよね?」ギロリ

「お、おぅ…あいつらの金は、すべて没収しとけよ?」

「知らない!」

「そ、そうか…じゃ!」


シュン!!


意識のない中、ドクターが慌てて私から離れていくのだけは肌感覚で感じていました。



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