【番外編】俺とあいつのオリジン 2

カチャカチャ…。

グチュグチュ…。


俺たちは、それぞれに組み立て作業に入っていた。


俺は、新しいパソコン。

廃材利用にも限界があり、要となる基盤には少々問題がありそうだが、大きさを加工し、ちゃんと読み込めるようにで補えば、理論上はできるはずなのだ。

まぁ、失敗したらしたで、それも良いデータとなる。


しかし、奴は人体を組み立てようとしていた。

皮膜…つまり、人体の外殻は動物の皮膚を薄く切り取った物。

それを背中半分だけ縫い合わせ、足の部分から骨格、筋肉、神経…と、事細かに組み立てていく。


もちろん、本物を使っているわけではない。

これもまた、動物の部位だ。


小学校に上がり、こいつの探究心は、どどまる事を知らない。


死んだ動物をかき集め、時には野生動物を狩り、その部位で、人間に必要な体内の部位を加工してを作っているのである。


ここまでくれば、流石の俺もがはっきりとわかる。


こいつは、自ら女体を作りたがっているのだ。

それも、女児の…。


幼稚園時代にやっていたのは、その試作。

これで間違いないだろう。


太い骨は削り、血管も筋肉も、人間に合わせて加工していく。


はっきり言って、やっている事が怖い。

顔も怖い…そんな人道外れた行いを、楽しげにやっているのだ。


もちろん、そこにはを作る意思はない。


「それって、人間として生き返ったりしない?」

「するわけないよ?ただ、必要な形にして、それっぽく組み立てているだけだから」


という反応を見る限り、ただ、人間の形をした物を組み立てたいだけなのだ。


生き物の各部位を、まるで機械部品でも加工するように、人体設計図に合わせて部位…いや、部品を加工し組み立てていく。


「人間の女の子が手に入らないかなぁ?」

などと、冗談には聞こえない冗談を言ってたりもした。


しかし、こいつの言う『人間の女の子』とは、生きた人間ではなく死体、野生動物みたいに、落ちてないかなぁ?という意味である。


んなもん、ほいほい落ちててたまるか!!


そんな思考で、人間の骨格に合わせた動物、人間の筋肉に似せられる動物は、片っ端から奴の獲物となっていった。


そして、行き詰まった奴が、次にターゲットにしたのは、犯罪者。


ズルズル…。

ズルズル…。


毎日毎日、どこかしらから死体を運んでくる。


間違いなく、死体遺棄という犯罪である。


「犯罪者は世の中のゴミだよ?ボクの研究に貢献しなきゃ生まれてきた意味がないよ」


はっきり言って、この頃から俺は、奴の思考にはついていけなくなっていた。


ふらっと出ていったかと思ったら、少女誘拐を事前に察知し、未然に防ぎ、事故に見せかけて殺す。

そして、その部位をかき集めてくる。


奴にとって、少女誘拐犯は、世の中で1番の悪なのだ。


少女が怪我をしていたら治療し、保護されるように仕向けて、その犯人が行方不明となる。


こんな事件がたびたび起きた。


奴が組み立てようとしていたのは、間違いなく女児。

愛でるための女児。


だが、生きている女児は、奴にとって『尊い』人であり、それに害をなす人間は、人間にあらず…という性格が、このような事件を巻き起こしていた。


犯罪は未然に防いでいるものの、その犯人を殺していいものだろうか?


「え?ボクは殺してないよ?死んだ人間を持ってきてるだけ」


一人称が、俺からボクに変わっていた。


それがまた恐ろしくもあった。


☆☆☆


俺は、いつしか機械弄りのかたわら、奴の手伝いをするようになっていた。


俺の分担は、主に切除と縫合。

必要部位を、必要な大きさに切り取り、必要な場所に的確に縫合する。


「ボク達、いいコンビだよね」ニヤリ


いやいや!

俺はお前が指示するまま、やっているだけだからっ!!


「フランケンシュタインや、アンデット、ゾンビやなんかは、なんで動くと思う?組織やなんかは、つぎはぎだらけなのにさ」


グチュグチュ…。


奴が、ある時、人体を組み立てながら、こんな事を言い出した。


グチュグチュ…。


「いや、知らねー」


グチュグチュ…。


「それはね、電気信号なんだと思うんだよ」

「根拠は?」

「人間に電気を流したら、筋肉が電気信号通りに動くだろ?」

「まぁな…」

「それで、意思のない死体を操れる事ができる」

「まぁ、理論上はな…」


こいつは何がしたいんだ?


「ところでさ、なんで縫合しても、馴染まない組織があると思う?」

「そりゃあ、拒絶反応があるからだろ?それがなかったら、人間は、構造さえ間違えなければ、手足を自由に増やせたり、義手や義足も必要なくなる」


「そうなんだよ…もし、この世に、あらゆる細胞を融合させて、死んだ組織も再生させる『再生細胞』なんてものがあれば、人体は思いのままになるんだよなぁ…あとさ…霊体を自由に切って繋げるとか…そうしたら、電気信号ではなく、人格をもった人間を作るのも夢じゃないよね?」

「会話が小学生のソレじゃないよな?ハッハッハ!」


「そういうテツヤは、小学生だって自覚ある?」

「ない」

「「ハッハッハ!!」」


小学校4年になる頃には、俺たちの思考は、かなりヤバいところまで来ていた。


まさにマッドサイエンティスト。


いつの世も、こうした呼び名は、自分で付けるものではない。


その行いに対して、人が呼ぶのだ。


☆☆☆


そして、その時が訪れた。


いつものように、俺が秘密基地(初期と比べて、ずいぶんと整った設備にはなっていた)に廃材を持って入ると、奴は下半身を血だらけにして倒れていた。


「何があった!誰にやられた!!」

「いや、やったのは…ボクだよ…ボク、生きた女の子には手が出せないからさ…自分で…チンチンをとって、女児の陰部を作って見たかったんだよ…ヘマしちゃった…今まで、死体でしか組み立てた事ないから…血液が足らなくなる事を…忘れていたよ…」

「もういい!喋るな!輸血は俺がする!!」


こいつの顔色がどんどんと悪くなっていく。


「もう遅いよ…それに、君とでは血液が違う…ちゃんとした設備があっても無理だ…あー、細胞ひとつひとつに人格があって、自分の体に戻ってくれたらなぁ…」

「バカを言うな!もう喋らなくてもいい」


目の色が変わりつつある…もう意識はなく、独り言のようになっていた。


「見てほしいんだよ…ボクが作った陰部を…専門家じゃないから、性転換とかは目的じゃないんだけど…へへへ」

「見たぞ!ちゃんと出来ている!!だから、俺の治療を受けろ!!」


「再生細胞があればなぁ…魂を切除、縫合する事ができたらなぁ…」

「ある!あるよ!お前が考えたんだ!無いわけないだろう!元気を出せ!!」

「今まで付き合ってくれてありがとう…今度生まれ変わったら、ボクが君の助手になるよ…ボクは、小さな女の子を愛でるだけ…へへへ」


もう助からない…。


「そうだな…でも、生まれ変わっても、お前はお前だぞ?お前の細胞、遺伝子は、生きたまま残してやる!何年かかっても、姿が変わっても、お前という存在を生き返らせてやる!」

「へへへ…そりゃ…グフッ…楽しみだ…できたら女で頼むよ…女なら、もっと近くで女の子を愛でられるだ…ろ?」

「バカだな…最後までソレかよ…」


奴は息を引き取った。


『見つけたぞ!お前らは生きたまま地獄送りだ!』


そいつは、突然地面から、鬼の形相のような、まるで地獄の閻魔様のような顔をして現れた。


「好きにしてくれ…お前ら…ではなく、俺だけだがな」

目の前で親友が息を引き取った。

俺には、もう何もする気が起きなかった。


『そこの死体は処分…』


バキッ!!


俺は閻魔を殴った。


「こいつはまだ死んじゃいない!!俺が生き返らせるんだ!!俺を連れて行きたきゃ、こいつと、この施設、俺達に関わるすべての人から記憶を消してからにしろ!!」


『子供だと思って舐めておったわ!普通なら、お前みたいな子供を生きたまま地獄送りになどはしない!むしろ、死んだこいつの方が罪は重い!』

「死んでねーって言ってんだろ!細胞、遺伝子、そのどれかが死滅するまで、俺はこいつを死んでいるとは認めねー!!罪なら、俺がすべてかぶる!!止めなかったんだからな!!文句あるか!!」

『ふむ…協議のやり直しだ』


スッ


(なんだったんだ…)


それから、約5年。

中学校もフリーパスした俺は、延々と機械弄り、人体弄りを繰り返していた。


ニュッ


またやってきた。

こいつは、確か閻魔っぽい奴。


『お前は、一度、活性細胞なるものを使い、身体を大きくして、司法解剖に参加、あちこちにある死体の部位を盗んだな?』

「だから何だ?俺も遊んでいたわけじゃない」

『お主も大罪人と言う事だ!』

「うるせー!!俺も人体構造を知らなきゃならなかったんだよ!!誰も俺だとは気づいてないからセーフだ!」


『『アウトだバカ!!』』


こうして、俺は生きたまま地獄に送られ、地球と地獄を行き来しながら、地球時間で3年、地獄時間で300年を過ごす事となる。


結局、奴の細胞は、ほとんどが死滅し、俺が再生細胞を発見して培養を進めた結果、人間としての形を形成していく事になったのだ。


それがイノリ。

元女児愛好家にして、俺の唯一の幼馴染であり、親友だった男。


イノリの一人称が『ボク』になったら、記憶が蘇った証拠だから、今までの経緯を話してやろう。


まぁ、最初は目ん玉が飛び出るぐらいビックリするだろうがな…ハッハッハ!

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