【番外編】俺とあいつのオリジン 1
あいつと会ったのは、幼稚園の頃だった。
家が近い事もあって、すぐに仲良くなったのだが、奴の趣味は目を疑うものだった。。
それは解剖。
主に、カエルやトカゲ、ヘビや魚。
子供が容易に手に入れられる生物だ。
来る日も来る日も、森や川に出かけ、捕まえては解剖する。
俺は、その光景を奴とは違う視点で見ていた。
川で取れた魚は、食べるわけでもなく、容赦なく切り刻む。
気に入った部位…特に内臓なのだが、それは氷の入ったビニール袋に入れて持ち帰る。
俺が何故、そんな事に付き合っていたのか…。
それは、こいつのやっている事の顛末が知りたかったからだ。
ただ、切り刻んで遊んでいるだけなら、そう興味も湧かなかっただろう。
しかし、その行動には何かしらの行動理念があるようにしか見えなかったのだ。
そういう俺も、捨てられている家電を分解して遊んでいたし、その仕組みを知るのは、とても楽しかった。
違う部品同士を組み合わせて、何かできないかを実験した事だってある。
だからだろうか…。
こいつが何を解剖しようが、ただのイタズラではないという事が俺の興味を引いたのだ。
ある時、何故、そんなに解剖したがるのかと質問をした。
その質問に、こんな答えが返ってきた。
「俺達みたいな子供は、動物とか人間とかは解剖できないだろ?だから、それに似た部位を探しているんだよ…大きさも、今はこれぐらいでいいしさ」
とても物騒な奴だと言う事がわかった瞬間だった。
しかし、何をしたいのかが知りたい俺は、知らず知らずのうちに、内容がわからないまま、奴の助手となり、言われるがまま解剖の手伝いをするようになっていた。
そんな俺達から見たら、普通に通う園児は、とても幼く見え、とても同じ遊びができる雰囲気ではなくなっていた。
奴は、今の時点で手に入れられるあらゆる生物を解剖し、部位を集め続けた。
しかも、やたらと難しい言葉を口にする。
そう、日中は探索、解剖、解体を繰り返し、夜は専門書を読むための座学…いわゆるお勉強を独学でやり、知識を深めていっていたのだ。
それに気づいた時点から、俺も負けじと座学を学び、奴についていけるレベルを目指した。
文字も読めるようになり、専門書の意味が理解できるようになるに、1年もかかる事はなかった。
奴は生物学を極めつつあり、俺は電子工学を極めていった。
解体、保存に必要な機器は、俺が担当した。
もちろん、必要な材料は自作であったり、拾い物であったりしたのだが…。
幼稚園児にできる事、手に入れられる材料なんかは、たかがしれている。
しかし、俺たちは、そのできる範囲の中で、できる事を模索し、日々を過ごした。
そんな俺達と、普通の園児の認識は、すでに隔絶された領域で異なり、見てる世界がまったく違ったものになっていたのは、必然であった。
しかし、これだけの認識差がありながら、奴は幼稚園を休む事はなかった。
何をするわけでもない。
ただただ女児を観察し、頬を赤らめ、想いに耽るのが好きだったからだ。
そのへんが、俺と奴との決定的な違い。
「尊い…」
これがこいつの口癖…。
はっきり言って意味がわからなかった。
俺は、恋愛感情でも芽生えたか…とさえ思ったのだが、そうではなく、奴の目は、あくまで女児そのものに興味を示していた。
好きこそ物の上手なれ…とは、良く言ったものだ。
俺達のあくなき探究心は、知識を貪り、知識を蓄え、知識を活用する域に達していた。
そうして過ごした2年間…これが俺達の幼稚園時代である。
☆☆☆
小学校にあがると、奴の行動は、更におかしな物になっていた。
入学早々、理科室の人体模型の女体バージョンを作って並べたのだ。
卒園式の記念に、入学までの短い期間で制作をし、秘密裏に運び込んだとの事。
しかも、幼女の人体模型…どう見ても、兄妹か親子にしか見えない。
しかし、問題はそこではなかった。
両模型に、リアルな生殖器を追加していた。
間違いなく、思考がおかしな方向にいっているのがわかる。
そして、奴はこう言った。
「見せたいものがあるんだ」…と。
場所は、幼稚園の頃から通い詰めていた森。
子供がよく作る『秘密基地』的な、簡単な作りの場所だ。
俺達は、研究のために、野晒しから居場所を確保していた。
主に作ったのは俺。
奴は、爬虫類から、死んだ動物にまで手を出していたのだ。
これは、人に見せられるものではない。
だから、こいつを隔離する意味も含めての居場所が必要だったのだ。
死体を扱っているので、腐敗臭がすごいはずなのだが、そうはならなかった。
俺が、廃材で冷蔵庫を作ったり、顕微鏡を作ったりしている裏で、奴は、『活性細胞』という摩訶不思議な細胞を発見し、すべての部位に結合させて、生きたまま、各部位を保存する
活性細胞は、死体の細胞を活性化させ、生きてはいないが、死んでもいないという状態を維持しており、屍臭がするはずもなかった。
この行為が、趣味丸出しでなければ、まさしく神童…世間から注目を集めていただろう。
小学校1年にして、未開の領域に達していた俺たち。
そんな俺達に、小学校の勉強はすでに意味を成しておらず、一学期が終了すると共に、俺は担当の先生の前で大学入試の問題集を10冊解いて渡した。
もう、勉強する事はない!
というアピールである。
先生は、家庭訪問を試みたようだが、それも手を打っておいた。
両親に、俺の発明の特許をとらせ、権利収入が入るように手を回し、黙らせる事に成功していたからだ。
そう、両親にとっては、俺は金を産む卵。
大人の口は大人の口で黙らせる。
これが1番手取り早い。
俺は、夏休みを境に学校には行かなくなっていた。
しかし、奴は違った。
小学校の勉強は、すでに必要がないはずにも関わらず、通い続けた。
女子児童を見るためである。
これが大人なら犯罪ものだ。
そうならなかったのは、本人も同じ児童だったから。
奴が学校に行かなくなったのは、小学校4年になってからだ。
「成長期が憎い」
その言葉を最後に、学校…いや、女子児童に興味を持てなくなったらしい。
この頃からだ。
奴がおかしな方向に走り出したのは…。
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