天才外科医の異世界スルーライフ

第69話 ドクターの暴走と神々の決断

『今、奴は次元を切り裂いてこちらに来ようとしているから、各次元を司る神々で切り裂いた次元を繋いでおるのじゃが…』

「あー！ダメダメ！そういうのが、1番嫌がる事だから！本当に暴走しちゃいますよ？？ドクターにとって、制約されるのが1番嫌いなんですからっ！！」

神々とか言ってますが、ドクターを舐めすぎです！

法律が嫌で時代を飛び越えようとする人ですよ？

時代も次元も異世界も、まったく関係ないドクターを閉じ込めてどーするんですかっ！！

『仕方がない！あやつは次元牢獄行きじゃ！！それなら次元を切り裂いてはこれまい！！やれ！！やられる前にやるのじゃ！！』

「あー！それもダメ！！あなた、本当に神々の頂点？？」

『無礼な…！！』

「最高位の死神と邪神が、何故ドクターに取り込まれたのか、考えなかったんですか？？」

『え？』

『『『『『投獄完了しました！！』』』』』

あちゃー！

やっちゃったよ…こいつら！！

「閻魔さん？」

『へい！』

「ドクターは？」

『めっちゃ怒ってますよ？なんで旦那が廃棄場に来てるんですかね？…私達、逃げていいっすか？牢獄に封印されたいろんな物を、やけ食いしてて近寄れません』

天王神以下、全神々が固唾を飲んで私達の会話を聞いています。

「みなさん！お聞きになった通りです！」

『いやいや！まて！何故、次元牢獄に封印した奴が地獄にいるんだ？？』

「神様なのに知らないんですか？」

意義を唱えたのは、次元神の眷属、『牢獄神』。

いわば、次元牢獄の管理人的な立場の神様です。

このぶんでは、『無限牢獄』の管理人もいそうな気がします。

「神様に分からない事が、私に分かると思うんですか？？もうすぐ来ますよ？実質、次元を切り裂くよりも簡単に移動できますのでっ！」

シュン！シュン！シュン！

それを聞いた観客席の神々は、一斉に消え始めました。

どうやら避難勧告が出されたようです。

指揮をしているのは天女神。

私と天王神との会話を聞きながら、ダメ押しで牢獄神に対する回答を聞き、行動に出たようです。

それにしても、9神は部下を避難させながらも、自分達は動こうとしません。

(んー。やっぱり、神様なんだよね？この辺が…)

そう、やはり神に限らず、部下を見殺しにする上司に碌な奴はいません。

私の中で、少しだけ9神の株が上がりました。

ドクターが喰らっているもの…その正体を私は知っています。

邪龍なら、丸齧り…当然です。

龍核をなくした邪龍には、大した能力が残っていないから、他の部位、素材とも言いますが、それを体内で消化させ、力としているのだと推測できます。

ですが、最高位の神である『邪神取り込み』と、『死神取り込み』は、邪龍核を取り出した後の邪龍を喰らうとは、一線を画します。

何故なら、ドクターが食らうのはその能力のみ。

つまり、神の根底となる能力と核となる心臓部を喰らう事で能力の増幅を計っています。

元邪神、死神は、一旦人間に落とされ、良からぬ事を考える人間、無自覚に人を死に追いやる人間となり、そんな危険人物を現世に送るわけにもいかず、地獄で飼い殺しの予定です。

何故なら、能力を得たドクターにとって、闇系の神は、用済みであり、すでに2神を抜け殻だと認定し、地獄で要職につかせる事になるからです。

それもこれも、ドクターが最高位の神である2神のあらかたを取り込んでしまったためなのです。

なんて身勝手なっ！

と思ったところで、それは今更…。

ドクターはそういう人です。

更に、最高位クラスの邪神、死神を取り込んだドクターは、その眷属も支配下に置いているという立場になりました。

何故、推測を交えた自分の考えを説明しているのか…それは、現在、物凄いオーラを発しながら、地獄から出ようとしているからです。

ドクターが出てきたら、どんな事態になるのかは想像できません。

ドクターの過去にあった、『幼馴染』云々については、この騒動が終わってからの尋問…もとい、詰問で明かしていただきましょう。

☆☆☆

さぁ、これまで解説的に、延々と語ってまいりましたが、そろそろ状況が動きます。

ズゴゴゴォォ…。

コロッセオを覆う、ドス黒いオーラ。

もちろん、ドクター本人から発せられているオーラで間違いありません。

姿を現してないのに、オーラだけが充満していきます。

ズゴゴゴォォ…。

再び鳴り響くオーラの発生音。

それに伴い、闇が深くなっていくコロッセオ。

『『『『ゴクリ…』』』』

最高位神全員が固唾を飲んで、ドクターの出現に備えます。

もちろん私も…。

(あれ？これって…)

固唾を飲んでいる私に、ほんの僅かな違和感がありましたが、これは神々には黙っておきましょう。

ゴゴゴォォ…。

「よい！最高位の神々お揃いで、好き放題やってくれたな…」

『『『…………』』』

「次元牢獄に閉じ込めてくれたおかげで、楽に来る事ができた…感謝する！クワッハッハ！！」

『何故じゃ！！次元空間に留めるより、次元牢獄に封印した方が楽とは、どんなカラクリじゃ！！』

まぁ、当然の疑問です。

でも、いくら天王神だからといって、その詳細は教えてもらえないと思いますよ？

言うなれば、ドクターには、すでに『次元牢獄』を切り裂く能力がある…という事なのですから。

「俺をここに来させなかった次元や時空を操る神はどこだ！！数人ががりで切ったそばから封じていたのはわかっているぞ！！そいつらは全員粛正だ！！」

あら？

神々がドクターを粛正するとか言っていたのに、反対に粛正されちゃう流れですよ？これ…。

『すみませんでした。私が代表して謝罪いたします』ぺこり

おー！！

流石は天女神様！！

「謝罪を受け入れよう！！」

『ありがとうございます』

「ただし！！代償は支払ってもらう！！」

『な、何をお望みで？』

天女神様は、あくまでドクターと敵対するつもりはないようです。

はっきり言って『賢明な判断』。

『バカを申すな！！邪神と死神を取り込んだこやつの要望なんか聞く必要はない！！』

『黙らっしゃい！！今は、この方の要望を聞く他ありません！！この方のやった事より、重大問題があります！！』

ちょ！！

ここに来て夫婦喧嘩？？

『そもそも、何故、邪神と死神はこの方に取り込まれたのですか？次元牢獄に封印されたからではないのですか？つまり…この方が取り込んだ事よりも、最高位にある闇属性の神を封印した輩がいるという事実…これは、ここにいる最高位神も、同様に封印される可能性があるという事！わかりますか？』

『ふ、ふむ…一考の余地はありそうだな…しかし、支払う代償にもよるが…』

ほうほう！

天女神様は、そこに目をつけますか？

天王神様の言う事にも一理あります。

ドクターの要望は、だいたい無茶振りが多いですからね…。

確かに、次元牢獄に封印されなければ、ドクターの元に邪神や死神が来る事はなく、取り込まれる事はなかった。

正論です。

ドクターの要望に対して危惧するのも、神側としては当然の意見でしょう。

『『『『どうする？？』』』』

最高位神が皆々、顔を合わせて相談しております。

ここで、ドクターの要望を断ったら、間違いなく暴れるでしょう。

何がきっかけで、暴走するかわからない状態なのです。

そこで、天女神様は条件をつけました。

『我々、最高位神を封印せし輩を見つけ出し、排除して下さると言うなら、できる事であれば受けましょう』

話し合いの結果、神々はそういう結論に至ったようです。

「よかろう！では、ひとつ！この世界の全容を記す地図を差し出せ！ひとつ！最高位神の女神全員の加護をイノリに与えよ！ひとつ！今後、俺達には逆らわず、必要な時に必要な神々を派遣せよ！！」

『『『『『…………』』』』』

神側の条件は、最高位神を封印できる輩の排除。

ドクターの要望は、地図…地図？？

私に女神の加護？？

神々の派遣？？

これ、やっぱり暴走してる振りだよね？？

ドクターから発せられたオーラの違和感は、たぶんこれ。

つまり、ドクターは最高位神相手に、ブラフをかまし、自分の要望を取り付けるために演技をしているという事。

てか、これは黙ってた方が良さそうですね…。

『いいでしょう！すべて受け入れます！元凶の排除をよろしくお願いいたします』

こう言い残し、神々はコロッセオから姿を消しました。

あらあら…とうとう、地獄に続き、神界、天界をも掌握しちゃいましたよ、ドクター。

そう、つまりは結果的に、ドクターにとってはそういう事になるのです。

知ーらないっと！