第65話 ドクターの認識は一般的ではないですよねっ!
地球にいた頃のドクターは、紛れもなく医者でした。
外科はもちろん、内科、小児科、産婦人科、脳外科、皮膚科、精神科。
更には、薬学、細胞学、心理学…果てには、医者とは程遠い分野の、医療機器の設計製作、霊体手術。
あらゆる実験を繰り返して作り上げられた肉体と精神。
しかし、そんなドクターにも信念はあります。
『人は助ける物』
『霊魂は輪廻転生させる物』
そんな彼だからこそ、医者を名乗っているのです。
それが、たまたま地球の法律や倫理に反していたとしてもです。
だから、ドクターは自由に研究が出来、自由に改造が出来る世界を目指しました。
現代社会では受け入れられない、認可されていない手術や投薬も、もちろん当たり前のようにやってしまいます。
そうして、色んな予定外が重なって、今に至っているのです。
そう、医者でありながら、その行為は、今や片手間であり、やっている事は、モンスターや人族以外の改造であったり、神族領への報復だったり、土地開発だったりします。
メスで地下室を作ったり、次元を切り裂いたりするのは、まだ多少なりとも『外科医』としての仕事だと割り切ったとしましょう。
しかし、今はどうでしょう。
山脈を削って浮遊要塞を作ったり、土魔法で城壁を作ったりと、神族領から連れて来た民衆3000人を治療や手術をしたにも関わらず、印象が『医者』ではなく『魔法師』になってしまっているのです。
やっている事は素晴らしい。
死んだ人であっても、霊魂を移植し、生き返らせてしまうチート外科医。
たまに、治癒魔法で治せる怪我も、わざわざ手術をして、暗黙の内に改造を施してしまう事はありますけれども…。
「で?お前は何を黄昏ているんだ?」
「え?」
いつの間か、私の隣に佇んでいるドクター。
「わぁぁーーー!!い、いつから、ここに居るんですか??」
「え?治療が終わってから…そんな、化け物でも見るような目で見るなよ!心外だなぁ…ハッハッハ!」
私は、何をしていたのでしょう?
いくらなんでも、ドクターの接近に気づかないとは…私も壊れてきているのでしょうか?
「いやぁ、イノリが思っているようにな…俺、ちょっと体調に異変が生じてんだよ」
「は?」
心を読まれた??
「いや、違うな…感情がオーラでわかる」
は?え?
どういう事??
☆☆☆
「とりあえず行こうか、歩きながら話そう」
「えと…どこへ?」
「ダンジョン」
ドクターは、私の手を容赦なく掴み、ダンジョン前に転移しました。
(飛び降りて、歩いた方が楽だったのでは?)
と、思わなくもないです。
ダンジョン入り口の数は60。
正解ルートは6。
これは、獣人族領、龍族領、精霊族領に続く、正規ルートであり、防犯の意味も兼ね備えています。
内陸部の癌である悪人は、すでに排除されているため、外部からの侵入を防ぎ、内陸部で新たに起きた犯罪などは国が取り締まるという建前なのですが…。
まったく知らない状態で入ってしまうと、獣人族領に行きたいのに、精霊族領に行ってしまうとかいう、とんでもない事態となります。
ドクター曰く「来たければ、正解を引き当てたらいい!まぁ、適当にシャッフルするけどな」とか、意味不明な事を言ってしまう破天荒ぶりです。
そう、その行為には『面白そうだから』というのがあり、まったく医者というカテゴリーからはズレているのです。
正しくは、国政という観点からもズレまくっているのです。
(はてさて、ドクターは何を考えているのやら…)
「俺な…そろそろ、外科医としての機能が失われるかもしれない…」
歩きながら、サラッととんでもない事を暴露するドクター。
は?
「あのぉ…それはつまり?」
「スピードが下がってきているんだよ…まぁ、副作用だな、これは」
「スピード??」
「そう、通常のスピードが出せないんだよ、今!1人当たり、1分はかかる!改造なんか5分もかかるようになったんだ!な?俺、外科医として終わってるだろ?これから、どんどんとスピードが落ちていくだろう…致命的だ…」
「あのぉ…ドクター??」
ドクターは真剣に語っていますが、私からしたら「は?」ってなります。
「腕が落ちたとか、ミスが増えたとかじゃないんですか?」
「は?腕は確かだぞ?ただ、視力が落ちて、少しゆっくりと施術しないと、間違えてしまう可能性はなくはない」
「………」
いやいや、今でも充分速いですからっ!!
「最近、大雑把な手術と魔法を多様してるせいかもしれんけど…」
ドクターはめっちゃ真剣です。
(困りましたね…)
腕が鈍ってなければ、何の問題もないのですが…。
「ちなみに、さっきの手術以外には、何をされたんですか?」
「えと…神族領の潰した国の切除と、それをこの大陸に縫合した」
「………」
…って、土魔法でやったんやないんかい!!
どうやら、先程大地が広がったのは、ドクターが自らやった施術だったようです。
今の発言に、私は呆れ果て、口が開きませんでした。
すみませんねっ!
☆☆☆
そんな、私にとってどーでもいい話を聞かされながら、やってまいりました!
各自が趣向を凝らしたダンジョン!
本来であれば、魔力の流れなどで、すんなりと『正解ルート』がわかるはずのドクターが、悩みながらひとつひとつ確認しながら歩いていたのです。
やはり、体調がよろしくないようです。
施術のスピード云々は抜きにして…!
そして、ドクターから飛び出した『副作用』発言。
ドクターは、何を持って『副作用』と言っているのか、このダンジョン探索に関係あるように思えてなりません。
何故なら、そうでなければ私を同行させる意味がないからです。
私はダンジョンには関わっておりません。
ただ、内容を聞いただけなのです。
普通にダンジョン攻略をするのであれば、私は必要ないはずですし…。
ゴクリ…。
私の中で、何やら嫌な予感が湧いてきて、変な汗が流れてきました。
ダンジョンや迷宮と呼ばれる類の物は、探索する物であり、通行手段として用いられる事は少ないです。
これはいわば、『迷路攻略』!
ダンジョンとは名ばかりの罠だらけのトンネル!
しかし、異世界では、迷路も迷宮も洞窟も、ただ歩いて終わるトンネルでなければ『ダンジョン』と呼称する傾向にあります。
ドクターのダンジョンは、出口のヒントは散らばっていても、罠もなければモンスターもいない…ね?ダンジョンとは言えないでしょ?
それでも尚、ダンジョンと言い張り、私を同行させるドクター。
とりあえず着いていくしかないようです。
さぁ!ドクターと楽しい楽しいダンジョン探索ですよっ!(やや投げやり)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます