第64話 ドクターがちょっと壊れかけているかもです。

ダダダダッ!!


外から、慌てて入って来たのは精霊族をまとめる族長さん。


いわば、精霊族領の領主という立ち位置になります。

ちなみに、女王様は国王。


「お久しぶりです。族長さん」

いや、本当にお久しぶりですよ?

存在を忘れてましたし。


「女王様!我が国に、続々と民衆がしております!それに伴い、建物も次から次へときています!これはいったい…!」


あ、私の挨拶を無視したね?


『慌てるでない!これから、2000人が我が国に来る!神族領で無下に扱われていた人々じゃ!丁重に、建物に案内せよ!全員、総出で国中を回るのじゃ!』

「ぎ、御意に…では!」


2000人に驚かない族長スゲーな!


というか、族長の言い回しだと、ドクターが治療し終わった順に、閻魔さんが建物を用意しているのか、建物が用意できた順に、治療を終えた人を送っているのか…。


どちらにせよ、建物が余ったり、知らない土地に放り出された人が路頭に迷う事は無さそうです。


しばらくは、大樹の上から観察しましょう。


ドクターが治療に使っていると思われる場所は、おそらく城壁前。


人影はまばらですが、建物と人が連動していると仮定しても、人数、スピード、どれをとっても、治療済みの人を手当たり次第に、治療していると分かります。


理由は簡単!

人影より建物がのは目立つから。

以上からの推測です。


しばらくして…。


『女王!治療終わったからなぁー!国土全域に、その旨を知らせてくれ!本人達には、大体説明しておいた!いじめとかやめろよ?移住者の無法行為も禁止だ!守らなかったら、になると言っておいてくれ!じゃ!』


ブツッ


「「「「「…………」」」」」


あれ?ドクターって、人間で人体実験をしないのがポリシーだったのでは??


私は、ドクターの様子が気になり、隠密スキルで城壁の上に移動し、偵察という名の監視をする事にしました。


そこで目にしたのは…!!


城壁から運河に向かって、ずいぶんと広がりを見せている大地。


は?


運河沿いにあったはずの城壁が、いつの間にか、大陸の3分の1あたりの位置になっております。


内陸地からは、分からなかった衝撃の事実。


ドクターが、『土地は広げるから』と言っていたのは、冗談でも何でもありませんでした。


そもそも、城壁はドクターが設置した物。

移動は、さほど困難ではないでしょう…。


つか、治療を見に来たのに、土地の広がりに対してビックリするのは可笑しくないと思います!…よね?


それにしても、ドクターは相変わらず器用です。


連れて来た民衆は、次元収納に入れておき、順次は、治療をしております。


良く見る設定では、次元収納はは入れられないという定番がありますが、ドクターには、まったく通用しない設定だったようです。


しかし、何でしょう?

民衆を、次元収納とは別に、もう2つ、次元収納があります。


何を取り出しているのか…治療している亜人族が、どんな種族なのか…速すぎてイマイチわかりません。


「いやぁ…カイタイガーさまさまだな…」ボソッ


え?

何、その『カイタイガー』って…??


☆☆☆


黙々と治療を続けるドクター。


シュ…サクッ…サクサク…チクチク。

ポイ…スッ!

シュッと、取り出したを、サクッと切り裂き、患者のあちこちをサクサクと切って、縫い合わせる。


そして、放り投げて転移…。

この動作が、一連の流れ作業であるかのように、治療という名の手術が行われています。


まるで、野菜の下処理から調理までを一瞬でやっているかのような、機械的な動きで…。


「よし!閻魔!は、もういいや…あとは、戦闘用に強化していく」

『がってん承知!』


はて?何の話をしているのでしょう?

人間のパーツとはいったい??


それからのドクターは、ほとんどで、何人族かもわからないような、半死体になっている患者を取り出し、次元収納からは、禍々しいオーラを発したを加工して、手術のパーツにしております。


地球レベルでいうところの、人工心臓や人工筋肉…その代わりに使われているのが、見覚えのあるオーラを放つパーツであります。


そう、これは紛れもない


つまり、魔王と呼ばれるほどの力を持った、魔族の部位。


これまでは、魔王核や血液、ツノなどが用いられていましたが、今回は違います。


皮膚から血管、神経や内臓…使える物は、すべて、魔王を解体した時の素材が使われています。


つまり、人間や戦闘向きではない亜人族には、を使い、現状維持。


戦闘向きな亜人族は、魔王素材を使って強化…という手術をしている事になります。


(という事は…まさか!)


『魔王素材』ならわかります。

精霊女王、獣王、獅子王…散々、実験体がいたのですから…。


では、『人間素材』とは…!


考えられるのは、魔の森に転送された軍隊の人間達。

そして、ドクターの発言。


これらを鑑みると、魔の森に転送された人間達は、『カイタイガー=解体ガー』により、解体され、素材として活用された事になります。


本来であれば、ドクターは他者の部位を使うなんて事はせず、『再生細胞』という、無限に再生し続ける細胞を用いて手術をしていました。


ドクターと私の体を形成しているのも、再生細胞があればこそ…だから、不老不死であり、病気も怪我もしない身体になっているのです。


もっとも、再生細胞を用いたは、体を形成する組織が、その再生力についていけず、あべし状態になるのは必然なのです。


(ん?)


そこで、私は気づいてしまいました。


ドクターは、決してをしていたわけではなく、あくまでを使用していたという事実に。


再生細胞は、あえて使わなかった事実に。


しかし、それでも違和感は残ります。


死体から採取したわけでもない人間の部位使用。

自ら、手を下してはいないとはいえ、生きた人間をとして認識している感覚。


今までのドクターにはなかった、ちょっと不気味な雰囲気が私を包みこんでいました。


☆☆☆


すべての治療を終えたドクターは、城壁を運河の近くに設置し直し、それに伴い、60あるダンジョンの入り口も、城壁側に移動させました。


これは、明らかに魔法。

魔法核を取り込んだ事による、ドクター独自の魔法だと言えます。


切り刻むならメスで…単品を壊したり移動させるなら自力で出来てしまうドクター。


しかし、ながーい城壁、数多くのダンジョン入り口を、魔法無しで移動するのは、流石に困難と言えるでしょう。


ドクターが取り込んだ魔法核には、更に魔王核や死神、邪神といった、とんでもないが付加されています。


簡単に言えば、魔法ひとつとっても、その威力は、常軌を逸した代物になっているという事です。


(あれ?)


私、何か大切な事を見逃しているような気がします。


精霊女王、獣王、獅子王は、そもそも魔法体質であり、当たり前ですが人間ではありません。


その体に、魔王因子を取り込んだとしても、ドクターが調合した薬である限り、副作用や暴走の危険はありません。


しかしドクターは、いくら常人離れしていても、元は人間。

数々の色んな物を取り込み続けていても、副作用がなくても、すでに人間としての機能を逸脱していても、母体は人間。


果たして、ここ最近、ガンガン取り込んでいる最凶種の魔王やら死神やら邪神なんかを取り込んで、無事でいられるものなのでしょうか?


確信はありませんが、もしかしたら、ここに来て、ドクターは、自らの身体を使ったが失敗しているのではないかと思うのです。


つまりは、キャパオーバー。


変な事にならなきゃいいのですが…。

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