第63話 ドクターの『遊び』と言う名の国荒らし。
「よし、これでしばらくはちょっかいをかけてこないな…ちょっと遊ぶか!」
遊ぶ??
「軍事物資は、ぜーんぶ獣人族領へー!」
シュン!
「食料は、ぜーんぶ精霊族領へ!」
シュン!
ドサドサドサドサーッ!
あらあら!
大樹の外に、何やら…まぁ、食料でしょうけど、転送されてきたようです。
『マジかえ?まぁ、神族領の食べ物じゃが、食料に罪はない!結果オーライじゃ!!』
女王様、なんか変なテンションになっていますよ?
「金銀財宝は、ぜーんぶ龍族領へ!」
シュン!
『『『『おぉーー!!』』』』
お隣の樹海から、歓声が聞こえてきます。
龍は、古来よりキラキラした物を集める習性があると言うのは本当だったようです。
つか、これって略奪にならないの?
あ、契約書を使って、代替えしたんだっけ?
まぁ、今更なんですけどね?
しかし、これは中々、エゲツない事をしたのでは?とか思ってしまいます。
っと、あれ?
ちょっと目を離した隙に、ドクターの姿がありません。
「チーコ?ドクターは?」
『えと…神族領』
「は?何しに?」
『さぁ?映像には出ないですけど、音声だけならなんとか…ですかね?聴きます?』
チーコが、先程まで使っていた眷属は、カラス、マウスライム、Gを自然な形で徘徊させ、ドクターに気取られないように、配置していたそうです。
しかし、カラスは神族領の結界に引っかかり、スライムは討伐されてしまう恐れがあるため、使えるのはGのみなのだそう。
神族領に徘徊するGと、コンタクトを取る事で、音声だけは拾えるとか…。
何気にスゲーな!G!
というか、チーコの眷属操作。
ちなみに、素早くて勘が鋭く、何をも見通せるドクターをレッドマウスライムで拘束できたのも、スライムの隠密スキルと、マウスライムの速さ、そして、『数の暴力』。
これらを駆使した結果、ドクターを拘束できたとの事。
ドクターを精神的に追い詰められるのが私だとしたら、物理的に追い詰められるのはチーコだけかもしれません。
『いやぁ、使役権を上書きされたら、手も足も出ないんすけどね』
「な、なるほど…」
ドクターの従者の眷属は、ドクターの眷属でもある…って事ですかね?
ジッ…ジジッ…。
『あ、音声繋がります!』
=音声のみ=
『おい!ここの責任者に合わせろ!』
『誰だ貴様は!』
『お前らに、軍隊を送り込まれた大陸の使者だよ!』
『なっ!まさか!逆賊領の!』
これはおそらく、門番か警備兵との会話。
つか、何?その逆賊領って…。
☆☆☆
まぁ、しばらくは、会話を聞いてみましょう。
『話にならん!』
ドカッ!バキッ!
シュン!!
殴って瞬間移動?
『おい!お前がうちに軍隊を送ってきた親玉か?』
『お、お前は何奴!ここをどこだと心得る!』
『質問に答えろ!国王!てめーの指図だろう!あ?』
あ!いきなり、王様のところに転移したのね?
『そ、そうだ!魔王に与する逆賊領に制裁を加えねば、我が軍事国家の名がすたる!!我が国は、神族領の要であるぞ!!』
『ほう?で?亡命者は見つけたら殺すと?』
『当たり前だ!!魔王に与する国民など、この大陸より出すわけにはいかん!!』
『そういう割には、結構な人数が、こちらに流れてきてるようだが??その全部が、魔王に与していると?』
『や、奴らは転生者や転移者!チートは流石に止められはしない!!だが、転生者が手を組み、我が領主、ゼネス様に逆らおうと、結果は変わらぬ!!次元や時空を超えて飛び交う転生転移者は、いくらでも補充ができるのだからな!!』
これ、例のアレですよね?
擬似神を作って、特定の場所に転生転移させてたヤツ…。
この王様の情報、少し古いみたいですけど…プッ!
『やたら詳しいな…つか、ベラベラ喋って大丈夫か?国の王になっているって事は、中枢に位置する立場だよな?』
『うるさい!!今はそれどころではない!!各国から、部下の不始末に対する抗議、実力行使が頻繁に来て、我の立場も危ういのだ!!』
あー!さっきアチコチに配ってたアレね…。
『ドクターテツヤ…』ボソッ
『ま、まさか!貴様か!あの怪しげな文書を各地にばら撒いたのは!!師団長はどうした!!我が軍は?!そして、奪った金品は?!』
『うるせーな!いきなり軍隊をさしむけやがって!!うちに手を出される前に、すべてうちの物にさせてもらっただけだ!契約書は、その賠償だ!甘んじて受けろ!どうせ、表には出せない金品ばかりだ!俺が有意義に活用してやる!お前らは、その筋の輩を撃退するなり、仲間にするなり、保証をするなり、好きにしたらいい!』
『なっ!き、貴様ぁーー!!』
すんごく自己中っすね…言い分がっ!
まぁ、めちゃくちゃ怒ってたのは伝わってきましたけれども…。
『あ!それと、ずいぶん、国民から絞りとって軍事費に回しているようだから、ここまで来た出張費として、その大半はいただいて行くぜ?じゃあな!』ニヤリ
スッ!
『まて!出張費とは何じゃ!大半とは何じゃ!こら!おい!またんかぁー!!』
ブツッ
あ、音声が切れました。
って、いやいや!
本当に…出張費って何?大半って何?
とか思っていたら、チーコがまた眷属からの通信を受け取りました。
『あ、帰ってきました!映像出ます!』
『テステス…女王!聞こえるか?』
「お、おう!何用じゃ?」
画面に現れたドクターは、耳に手を当てています。
念話は、頭の中に直接語りかける魔法術。
耳に手を当てて、集中した方が感度は良好なのです。
それが念話をしている仕草であるのは見たままなのですが、まさか自分に来るとは思っていなかった女王様。
ちょっとキョドッてて可愛いです。
☆☆☆
『今から、新しく国民となる人族や亜人族を順次送っていく!』
「順次とは何じゃ?」
『ずいぶんと衰弱してるから、治療してから送る!亜人族は、ほとんどが奴隷だったから、ちょっと時間がかかるけど、獣人族領に送る予定だ!よろしく!』
「お、おう!わかったのじゃ!」
『閻魔!精霊族領に、ストックしてあった住宅を、不備のないように配置してくれ!精霊女王の許可はとった!』
へ?
「何を好きにゆうておる!住宅なぞ、許可した覚えはないぞい!!」
「まぁまぁ、女王様!国民が増えても、住まいがなければ困りますので…」
「ま、まぁ、そうなんじゃが…元々、土地には余裕があるし、構わんのじゃが…うーむぅー」
『獣王!獅子王と協力して、物資の確保と、住民の受け入れをして欲しい!』
『物資?また軍事物資か?住民とは?』
『じゃあ!よろしく!』
雑ぅー!
扱いが雑ぅー!!
「ふ、ふむ…獣王達よりは、我々は、まだ譲歩してもらっていたようじゃのう…」
「扱いがねぇ…」
『『『『あははは!!』』』』
ドクターの基準はどうなっているのでしょうねぇ…。
『して、何人ぐらい受け入れたら良いのじゃ?』
『あー!女王か!人族は2000人ぐらいかな?』
『『『『『ブゥゥーー!!』』』』』
「うちは、人数は少なくても、のどかな国だったはずなんじゃが…」
「都市になりそうですね…で、ドクター?ちなみに、亜人族は?」
『おー!イノリか!亜人族は、だいたい1000人ぐらいだ!奴隷をすべて連れてきた』
『『『『『ブゥゥーー!!』』』』』
『大丈夫大丈夫!土地は広げるから!な?』
また、嬉しそうに、とんでもない事を!
『まぁ、初手としてはこんなもんだ…とりあえず、神族領の全容がわからねーから、全員を確保する事はできん』
「ドクター?まさかとは思いますが…」
『え?軍隊を送ってきた奴らには、きっちりケジメをつけてやらんと…な?』
「………」
会話は真面目な内容ですが、映像で見えてますよ?
ニヤニヤを堪えながら喋っているのが!
『じゃあ、俺は治療にあたるから、後はよろしく!』
ブツッ
どれぐらいの軍事物資を獣人族領に送ったかはわかりません。
しかし、亜人族奴隷1000人、人族2000人。
そんな、大規模な間引きを一気にすれば、税収は下がり、労働力も下がり、国としての機能が低下するのは目に見えています。
軍隊を差し向けただけで、これだけの事をされたら、国王もたまったもんじゃありません。
実質的な『国落とし』。
神族領の国がひとつ、終わったと考えても良いでしょう。
にしても、ちょっと違和感がありますね…。
ドクターは、元素レベルを任意で視認できていたはず。
しかし、この盗撮にも気づいていない。
大気中に漂う魔素を固めて、『魔結晶』を作る事もしていない。
本来なら、こちらの大陸でのやり取りで、生活は成り立っているから、わざわざ神族領から、金品や物資を奪う必要もない。
何か、そうしなければいけない理由があって、やたらと金をかき集めている…と考えるのが自然です。
しかも、軍隊を差し向けられただけで、これだけの報復。
以前のドクターからは、想像ができない鬼畜ぶりです。
いや、ただの悪ふざけなら良いのですが…。
ドクターの身に何が起きているのでしょう?
まぁ、今は物資の内容、人民の受け入れに集中しなければいけません。
ドクターは治療、私達は受け入れ…しばらくは、忙しくなりそうです。
ドクターが何かをすると、必ず、些細な事で終わらない事実。
ま、そのへんは今更ですけどね☆
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