第62話 ドクターの団体接客を観戦しますわねっ!
ドクターは城壁の上。
元々、設置された城壁は、運河の始まりから終わりまで…つまり、大陸の運河に面する部分は、長い長い城壁であり、そこに3種族の領地に入る為の門が設置されています。
その門番は、本来、獣人族が豹獣人、龍族がリザードマン、精霊族はマッスルエルフ。
門番としては、どの種族も筋肉ムキムキで、屈強という名がしっくりくる佇まいをしています。
そして、入場門には会計士、まぁ、集金屋さんです。
まぁ、その人達が今は居ないんですけどね?
軍隊と門番が言い争いになり、実力行使もいとわないという雰囲気になった時点で、門番も会計士もいなくなったのです。
門は塞がれたまま…門番を下がらせたのは、ドクターだとして、放置された軍隊を放置して、その後どうするのでしょう?
スッ!
スィィーー。
「いやぁ、お金を払えないみなさん。ようこそ、我が国へ…」ニッコリ
ちょ!いきなり喧嘩をふっかけたぁーー!!
「あ、200人だと、ちょっと混雑しますよね?なので広げます!」ニッコリ
モコモコ…ザッバァーン!
「これで、充分な地面が確保できましたね!」ニッコリ
軍隊側が、何も言ってないのに、どんどんと話を進めるドクター。
何の前触れもなく、城壁前の土地を、拡張してしまいました。
いうなれば、これは『埋め立て』。
運河の幅が狭くなり、こちら側の土地が、大陸単位で広がったようなものです。
「き、貴様!な、何をする!」
「へ?お金を払えない皆様のために、土地を広げただけですけど、何か?」
「金が無いわけではない!法外だと言っている!ふざけるのも大概にしろよ!医者風情がっ!!」
対応しているのは、軍隊の大隊長でしょうか?
鎧の装飾、佇まいを見る限り、まぁ、1番のお偉いさんには違いないでしょう。
しかし、『医者風情』とか、その発言は、ドクターに喧嘩を売っているようなものですけど、大丈夫ですかね?
ほら、最初の『金が払えない』発言で、クスクス笑っていたみんなが、真っ青な顔をして、ブルブル震えだしています。
この隊長さん、恐れ知らずですね…。
おー!こわっ!
☆☆☆
「医者風情ですか…ふぅ…その医者がいないと、困る人もいるんじゃないですかね?ね?お酒好きの隊長さん?」
「な、何を!」
「あなた、お酒を控えるように言われてませんか?そして、そちらの副官さん、打撲と捻挫…何か不始末でもしましたか?」
「な!」
ドクターは、『医者風情』という言葉に怒るどころか、目が合う人合う人、すべての人の抱えている病状を当てていきます。
「で?こちらに軍隊を差し向けた方の意図…つまり、あなた方が何故、軍隊を率いてやってきたのか、お聞きしても?」
こう、涼しい顔で聞くドクターに対し、大隊長は、ニヤリと笑い、またもや上から目線で語りだします。
「我々が、この地に来てやったのは、こちらの大陸に魔王がいるからである!我が軍の精鋭を持って、魔王討伐をしてやろうというのだ!ありがたく思え!」
うわっ!ウゼぇー!
「ほうほう、魔王ですか?確か、大樹海の向こうに、そのような物騒な輩がいるという噂は聞いた事がありますが、この国にちょっかいをかけられた事はないのですよ?」
ドクター?噂て…。
この話の流れ…何を目指しているんですか?
「ちょっかいをかけられてからでは遅いから、そちらに被害が出ないように、先手を打って、討伐してやろうというのだ!ありがたく思え!」
また言ってるよ…『ありがたく思え』
ブーブー!
観戦者は、親指を下に向け、画面に向かってブーイングをしています。
どこの世界でも、やる事は同じなんですね?
「なるほどぉー!だから入場料は払わないと?」
「当たり前だ!ここは無償で通らせてもらう!」
「では、私達が、そちらに伺った時も、お金は払いませんが、よろしいですね?」
「構わん!」
「では、交渉成立です…こちらにサインを!」
•••••••••••••••••••
ドクターテツヤ殿
貴殿が我々の大陸に来た時には、貴殿の欲するすべての物資に対する代金は、我が国が責任を持って支払う物とする。
署名
サーペント公国
第一師団長 ガイル•マクベイヤー
•••••••••••••••••••
「こ、これは?」
「サインしましたね?では、魔王がいるとおぼしき場所に、ご案内申し上げます!」
「まて!勢いで署名してしまったが、おかしなニュアンスじゃなかったか?」
「気のせいでしょう?」
バサバサバサバサ!!
「何をしておる?」
「へ?今の署名を、大陸中の皆さんにお配りしなきゃ…ですので!」
「は?ちょっとまて!」
「わたし、転移魔法が得意でして!!」ニッコリ
スッ!
大隊長が交わした契約書の山は、一瞬にして消え去りました。
「では!みなさんも、お送りしますね?」
パチン!
ガラガラ…ガシャンガシャン…。
ドクターが指を鳴らすと、軍隊総勢200名が、甲冑や武器を置いて、消えてしまいました。
ん?最初は150人だったのでは?
☆☆☆
『ふむ、あやつは、船内に待機しておる兵士も、全員、送ったようじゃの?』
「え?女王様?どこへ?」
『『『『魔の森ぃーー!』』』』
『『『ご主人様、こわぁーい!!』』』
ドクターは更に、念話で獣王と獅子王に連絡を取ります。
『聞こえるか?』
『『はい!何用で?』』
『今から、神族領から来た優しい人達からの『お土産』を転送する!壊すなよ?』
パチン!
スッ!
画面から、軍隊が乗ってきた帆船、軍艦、潜水艦が、一瞬で消えました。
(ま、まさか!)
『『グワッ!全員、配備につけ!ドクター殿が、壊すなと言っていた!無傷で確保せよ!!』』
『『『『『ドクター?!』』』』』
『壊したら?』
『何をされるか、想像がつかん!』
『『『『全員!死力を尽くして確保せよ!!』』』』
『『『『『『『ラジャー!!』』』』』』』
ズズゥゥゥーン!
大樹海の両端に位置する、獣人族領の音が、こちらにも響いてきます。
ドクターの言っていたお土産って、これ??
最初からネコババするつもりだった??
で、軍隊は、鎧も盾も武器も剥ぎ取って、丸腰で魔の森に放り込んだ…と??
鬼畜すぎるでしょ?
流石に…。
しかし、ドクターの行動は、それだけにとどまりませんでした。
城壁前に広がる、埋め立てて広くなった大地に、次々と金銀財宝、保存されていたとおぼしきコンテナに入った食料の山、酒樽の山、軍隊で使用しているであろう武器防具が、次々と送られてきます。
「いやぁ…みんな、あの大隊長の国が支払ってくれるから、こっちにはリスクゼロで大儲けだわぁーー!!」ニコニコ
ちょ!あんた!
何してんの??
『ドクター?今何してますの?』
『へ?仕入れ』
『何をどうやって?』
何かは、画面でわかっていますが、そこは伏せておき、どうやってを強調して聞いてみました。
所詮、私はドクターの助手…他人事にはできないようです。
『え?契約書を受け取った、裏稼業の輩の持ち物を仕入れたんだが?』
ドクターは言います。
いきなり、軍隊を派遣してくる国は、間違いなく好戦的。
かと言って、善良な国民に罪はない。
なので、神族領にある各国の、裏稼業をしている者限定で契約書を送り、受け取った瞬間、『契約完了』として、溜め込んだ物資を洗いざらい転送させた…という事らしいです。
生きた人間で人体実験はしない、罪もない人には危害を加えない、貧しい人には無償で住まいや食料を用意する。
人間として、素晴らしいとは思います。
しかし!
その他は、明らかにやりすぎ!
そんなんじゃ、神族領内で戦争が起こりますよ??
『ふむ…困ったもんじゃ…』
『『『まったくです!』』』
そうそう!
見てる側も、ドクターのやり方、考え方には思うところがあるようです。
『せっかくのダンジョンが使われなんだ…』
『『『ほんと、いきなり魔の森送りとか、私達の苦労が台無し!!』』』
「………」
そっちかい!!
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