第59話 ドクターを追い詰めた猛者達。
私が魔の森を出てすぐ、リズムカルに鳴り響いていた重低音が不気味な高音に変わっていきます。
まるで、自動車やバイクのアイドリングかやら、アクセルをふかして空ぶかししているような感覚…。
(何がはじまるのでしょう?)
森の中では、『なんだなんだ?』と口々に叫ぶと共に、各自の警戒レベルが上がっていきます。
結界を張る者、身体強化を極限まで高める者、臨戦体制になっている者…逃げようとする者は流石に居ません。
『全武装全開!目標!俺の従者!』
魔の森に響き渡るドクターの声。
(遠隔操作??)
『ってぇーーい!!』
ドクターの合図と共に、その姿を現す『要塞都市アルマゲドン』
そして、ありったけの砲撃、爆撃、魔法攻撃が、魔の森に降り注ぐ…。
は?
その爆音は、ドッカーンとかズババーンとか、そんな生優しいものではありませんでした。
例えるなら、すべての攻撃音が収束され、ドン!だのパン!だの、まとまった音だけが響き渡る異様な光景。
要塞都市からは、花火のように打ち上げられたミサイルがドン!と音を響かせ、着地時にパン!
一気に爆発するため、音も単調に聞こえます。
これが、ウネウネと根っこのように伸びた無数の砲身からも、魔法攻撃による、雷撃、炎撃、氷撃、風撃からも同じ現象が起きています。
大きな音が、小さな音を飲み込み、爆音がひとつの生き物のようなうねりをあげて、森を包みこみます。
そして、ドクターが嫌いな『装填系』…つまり、この攻撃には終わりがない。
次に、ドクターが大好きな『追尾型』。
敵に命中するまで、止まる事はありません。
その拘りが、浮遊要塞に搭載されたのなら、それはもはや『厄災』『天災』。
天災外科医とでも改名してあげましょうか!!
ほら、魔の森が、見る見るうちに森じゃなくなっていますよ!
(やりすぎなのよ!!)
と、思っていた私に、その悲惨な状態とは違った叫び声が響いてきます。
『どっこいせー!!』
ドッカーン!
『シャー!!』
ボン!ボン!
『えいっ!』
ガッキーン!ズザザザァー!
鳴り止まぬ爆撃音の中から、何か余裕な掛け声や叫び声が、微かに聞こえてきます。
周りは、もちろん、爆風、土煙、硝煙、視界は最悪です。
しかし、確かに反撃らしい音も混じっているのは間違いありません。
あんた達、何してんの??
いきなり始まった、2島目のアルマゲドンからの攻撃。
焼き尽くされていく魔の森。
飛び回る砲弾に攻撃魔法。
で、それを迎え撃っているであろう誰か…。
いや、本当に、あんた達、何してんの??
☆☆☆
ガチガチガチガチッ!!
ただ今、浮遊要塞と死闘(?)を繰り広げているであろう10名の標的。
獣王、獅子王
ヨーコ、ミーコ、レイコ、チーコ
四聖獣(オス)
その中で、決定打を撃ち放ったのは、おそらくレイコ。
島の土台部分にあった、無数の砲塔を、一瞬で氷漬けにしていまいました。
からの
『獄炎砲!!』
2本のツノから発射された、ミニチュアサイズの太陽砲弾で、砲撃を誘発し、まるで爆竹が端から弾けるように、次々と砲塔を爆破していきます。
凄まじい破壊音…爆発音とガラスが砕け散るような鈍い音が入り混じった激しい音。
しかも、飛び交うミサイルを、瞬時に避けながら…。
(結構器用ですね…)
と、思った矢先、アナウンスが流れます。
『レイコさん、合格!!』
ジャキィーン!!
合格の合図と共に、再びセットされる、無数の砲塔。
レイコは嬉しそうに、私の方に向かって飛んできます。
『やりましたよ!イノリ様!!』
「あ、うん…良かったね」
って、何が??
『にゃ!にゃ!ニャァァァァァーー!!』
お次はミーコ。
ミサイルをバットにして、すべての砲撃を浮遊要塞にや向かって打ち返しています。
狙いは要塞都市…。
島の上部が、特撮の爆破シーンみたいに次々と破壊されていきます。
もちろん、打ち損なって、カァーン!ドカァーン!みたいなシチュエーションもありますが、ミーコはお構い無し。
ガード無しのボクシングをみているような感覚になります。
(ミーコ?そこはほれ!尻尾でガードして…)
ドッカーン!!
『負けないにゃ!!』
カァーン!カァーン!
ドッカーン!ドッカーン!
『ミーコさん!合格!!』
『やったにゃん!!』
すっかり『〜にゃん』が定着した模様。
『続いて、獣王!合格!!』
『ウォー!!』
あれ?獣王、いたんだ…。
『やりましたぞ!!全弾受け切りました…』
って、あんた、ぼろぼろじゃない!!
で、ヨーコはというと、砲撃を掻い潜りながら、魔法攻撃を一箇所に集めて、空中で待機しています。
ニョッキィーーン!!
ミーコが爆破した建物が、生えてきたタイミングで…。
『カウンターショット!!』とか言って、魔法…というか、魔力の塊を、上部から投げ落とします。
『ちょ!!』
ドクター?もしかして焦ってる??
ズッバババドッカァァァーーン!!
上部の都市部が、一瞬で消え去りました。
『ヨーコさん!ごう…』
ズババババババァァァァーーン!!
再び、爆竹が弾けるような凄まじい爆音。
『ちょ!まっ!!』
『無限獅子弾!!でござる!!』
『獅子王さん…ごう…』
『仕上げはわっちですよっと!!はぜろ!!我が軍団!!』
『チュウゥーー!!』
ショ◯カーかよ!!
ズバヌメェェーーン!!
何、その間の抜けた音…。
『あぁーーー!!』
土台部分が粉々になり、爆破煙から飛び出してきたのは、赤いゼリー状の雨と、赤いスライムに拘束されたドクターの姿。
身体中、アザだらけです。
(プッ!)
これは期待以上のマヌケな姿を見られましたわ☆
☆☆☆
獅子王が使った技は、爪を無限に発射する技。
獅子王は、爪を細くするだけではなく、長く伸ばすだけではなく、とうとう、ミサイルのように発射できるまでになったようです。
その爪で砲身に塞ぎ、誘爆させた。
獣人族に根付いた『正々堂々』『力には力を』の精神が、いつのまにか、『姑息に敵の隙をつく』という、ある意味正反対な方向へ行き着いたようです。
反対に獣王は、身体を極限まで硬くし、何物にも傷をつけられない、鉄壁の防御力を身につけたとの事。
加えて、体当たりは当たり前として、すべての体術が、致命傷になるレベルに進化したのだそうです。
つまり、相手の攻撃を受ける前に、それを上回る防御形態となり、無効化した上で攻撃に転じる、超絶脳筋体質となったのです。
ミーコは、見た目通り、バカ丸出しの、おふざけ攻撃。
自爆上等な玉砕戦法で、相手をねじ伏せる。
ある意味、獣王と同じ立ち位置となりました。
ヨーコは、魔法や魔力の制御に特化し、相手の魔力を自由自在に操り、任意で放出できてしまうチート体質に…あらゆる魔法攻撃は無効化され、ヨーコの養分となります。
レイコは、単純に魔力の量が桁外れに多くなったようです。
浮遊要塞の土台部から出ていた、無数の砲身を、一瞬で凍らせた魔力。
ツノから発射される獄炎球の数。
どれをとっても、天災級の威力には違いありません。
そして、チーコが使った作戦は、使役したレッドマウスライムを大量に島に忍ばせ、ドクターに最高速度で奇襲をかけ、ドクターを拘束できた時点で、膨張させて島ごと吹き飛ばす…というもの。
ぶっちゃけ、チーコが1番エゲツないです。
広い場所ならともかく、狭い司令室で、大量の高速スライムに襲われるシチュエーションは、流石のドクターでも太刀打ち出来なかったようです。
身体中のアザは、抵抗した後でしょう。
拘束して、すぐに島が爆発したら、放り出されるのは必然。
『あぁーー!』となるわけです。
ちなみに四聖獣は、浮遊要塞が木っ端微塵になった事で、無傷の勝利となりました。
「結果オーラ…イ」ガクッ
流石のドクターも、疲れが出たようです。
目が、蚊取り線香みたいになってのびてしまっています。
ウケる☆
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