第49話 ドクターの浮遊要塞お披露目と予期せぬ来客。

かくして、地獄ですべてが組み上げられた浮島…もとい、浮遊要塞は『要塞都市アルマゲドン』と名付けられ、地上に姿を現しました。


元々、地上と地獄の移動は、通常の転移魔法とは違い、空間や次元に作用するものではく、『概念移動』という、独自の移動手段が用いられているため、場所、時間問わず、魔法陣などの構築も必要なく行き来ができます。


だから閻魔さんは、ドクターの呼びかけに、すぐさま対応して、顔を出せるのです。


その『概念移動』の効果が、顕著に認識されたのが、浮遊要塞の出現。


「なんだなんだ?」

「なんだか気持ち悪い」

「立ったまま、落下する感覚が怖い」


こんな声が聞こえてきます。


それもそのはず、国や人を飲み込む巨大な影が全土を覆い、まるで幽霊が人の体をすり抜けるように、地上へ姿を現したのです。


人、建物、森…すべてを覆いながら、まるでホログラムが体をすり抜けるように…幽霊が体をすり抜けるように…空中に固定されるまでは、人々にとっては、映像が体を包み込むような3D映像を体験しているようなもの。


地中から、巨大な建造物が地上へ出現するのですから、地上の人間からしたら、一歩も動いてないのに『落下する感覚』を体験している事になります。


まぁ、要するに…的な体験とでもいいましょうか…まぁ、そんな感じではないかとします。


擬似…ではなく、実際に行き来できる私達には、あまり関係のない、それこそ、推測するしかない感覚なのです。


生きたまま、が体験できたのです。

これで、悪い事をしなくなる人が減れば、一石二鳥ですよね?


なので、まぁ、この件はヨシとしましょう。


ただ、それを実施したドクターの説明によると、そんな体験をさせる意図はまったく無く、「え?お披露目は必要だろ?」と言うセリフを抜け抜けとほざいておりました。


地獄への搬送は夜、樹海にて…。

出来上がった時の搬送は昼、各国内にて…。


「いやぁ、驚くかな?と思って…」

「………」

実に傍迷惑な話です。


それでも、大々的に出現させた事による、メリットも、はありました。


それは、突如として、空中に出現したという認識ではなく、『あー、山脈を取っ払って作った島ね』という認識。


しばらく、空中に夥しい数の樹木や土砂が浮かんでいたのです。

流石の国民も、その辺に関しては理解が早かったようです。


元々、浮島が存在する世界でも、を見られる機会は、そうそうあるものではありません。


これから、長い年月をかけ、人類の認識に浸透していくのでしょう。


「ご先祖様がね…」

「そう、言い伝えられている」

「行きたかったら、お勉強しなきゃね」

「あの浮島が私達を守ってくれているのよ」


なんて会話が日常化する日も、いずれは来る事になるでしょう。


実際は、楽園でもなく、宝島でもなく、ただの軍事用浮遊要塞ですけど…。


そんな浮島に行く事を夢見たり、浮島にお祈りをしたり…浮島が当然のように受け入れられる日は、まだまだ先の遥か未来の話になります。


たぶん、興味ないけど…てへ☆


☆☆☆


要塞都市 アルマゲドン。


なんて物騒な名前なんだ!!

と思ったのも、一瞬。


後の4島は、イルマゲドン、ウルマゲドン…以下略です。


ちょー安直!ちょー手抜き!


その形状は、全体を見ると、東京ドームをひっくり返して、底を深くしたようなお椀型の土台に、三角錐を乗せたような形。

異世界の王都、貴族街が山なりに連なっている…そう、です。

パッと見、三角錐に見えるでしょ?


そのてっぺんには、王城ではなく、長く聳え立つビル状の長方形型の建造物。

当然、窓とかはないです。


てっぺんに、鐘がついていれば、それなりにのですが、そんなものはありません。


壁に、大きく『A、I、U、E、O』と、ローマ字表記のアルファベットが描かれているだけです。


それが唯一の見分け方。


遠目に見ると、あたかも城が建っているように見えるのは何故でしょう??


「いやー、途中で飽きちゃって…装飾辞めちゃった…てへ☆」

…というのが、ドクターの言い分。


元々は、何かを作る予定だったのが、兵器を組み立て終わった時点で、やり切った感によるで、装飾系には力が入らず、命名も適当になったとの事。


いやいや、装飾系は分からないでもないですが、命名には興味がなかったから、適当につけたって言ってくれていいんですよ?


装飾系が無いなら、見た目も性能も、大して特徴ないんだから!


ここで、簡単に概要説明をすると、地上部分はダミー。


(は?)


攻撃を受けた時に、真っ先に狙われる場所として建造されました。


(無駄すぎる!)


ただし、実際に住める居住区、滑走路、兵器は、しっかりとあります。


(へー!)


「住みたかったら住んだら?兵器?使いたかったら使ったら?そのかわり、結界は張らないから、攻撃を受けて死んでも文句言うなよ?」

「………」

だそうです。


主要部分は、むしろ土台側。

物理、魔法攻撃無効、不審者侵入不可能、対モンスター兵器搭載、対魔法兵器搭載、無限砲弾搭載、増殖型砲台搭載。


もう、ドクターの趣味全開ですねっ!


全砲身が出てくると、まるでの殻みたくなるのは、計算でしょうか?

見た目、空飛ぶモンスターにしか見えないのですが…。


増殖型だの無限〇〇だの、本当に『装填系』『有限系』が嫌いなドクター。


そして、内部には、本命の居住区、技術者、科学者、司令官など、要塞を運営していく上で、必要な人材が移住しています。


そのすべてが、獣人族領出身の、頭がヒャッハーな人達ばかり。


戦闘時でもないのに、5島揃って、レースとかやっちゃう人達の集まり。


そりゃあ、ドクターの設計図に飛びつくわけですよ!


(何してんだか…)


「稼働エネルギーは?」

「魔力」

「浮遊は?」

「魔力」

「非常時は?」

「自立型A Iによる全自動」

「作った目的は?」

「ロマン」


以上、私とドクターとの会話。


医者が浮島にロマン求めてんじゃねーよ!!


☆☆☆


『お主の旦那は、ちとやり過ぎじゃのう…ホッホッホ』

「いやぁ、、全然止まらないんで…」

『苦労するのう…』

「まったくです。しかし、これで、大樹海を好きにさせてもらうかわりの、3種族領、6ヶ国の防衛体制は整ったと言えるでしょう」


と、精霊女王に言ってはみたものの…実のところ、何故、ドクターが、あんな要塞を作ったのかは謎です。

明らかに趣味の域を超えている、オーバースペック。


いったい何を考えているのでしょうか?

つか、私、嫁じゃねーし!!


『しかし、あそこまでのものが必要かの?こういうのを、過剰戦力と言うのではないか?』


はい…まったくの正論です!


『そもそも、3種族は不可侵条約に基づき、互いに干渉しないで長い時を過ごしてきたのじゃ…これでは、獣人族に守られているようで、あまり良い気はしないのじゃがな…』


はい…気持ちは分かります。

そんな事、私にわかるわけがないので、ドクターに言って下さい!


とは、流石に言えません。


『『ワァーッハッハ!愉快愉快!!』』

『お主ら!何用じゃ!!』

全国民が、浮遊要塞が飛び回っているのを、見ているであろう、今、予想もしなかった来客が精霊族領に舞い降りてきました。


獣王と獅子王です。


『まぁ、良いではないか、精霊の女王よ!』

『そうだぞ?今や、奴の計画によって、不可侵条約はなくなったも同然、仲良くやろうではないか…』

『………』

精霊女王様、あまりご機嫌がよろしくないようで…。


なんか、ヤバい空気になってやしませんかね?これ…。

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