第47話 ドクターの軍事国家誘導作戦。

一悶着あった後、ドクターは、難しい顔をして、私に問いかけました。


「あの拳銃と日本刀…どう思う?」

それ、私も気になっていました。


「率直に申し上げるなら、この魔法世界で、あんな見覚えのある武器がある事自体、謎だと感じました」

「だよな?」

「もしかして、転生者、もしくは、転移者が存在するのかも…」

「だよな?せっかく、堅苦しい地球から脱出できたのに、地球からの訪問者が来ているなら、用心しなくてはならない…」


ドクターの懸念は3つ

①ドクターを狙って、時空を超えてきた。

②他にも転生者や転移者が存在する可能性がある。

③敵だった場合、医者としての本分を蔑ろにして、殲滅しなくてはならない。


ドクターは、モンスターや妖怪には容赦ないですが、罪もない人々は、何が何でも救う選択をする。


これは間違いないです。


つまり、この大陸にある国家、樹海に対しては、敵意がないと言う事。


そして、現代科学による兵器開発が進んでいるのなら、当然、それに携わる科学者もいるわけで、魔法技術と現代科学の融合した兵器を開発し、神族に対抗できる兵器開発がスムーズに進むという事。


「浮島に、軍用要塞都市が作れる!!」


あー!それで浮島…。


「この世界に、制空権はない!自由なはずだ!」

いや、確かに、間違ってはいませんが、そんなに協力してもらえるとは思えないんですが?


堅苦しい法律を嫌い、現代社会を放棄しようとしたドクター。


しかし、現代科学は利用しようという一見、矛盾した思考の根底にあるのは、裏を返せば、自分のやりたい事さえできれば、現代社会であっても、文句はないという事。


ま、実質不可能ですが…。


ドクターが人体組み立てという、人道を外れた実験をしたのが15歳。


その行為に対して、肉体ごと地獄に落とされ、地獄の時間で300年、現代社会の計算で3年。


不老不死になって帰ってきたドクターは、見た目18歳のまま、現代社会を生きる事になりました。


法律がなく、好き勝手にやりたい放題やってきた地獄での生活後、より現代のに限界を感じていたのは、なんとなくわかります。


それが、ここに来て、現代科学を好き放題運用できるとなれば、燃えないドクターではありません。


しかし、事は軍事に関わる事、兵器に気わる事。


いくら異世界だからと言って、おいそれと手の内を明かすとは思えません。

協力するとも思えません。


獣王、獅子王の反対を押し切っても、軍事国家として、機密は保持してくるはずです。


なんせ、樹海を好き勝手に使うという条件の中に『軍事国家』は含まれていないのですから…。


山脈譲渡は、互いのメリットもあり、承諾させられた…と解釈するのが妥当でしょう。


さて、ドクターは、どんな手を使って、あの忠誠心の厚い、堅物軍人さんを説得するのでしょうか?


これは見ものです。


☆☆☆


ドサッ…。


ドクターは、何やら分厚い書類を大量に『謁見の間』の玄関に置いて、立ち去りました。


(あれは?)


なんとなく、デジャブ感がありました。

何故なら、それは以前、閻魔さんがドクターから受け取っていた設計図の山に酷似していたから…。


その後、ドクターは、直接、獣王と獅子王と話をつけに、宮殿へ赴きました。


その時間、ほんの30分程度。


さて、ドクターは何を考えて行動しているなでしょう。


と、自分で考えていても埒が開かないので、ドクターに直接、聞いて…って、いないし!!


ドクターは、獣王様達との話し合いを終えた後、姿をくらましました。


気配がありません。

なら、行き先はひとつ…そう、地獄です。


地獄へ行って、いろいろ聞きたい…。

あの書類は何?

獣王様達と何を話していたの?

何故、現代科学に存在する衣服や武器があるの?

聞きたい事は山ほどあります。


そもそも、異世界に、旧日本大帝国時代のような軍服は存在しません。

時代背景が違いすぎるのです。


詰襟に金ボタンが光る、深緑色の軍服。

その時代錯誤な服装に、時代劇で見受けられる日本刀。

所持していた拳銃は、連射式装填銃。


日本刀を持つなら、袴を履け!

古い型の軍服を着るなら、軍刀を持て!!

連射式の銃を持つなら、最新式の戦闘服を着ろ!

言いたい事も、山ほどあります。


そこから導き出される答えは、以前にも、私達のように地球からやってきた、転生者、もしくは転移者が居た…という事実。


しかし、その者達は、現在は居ないと確信が持てます。


何故なら、転生者や転移者が居るなら、私達の姿を見て、何らかの接触をしてくるはずだからです。


この世界でははずの、私達の服装に、疑問を持ってないのが良い証拠。


この世界の住人は、何故かしているのです。


時代設定の錯乱ぶりには、流石に呆れてしまいますが…。


私でさえ、そんな予感を抱けるのですから、ドクターが気づいていないはずはありません。


(まぁいいか…今は、私のやるべき事をやりましょう!)


気持ちの切り替えは大事です。

ドクターが、何を考え、何をやろうとしているのかはわかりませんが、私は、本来のやるべき事。


国民の事後ケアを意識しましょう…。


そう思いながら、精霊女王の元に帰った私に、黒羽根従者さんから、一通の手紙を渡されました。


差出人はドクター。


はて?

何故、直接言いにこないのでしょう?


1枚目

前略…中略…後略

「わかるかぁーっ!」ビリッ!


2枚目

そう怒るな!冗談だ!

「だから何っ!!」ビリッ!


3枚目

しばらく留守にする。後は頼む。以上!

「何を?!」ビリッ!


『クスクス…イノリ様…お茶でもお入れします』

あー、優しい従者さん。


『お主も大変よのう?』

労いの言葉をかけてくれる女王様。


ドクターの意味不明な手紙に、怒り心頭な私を、わずかながらフォローしてくれる精霊族の皆さん、ありがとうございます。


出されたお茶を、女王様と飲みながら、沸々と湧いて出る怒りを抑える私です。


ドクター!帰ってきたら覚えてらっしゃい!!


☆☆☆


それから何日か過ぎたある日。


精霊族の皆さんに、専用工房まで作ってもらって、例の薬を作っている私の元に、獣人族からの使者が訪ねてきました。


ガバッ!


「「「どうか、イノリ様のご許可をいただきたく参上いたしました!!何卒、我々に、計画を進めさせていただきたい!!」」」


来た使者は4人…つか、獣王側の軍人さんと、獅子王側の軍人さん、見覚えのある2人と、明らかに科学者、技術者風な人が2人が、来て早々、土下座をしております。


当然、呆気にとられる私。


(いったい何事?)


「先祖代々、我々は、この儀式を持って、お願い事を進めて参りました!どうか!」

「こちらは、先日のご無礼の謝罪の品でございます!どうかお納め下さい!!」

「何もしないので、石化だけはお許しください!」


「待って待って!話が見えないんですけど?」


「これを…」スッと出された一枚の紙。

間違いなく、ドクターから送られた手紙です。


•••••••••

拝啓、両軍事国家殿


この設計図は、現在、浮島にしている場所に設置する予定の兵器である。

兵器以外は、別の場所にて建造中、兵器開発をする施設も用意する。

材料も用意する。


仮に許可なく、設計図を流用して、制作を目論んだ場合、容赦なく獣人族領の樹海もろとも、軍事国家2国を石化する!


以前、容赦なく獣王をぶっ飛ばし、樹海を石化したのは、誰であろう、私の助手、イノリである!


この事を肝に銘じ、応対する事をお勧めする。


新兵器開発、軍事力アップと、樹海及び国家の石化を天秤にかけたら、おのずとはわかるはずだ。


この件に関しては、イノリに全権を委ねる。


以上!

•••••••••••


「は?」


つまり、設計図と施設、資材というエサで、国家のトップと兵器開発に携わる好奇心旺盛な技術者肌の人を釣り、開発に関する主導権を、をネタに、脅して、獣人族領の国民から、頭を下げるように仕向けた…と?


私に内緒で、私を担ぎ上げるような手紙を出して…。


「あ、あぁ…とりあえず、頭を上げて下さい…」

「「「「ありがとうございます!!」」」」


あー!仰々しい!


にしても、ドクター!やってくれたわね!!


「その返答に関しましては、後日、ご連絡させていただきますね」ニコニコ


バタン…。


こうして、使者は帰っていきました。


メラメラ…。


無意識に、怒りが込み上げてきます!


「私は地獄に行って、ドクターに直接文句を言ってきます!!」


そう!帰ってきたら…なんて甘い事を言っている場合ではありません!!


ドクターには、それなりのお仕置きが必要だと判断しました!


みてなさい!ドクター!!


私の怒りを思い知りなさい!!

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