第46話 ドクターにモノ申す軍事国家の謎戦力。

「ん?」

精霊族領にお世話になっている私の耳に、獣人族領から、何やら揉めている声が聞こえて来ました。


その前に、何故、私が精霊族領に滞在しているのかを説明しなければなりません。


現在、3種族領の国は、ドクターの趣味全開な国土開発に付き合わされているため、全体的に騒がしく、ゆっくりする場所が無いに等しいからです。


再度言わせてもらうなら、ドクターの趣味の邪魔はしたくない。

本音を言うなら


という理由です。


後、付け加えるなら、精霊族の森には薬草が豊富にあり、後に訪れるであろう、に備えての薬作りに最適だからです。


疲労回復薬、状態異常軽減ポーション、肉体逆行薬など、国土開発後のケアに必要と思われる薬を順次作っておかなければなりません。


肉体逆行薬に関しては、現在、高速運動により、作業に従事している全員に投与しなくてはならない代物です。


良く物語に登場する、時間停止をして活動する人や、クロックアップという、謎めいた高速移動の能力を使う人は、間違いなく、通常時間を生きる人とは、異なった時間の中で過ごしているのです。


つまり、その能力を使っている人は、もれなく、他の人より『早く年を重ねる』事になります。


通常、1年で1歳、歳を重ねるところを、数秒、数分で歳をとっていくのです。


小さな幼子の幼馴染が、ある時、突然に爺さん婆さんになっていてもおかしくない事態となります。


そこで必要になってくるのが『肉体逆行薬』。


すぎた時間は取り戻せませんが、過ぎた時間を過ごした肉体を、本来の肉体に戻す事は可能です。


その秘薬の元が精霊族領にはあり、調合をしておけば、人間社会的に変な歪みも、格差も生まれず、事は済むはずなのです。


それが私、ドクターのパートナー兼、助手にできる、最大のフォロー。


不老不死になった私達には、必要がないので、見逃しがちではありますが、そういうフォローをしておかないと、いずれ、統治にも支障が出るのは目に見えています。


ドクター自身に、統治するという野望は無いでし、ナースである私は、本来、薬剤師ではありません。


しかし、ここ異世界においては、実力ある者が統治者、英雄として認識され、実力さえあれば、免許がなくても薬剤師として活動も出来ます。


それらの、ドクターにとってはとも取れる厄介な称号は、双方にとって、百害あって一利なしなのです。


ケアを怠れば、国民の反感を買い、軍事国家に至っては、クーデターとかいう、物騒な事態にもなりかねません。


っと、話が逸れましたが、もしかしたら、獣人族領における揉め事も、そうした事態の予兆かもしれません。


ドクターは現在、山脈の土壌を使い、浮島を制作中…。


確認は、私1人で行くのが無難でしょう。


樹海を石化したのは私。

獣王をぶっ倒したのも私。


あれ?

もしかして、私が行かなきゃダメな展開なのでは?


うわっ!

獣人族領に行きたくねーです!!


☆☆☆


てな事を思いながら、嫌々やって来ました獣人族領。


しばらくは、こっそり眺めて、状況把握に努めたいと思います。


樹海の真ん中にそびえ立つ、宮殿らしき城。


その手前に建っている『謁見の間』という看板が掲げられている建物。


(獣人族ってバカなのかしら?)


仮に、そこが宮殿には入れさせないための『謁見の間』だとして、それをそのまま看板にして掲げるって、どんな感性??


会社に、来客用の応接室はあっても、『応接室』と看板のかけられた、別館は存在しません。


頭の悪さが滲み出てて笑える!


脳筋バンザイ!みたいな?

いや、知りませんが…。


で、中で行われているのは、軍服を着た2人の人間と、先刻対峙した、獣王に獅子王との会談。


そう、私がぶっ飛ばした獣王と、ミーコと対戦していた、あの、を羽織っている獅子王です。


そして、苦虫を噛み潰したような顔になっている、国の中心人物らしきお偉い軍人さん。


はて?

何をそんなに揉めているのかしら?


「お考え直し下さい!どうせ、魔族の回し者でしょう!卑劣な手を使わない限り、獣王様がやられるとは思えません!国を預かる我が身!その根源を打ち砕いてやりましょうぞ!!」

『いや、それは…いや!人間不勢が太刀打ちできるとは思えぬ!!控えよ!』


あ、今、弱気になりましたね?獣王さん…プッ!


「我らは国を守るため、日々鍛錬をしております!!それに加え、最新兵器の開発も進めております!!両国が一丸となり、兵器、兵士を投入すれば、必ずや国のため、領土のため、お役に立ちましょうぞ!!ご決断を!!獅子王様!!」

『ふむ…気持ちはわかるが、何も隷属するわけではないのだ…侵略目的でないのなら、樹海を好きに使わせるぐらい、大した害にはなるまい…』

「ですが!!山脈は失われております!!」

『あぁ、あれは訳あって譲ったのだ…我々2人の総意でな…何か不都合はあるか?』

「いえ、獣王様…しかし…」


ふむ…なるほどなるほど。

要するに、軍事国家2国のトップは獣王と獅子王であり、龍族みたいに、国として独立させているわけではなく、両名が国を収めていると…。


確か、龍族領の山脈については、ドクターが直接、王族と取り引きをしていたはずです。


精霊族領に至っては、精霊族が全面的に守護をしているため、そもそも『国家』という概念はなかったように思います。


領主が悪さをしたら、その領地には加護が与えられないとかなんとか…。


(だから腐敗しないんですね…)


龍族は、細かい事に関心がない。

ヤンチャし放題

ドクターによって粛清


精霊族は、元々崇拝されている。

悪さをしたを理解している

概ね良好


獣人族は、自分達以外の王は認めない。

王様1番、国2番、民を思って日々鍛錬

獣人族が直接、国政に関わっているため、絶対正義の元、団結している。

暑苦しいけど、概ね良好。


「わかりやすい…」


「ほんとだな…」

「え!」

「よっ!」

「ちょ!」

ドクター!何しに来たんですか?!


そこには、こっそりと覗き見をしている私の後ろに、何故かドクターが立っていたのでした。


「そう、驚くなよ…獣王と獅子王に、用事があって来たんだよ。イノリこそ何してんだ?ん?」ニヤリ


あー!

この人、全部わかって言ってる!


ほんと、実にいやらしい人っ!!


☆☆☆


ガチャ…。

「お邪魔するぜぇー!」

ちょ!

ドクター!!それは流石にマナー違反!!


「貴様!ここを何処だと思っている!!王との謁見の間であるぞ!!」

真っ先に怒鳴り散らしたのは、獣王側の軍人さん。

すでに、手に拳銃を持って、ドクターに向けています。


え?拳銃??


「そりゃあ、看板付いてんだから、分かってるさ」


「会議中だぞ!!余所者が不法に入っていい場所ではない!!獅子王様には、指一本触れさせはせぬわ!!若造!!」

『………』

今度は、獅子王側の軍人さん。

手には日本刀が握られていま…す??


日本刀??


「おいおい、物騒だな…条件反射で殺してしまうかもしれねーだろ?やめとけよ…な?」


いやいや、物騒なのはドクターだからっ!!

勝手に入ったドクターが悪いからっ!!

ほんと、やめて!!


「ま、ここは樹海の中だから、好き勝手にさせてもらっているわけだが?」

『『………』』

獣王さんも獅子王さんも、汗ダラダラ…。


「ドクター!いくらなんでも度が過ぎます!」

ドクターの傍若無人ぶりに、たまらず割って入る私。


「そうか?みんな、ごめんなさい」ペコリ

『『………』』

「「………」」

あれ?もしかして…。


「ドクター?用事があるなら、一声かけたらいいじゃないですか!!」

「あぁ…そうだな…悪かった」

もう!ドクターって、私がいないとんですか?


「いいかげんにしてください!!」

「悪かったって…今日のところは退散する」

「とーぜんですっ!!みなさん、失礼しました」ペコリ


私は、皆さんに挨拶をして、謁見の間を後にしました。

もちろん、ドクターを連れて!!


後に残された4人は、終始、唖然としていましたが、ここは即刻退散が吉でしょう。


あ!これは、やっちゃったかな?

この樹海を石化したのは私…ドクターを止めたのも私…。


「………」

「イノリ…どんまい!」


後々、ややこしい話にならなければいいのですが…って、うるさいっ!!


ドクターのバカ!!

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