第45話 ドクターの国土開発は趣味全開でした。
ドクターは、まず宣言通りに、各国、各種族間にあった、山脈を取っ払いました。
器用な事に、山々の木々、動物、魔物、集落、すべてを残したまま、土壌だけを取っ払ったのです。
それは、ドクターが獣人族領を掌握し、方針を決めてから1ヶ月後の事でした。
チーコが言っていた、『夜を切り取り、後で繋ぎ合わせる』という、ドクターのとんでもない時間操作能力による、長い長い夜が終わってからの事。
例えるなら、白と黒の市松模様を、白と黒のボーダー柄にしたようなもの…。
交互に訪れるはずの昼と夜を、何日も何週間も続く昼と、何日も何週間も続く夜にしてしまう、生物や植物にとっては、思いっきり迷惑な話。
「まぁ、1ヶ月ぐらいなら、作物に影響はない」
「しかし、生活リズムが狂うのでは?」
「昼に寝たかったら寝たらいいし、夜に働きたかったら働けばいい…俺やイノリ、ヨーコ達には、あんまり関係ないだろ?」
「しかし、人類にとっては…」
「俺が掌握した範囲しかやってないんだから、問題はないだろ?」
これが、ドクターと私のやり取り。
ぶっちゃけ、話し合いにはなりませんでした。
『俺が好きな時に、好きな事を、好きなようにやらせてくれれば、それでいい』
これが大樹海を掌握した時の、ドクターのセリフ。
「昼を切って繋げるのも、夜を切って繋げるのも、俺の自由!」
なんだそうです。
「はぁ…」
私は、精霊族の大樹の上に腰掛け、なくなった山脈を見つめ、空を仰ぎます。
『俺、約束を守る事には自信があるんだ』
『しばらく昼が続いたんだ、夜が長くても困らないだろ?
こんなセリフが、頭の中でリフレインしております。
いや、今は長い夜が終わって、正常になっていますけどねっ!!
木々や動物、魔物、集落を残して、山脈の土壌を取っ払う…言葉で言うのは簡単ですが、実際は、そんなに簡単な問題ではありません。
何故なら、山脈の表面積と平地の表面積は、間違いなく異なるから…。
私は空を見上げ、ため息をつきます。
山脈の土壌、平地にした事による、余った木々、繁殖しすぎた魔物や動物。
「はぁ…」
私はため息をつきます。
それらが浮遊した空を見つめながら…。
これを、一般的には『黄昏る』というのだそうです。
☆☆☆
私が黄昏れている間、放心状態ともいいますが、ドクターは伐採の真っ最中。
余った木々が、枝打ちされ、樹皮を剥ぎ取られ、薪になっていきます。
幹は、柱や板に加工され、空中にとどまっています。
(まーた、メスでやっているんでしょうね…)
これは、勘ではありません。
今まで見てきた、ドクターのやり方です。
伐採も、資材として活用するのに、斧やナタ、ノコギリやカンナなどは必要ないのです。
そうした資材は、次々と山脈に住んでいた、元住人の住まいとして、建築されていきます。
魔物は解体され、素材として…動物もまた、解体され、素材と食料に…。
伐採と解体は、ドクターが自ら行い、建築や素材加工は、龍族領管理下の中央王国に所属する、冒険者ギルドに一任されています。
忘れているかもしれませんが、私達が最初に来た街の冒険者ギルドです。
そう!ドクターが無理矢理、実力でS級冒険者の地位をもぎ取った、哀れなギルド。
しかし、そこのギルマスはドワーフ。
自らが魔物を狩り、発掘をし、素材を集めて加工して国に貢献してきた、スーパーワイルドな、元S S級冒険者であり、名工であり、特級クラスの建築家であります。
人望もあり、ツテもあるギルマスの指揮の元、三国間の山脈跡地には、次々と建造物が建てられていきます。
更に、3種族協力の元、精霊族管理下の領土に、ひっそりと住んでいた村々にも、豊富な資材や食料が持ち込まれ、各領の管理下に位置する人々の生活は、見る見るうちに豊かになっていくのが分かります。
本来なら、何年もかかる大事業…しかし、それは、時間が正常に機能している場合の話。
その実、ドクターが時間を操作して、何年もかかる作業を、数時間でやっているのが現状です。
3種族管理下すべてに、その時間操作を施しているため、誰も気づいてはいませんが、第三者からみれば、全員の動きは、残像にしか見えない事でしょう。
そんな光景を見ていたら、そりゃあ、ため息も出ますって…。
まぁ、見る見るうちに、景色が変わっていくのは、見ていて楽しいですが…。
特番でもたまにやっている、文明の発達、荒廃、発達…人々の暮らしの変化などを、早送りして見ているようなものです。
ただ、本人達が気づいていないだけ。
(ドクターに目をつけられたのが、運の尽きですね…)
みなさん、ご愁傷様です!頑張ってくださいね☆
と、他人事のように思っているのは、実質、私だけでしょう。
でも、いいんです!
いくらドクターのパートナーだから…不老不死だから…体力にも魔力にも限界がないから…という理由で、ドクターの趣味を邪魔する理由にはならないのですから…。
しばらくは、高みの見物をさせていただきます!
☆☆☆
ドクターの国土開発という名の、『魔改造』は、着々と進められています。
中でも、特出すべきは、あちこちの山脈から出土した『鉱石』と『ダンジョン』の数。
鉱石の種類は数十種類にも及び、金鉱脈まであったようです。
中でも、オリハルコン鉱石、ミスリル鉱石が大量に出てきたのは、異世界ならではでしょう。
そのほとんどは、地獄送りとなり、そちらで何やら、また良からぬ物が作られるようです。
分厚い設計図の束らしきモノを受け取った、閻魔さんのイヤそうな顔が、それを物語っています。
そして、各種ダンジョンは、まるっと一纏めにされ、運河のほとりに、綺麗に並べて埋められました。
入り口は60、出口は6。
獣人族領の軍事国家2国、龍族領の3国、精霊族領の1国、どこに出るかは、入った者次第。
当然、すべてが出口に繋がっているわけではありません。
無数にある入り口に出てしまうルートもあるようです。
ダンジョンに入り、何日もかけて歩き回り、出口だと思ったら、入った入口の横に出る…なんて事もあるようです。
空からの侵入は不可能。
例の『死神結界』を展開し、こちらに来ようとする者は、すべて死に絶えるようにしているからです。
要するに、運河の向こうにあるという、神族が管理する大帝国は、空からの侵入をせず、並べられた数多くのダンジョン入り口の中から正解を導き出し、攻略しないと、こちら側には来られないという、なんともドクターらしい、いやらしい仕様となっております。
正解ルートには、ヨーコ、ミーコ、レイコ、チーコ、精霊女王、ドクターが、それぞれに趣向を凝らし、挑戦者を翻弄する手筈になっている…と、精霊女王様が嬉しそうに話に来てくれました。
『我も参加しておるのじゃぞ?精霊族の総力を上げてぇー!!』
とか、テンションがおかしな事になっています。
ただ一つ言える事は、ドクターが直接、携わるダンジョンには、絶対に入りたくないという事。
想像しただけでも怖いです!
いや、マジで!
こういう、悪ふざけ的な事に関しては、まったくの容赦がないドクター。
魔改造された地獄の施設を見れば、一目瞭然です。
ドクターからは、神族、その管理下の者すべてに敵意を向けているような雰囲気を感じます。
それにしても、今、必死で働いている皆さん、大丈夫ですかね?
これって、通常の時間に戻した時、全員ぶっ倒れるんじゃない?って思います。
一日の仕事量を、数秒でやっているようなものですから…。
でも、私は進言しませんよ?
趣味に走っているであろう、ドクターの機嫌は損ねたくないですからね!!
と、とりあえず、ナースとして、国民全員のケアをする準備は必要かもしれません。
「ふぅ…」
私は、黄昏るのをやめ、その後の皆さんのために、ナースっぽい準備をする事にしました。
やれやれ…。
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