第42話 ドクターの辞書に自重という文字はない 2
しばらくすると、地獄からの贈り物が届けられました。
形状は、薬局によくある『粉薬』。
やや、ピンクががっており、まるでファンデーションのようなきめ細かさになっております。
「さぁ、みなさん!こちらで用意した、どんな呪いをも跳ね返す予防薬!飲めば、体力回復、魔法無効化、致死レベルも軽減してくれるおまけ付き!」
「ドクター!これは…」
「しっ!」
ドクターは、私の口を人差し指で塞ぎ、「ほら。宣伝して!」とか言ってます。
「従者さん!すみませんが、水の用意をお願いできますか?」
ドクターが、思いっきりキラキラきた顔で、従者にお願いしています。
私には、この『粉薬』が何なのか、すでにわかっています。
はっきり言って悪い予感しかしません。
精霊女王の従者4人、ヨーコにミーコ、レイコにチーコ、8人分が用意されていました。
「また、誰かが呪いを受けても、予防できるんだからいいでしょ?それから、こちらは、精霊女王様に献上する液状の飲み薬、解呪後なので、少し濃いめに調合してあります」
ニコニコしながら、従者に飲み薬を渡すドクター。
キラキラした顔も丁寧な顔も、私視点だと、恐怖の対象でしかありません。
「イノリ様の分がないよね?」
「あ、私はすでに耐性があるはずだから、いらないの」
好奇心旺盛なミーコが、私を心配してくれていますが、おそらく私には必要のないもの。
適当に誤魔化して、その場をやり過ごしました。
「ささ、グイッと…みなさん、しっかり飲んで下さいよー!私、医者なんで!変なものは渡したりしません!効果については、たぶん大丈夫!」
こらこら!
たぶんとか言ってんじゃないわよ!!
『ほれ、皆どうした?我は飲み干したぞ?美味であった』
『『『『精霊王様!承知いたしました!ありがたくいただく事にします!』』』』
「「「「私達も飲むねー!」」」」
ニヤリ…。
ドクターは、みんなに見えない角度で、わっるい顔をしています。
「………」
ドクター、いくらなんでも…。
「それにしても、この魔王、死なないねー」
ツンツン…。
こらこら!
ヨーコ!魔王をつつくのはやめなさい!
『我を簡単に殺せると思うなよ!!』
「そーだねー!簡単じゃないねー!!各自、消化器官の機能には個人差があるからねー!!」
『グワッ…なんだ!この感覚は…力が抜けていく…』
いやいや、すでに、血液も魔力も枯渇している、干物みたいな体になっているのに、まだ力尽きていないのね…この魔王。
「お?そろそろ、みんなの体内で消化し始めたみたいだぞ?」
ドクターの嬉しそうな顔…。
『ま、まさか!お主!』
真っ先に気づいたのは、精霊女王様だったようです。
「「「「まさか!ご主人様!!」」」」
『『『『え?何?』』』』
「コホン…えー!お気づきの方もいらっしゃるようですが、私は医者です!処方や効果を偽ったりはしません!!」
『どういう事ですか?』
「魔王討伐と、みなさんの強化を同時に行なっているという事です!はい、拍手ー!!」
できるかぁーーー!!
☆☆☆
しばらくして…。
バァーン!!
精霊女王の間の扉が、勢いよく吹き飛ばされました。
見事な飛び蹴りでした…はい。
出てきたのは、もちろん精霊女王様。
出てくるや否や、血相を変えてドクターの胸ぐらを掴み、真っ赤な顔で講義しています。
「お主!何を考えておるのじゃ!!やっていい事と悪い事があるじゃろう!!」
「いや、ちょっと待って!お嬢さん!胸ぐらを掴むのに、腹に足を置くのはやめて…メスが刺さる!!」
あ、そこ?
「副作用は無いって…マジで!能力向上するのはいい事だろ?結構、強力な魔王だったんだから、今後、呪詛の類には耐性がつくからさ…」
「そういう問題ではないわ!たわけ!!」
女王様、プンプン!
でも、その容姿で怒っていても、迫力はありません。
女王様は、ドクターが表現したように、可愛らしいお嬢様なのです。
フリフリのドレスに、立派な羽根。
まぁ、羽根は、まるでアゲハ蝶のような形をしているのに、色は漆黒。
シースルーのような透けた被膜なので、禍々しさはありませんが…。
「この羽根を見よ!!これが副作用でなくて、なんとする!!我の自慢の羽根が色を失ったではないか!!」
「いや、色っぽいと思うけど?黒アゲハって言う種類の蝶もいるんだし、気にしない気にしない…ハハハ」
まぁ?否定はしませんが…。
『あの…女王様?その羽根の色は?』
「お主らも、自分の羽根を見るがいい!」
『?』
『『『『キャァァァァーーー!!』』』』
従者さん達は、女王様の勢いに目が行き、自分達の変化には気づいてなかったようです。
従者さんの、トンボような形をした羽根も、女王様同様、黒いシースルーみたいな被膜になっていました。
更に、薬を飲んだみんなな変化は続きます。
ヨーコ
おでこに、ユニコーンのような一本角が生えてきた。
ミーコ
三毛猫が黒猫になった。
レイコ
おでこに、短い角が二本生えた。
そして…。
チーコの銀髪が黒髪になった瞬間、魔王の息の根が止まりました。
「はい!魔王討伐と、強化完了!っと…」
ドクターは、ニコニコ顔でVサインをしています。
『ご主人様?説明していただけますか?』
口を開いたのは、レイコ。
後の7人は、四つん這いになり、灰になりかけています。
女王様は、怒り疲れたのか、ドクターから離れ、大の字でうつ伏せになっております。
絵面がヤバい…。
「こんなの、新しく得た能力や魔力に比べたら、副作用には入らないって…」
『こやつは、先ほどの魔王核とやら、心臓、角を使って、薬を作ったのじゃ…それを、我達に説明せず、効能だけを言って謀ったのじゃよ…シクシク』
あ、女王様、マジ泣きしてる…。
『え?』
『『『えぇーーーー!!』』』
ま、真実を知れば、そういう反応になりますよね?
人間社会でも、昔はよくあった事です。
漢方薬に、干したイモリの粉末や、昆虫の体液などが含まれていたら…的なやつです。
「いやぁ、完全に消滅させなきゃいけなかった、結構危ない核だったから、みんなの消化器官にも手伝ってもらったんだよ…みんなで魔王を討伐した!うん!素晴らしい!」
アホかぁーーー!!
その直後、ホールに全員の叫びが木霊しましたとさ。
☆☆☆
「ここで、検診結果を発表します!」
私は本来の仕事っぽい事をしてみることにしました。
みんなの反応が、あまりに悲惨だったから。
この結果を聞けば、多少は精神的負担が軽くなると信じています。
『精霊女王、従者』
(成長速度)
100年に1歳→不老不死
見た目年齢15歳のまま固定。
従者は、見た目年齢18歳で固定。
(魔力)
枯渇無し
(耐性)
状態異常はすべて、羽根を通じて拡散。
実質、状態異常無効。
常時、身体強化状態。
『ヨーコ』
一本角に、九尾の能力を収束して発射出来る。
基本能力はレーザー砲。
『ミーコ』
毛並みの硬さを自由自在に操れる。
最高硬度は10。
別種ネコ科に
通常形態でも、ライオンの力、虎の獰猛さ、チーターの俊敏さを体現できる。
ただし、変化時でも毛並みは黒。
『レイコ』
二本の角から、ファイヤーボールが出せる。
最大出力は太陽と同じ温度の
『チーコ』
コウモリに加え、羽根の生えた黒っぽい生き物をすべて使役できる。
(コウモリ、カラス、黒龍、羽根アリ、Gなど)
妖怪出身の4人は、すでに魔改造されているので、変化はあまりありませんでした。
そう、ドクターの魔改造は、手術をするわけでも、薬で無理矢理、変化させるモノでもありません。
一般的な、整形手術や薬物投与などによる肉体改造は、いつか、どこかに歪みが生まれ、不自然な形で副作用が現れます。
しかし、ドクターの魔改造は、いつも細胞レベルで行われ、薬に関しても、それぞれに適した処方で改造を施します。
もちろん、副作用も依存性もありません。
ドクターは今まで、自身の肉体を使い、妖怪を使い、実験を繰り返して、今に至ります。
まぁ、いずれ、モンスターを本当に改造手術してしまう可能性は無くはないですが…。
この結果を聞いた、みんなの反応はこちら。
「ま、まぁ、それだけの恩恵があるなら、こんな変化ぐらいは目を瞑ってもいいかな?」
みなさん、チョロいですね☆
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