第43話 ドクターの辞書に自重という文字はない 3

そんなこんなで、禁呪から解放された精霊女王を筆頭に、ドクターに従属を誓う精霊族達。


それもそのはず、女王を失う事もなく、奴隷になる事もなく、森も現状維持。

更に、魔族に攫われた同胞の解放、死んだ同胞の蘇生が加わっています。


流石に、そこまでしてもらって、これに異を唱える精霊や妖精はいません。


「まぁ、体制は今まで通りでいい、俺が好きな時に、好きな事をさせてくれたら、それだけでいいから」

やっぱり…。

知ってはいましたが、ドクターはこんな人です。


まぁこれで、精霊族を悩ませていた魔王関連の揉め事は、ほぼ解決したと言っていいでしょう。


次は獣人族領に…と考えていた時、地獄からの緊急連絡が舞い込んできました。


『旦那!大変です!ダークエルフ達が、全員、瀕死の状態で帰ってきました!』

「何があった?」

『魔の森が拡張…モンスターが凶暴化、新種も生まれています!』

もしや、これは一大事なのでは?


…とか思ったのは、私だけでした。


ヨーコ以下、4人の目がキラキラしています。


おそらくは、新能力を試したくて仕方がないのでしょう。

このへんは、ドクターの影響をモロに受けている証拠です。


「そうか…いいタイミングで知らせてくれた!全員、今すぐここへ連れてこい!」

あー!ドクターもだ…目がキラキラしている。


「女王よ、今から、ダークエルフを50人ばかり連れてくるけど、いいよな?」

『ダークエルフじゃと?魔族とエルフの混血種のダークエルフか?』

まぁ、エルフとダークエルフは、種族だとは知っていますが…。


エルフは精霊族、ダークエルフは魔族。

同じエルフでも、根本的なところから違います。


エルフは魔法特化、ダークエルフはプラス戦闘にも特化しているのです。


「いや、のエルフ族を、魔族の素材で改造…」

『あー!分かった分かった!それ以上言わんで良い!お主は、我らにしたような事を、あちこちでやっているのは良く分かった…好きにするが良い!』

即座に了承する女王様…呆れ顔を見る限り、すぐさま諦めたご様子です。


地獄から、次々と搬送されてくるダークエルフ達。

確かに、半数以上が虫の息…大丈夫なのでしょうか?

と、要らぬ心配をしてしまいます。


誤解のないように言っておきますが、瀕死だから心配しているわけではありません。


「よし!治療ついでに、さっき死んだ魔王の部位を使って、強化してみよう!」

『『『へ?』』』

ドクターはウキウキ、周りは絶句。


そう、ドクターに治療された異種族は、もれなく魔改造の対象となってしまうのです。

今度は、どんな改造を施すのか心配で心配で…。


だって、ドクターの施術は速すぎて、どこをどう弄り、どんな素材でどんな能力をつけるのかが、まったく視認できないのです。


仮に、視認できたとしても、どこにどんな素材を使って、までは分からないのです。


だから、ドクターの治療、処方を受けたら、知らないうちに変化していた…なんて事は、地獄では『日常茶飯事』なのです。


ドクター曰く

人間でやってないから人体実験ではない


んなわけあるか!!


☆☆☆


1時間後…。


50人のダークエルフの治療は無事、完了しました。


今回は、瀕死状態に加えて、改造を兼ねての治療だったため、少々時間がかかったようです。


『『『『『…………』』』』』

精霊族の皆さんは、口をあんぐり開けたまま、しばらく放心状態となっています。


『い、いったい、何をしてたのじゃ?』

「え?見ててわからなかったか?手術だが?」

まぁ、確かに、ドクターの施術スピードは尋常じゃありません。


『お主、回復魔法は使えないのか?』

「え?使えるけど?」

『では何故…』

「ヒールなんか使ったら、改造…コホン…俺は医者だからな…ハハハ」

『お主という奴は…』

ドクター!今、思いっきり本音漏らしましたよね?


いつの間にか、魔王の骸は、骨の一欠片も残さず、失くなっていました。


どこの部位をどこに使ったのやら…。


魔王の息の根が止まった時もそうですが、魔王の骸がなくなって、事実上、魔王がこの世から消え去ったにも関わらず、「魔王を倒れたぞぉー!!」的な、感動じみたリアクションは、一切ありませんでした。


魔王の存在意義とは、いったい…。


「まぁ、いいじゃねーか!何にしろ、全員助かったんだから…肌の色が変わる頃には、体内で順応して起きるだろうから、あとは頼むぜ!」

『う、うむ…』

女王様は、思考を放棄したようです。


「さて、お遊びはここまでだ!外科医としての本気を出すぞ!!」

治療をお遊びて…まぁ、改造は遊び感覚だったのは認めますが!


ドクターは、いったい何をする気なのでしょう?


「閻魔!今回は、俺が処置をする!みんなには、増殖した森には近づかないように通達してくれ!」

『ガッテン承知!!』

久しぶりに聞いたよ!その死語!!


「ドクター?何をなさるんで?」

「イノリも来るか?に」

はて?さっき、ドクターは『外科医の本気云々』と言ってたはずなのですが??


まぁ、同行を促されているのです。

見ていたら、ドクターの真意が分かるでしょう。


スッ…スッ…。


私達は、そのまま地獄の廃棄場に直行。


その脇に展開されているはずの、『魔の森』が目的です。


そこで、私達が見たものは…。


蠢く魔の森、モンスターの怒声に地響き…森は、情報通り、倍の広さになっています。


「こ、これはいったい…」

「なぁ、イノリ…この森が、何故『次元牢獄』に入れられていたと思う?普通の森を排除するだけなら、『次元収納』で事足りたはずだ」

確かに…、つまり、普通の森なら、封印する必要はなかったわけです。


「ま、まさか…森自体がモンスター??」

「あぁ、今のイノリなら分かるよな?この禍々しさ」

「はい…」


封印とは、必ずしも『次元牢獄』『無限牢獄』を使うものではありません。


現地で封印し、人目につかないよう処理する場合もあります。

ただし、テンプレ展開として、『封印が解かれ、再び…』なんて事はありがちな話です。


だからこそ、厄災は『次元牢獄』に押し込めて、現実世界から存在を消し去るのです。


とか、今、いい話をしているっぽいですが、その厄災を集めて、実験しているのはドクター本人。


つまり、森の増殖も、凶暴化したモンスター達も、すべてドクターのによってもたらされた、悪い意味での副産物。


これは、問題解決ではなく、あくまでドクター本人による、自身の行いに対する『尻拭い』なのです。


そこんとこ、お忘れなく!


☆☆☆


「まずは、増殖を止める!イノリは、魔族領の敷地面積を算出!」

「了解しました!!」

ドクターは例の『死神メス』を持って待機中…。


「算出できました!約60万坪!東京ドーム40個分です!」

「え?この魔の森、今、25000坪程…」

「切除の必要ないですね…」

「ガーン!!」

ドクターが、珍しく崩れ落ちています。


これは、同行した価値がありました☆


「で、でも、このまま放置していたら、いずれ地獄が森に飲み込まれますし、処置は必要かと…ドクター!しっかり!!」

「そ、そうだな…グスン」

「………」

ドクター!あんたの半べそ姿、初めて見たよ!!


ちょーウケる!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る