第40話 ドクターのとんでも交渉術 3

そんな事をしていると、さっそくヨーコとミーコから念話で連絡が来ました。


『魔族領、結構広いですよ?』byミーコ

『大樹海の倍ぐらいある』byヨーコ


「ふむ…予想以上だな…さて、どうしたモノか…」

即断即決のドクターにしては、珍しく悩んでいるご様子…。


「よし!救出対象は、俺が何とかする!」

お?これも珍しく、ドクターがやる気になっています。


「閻魔!」

スッ!

『へい!旦那!』

「これから、魔族を殲滅する!健康な人質、敵意のない魔族は、一旦、ダークエルフの居る魔の森に避難させる…段取りをしていてくれ」

『へい!承知!』

スッ!


「よし!皆に連絡!作戦を変更する!」

『『作戦変更了解しました!詳細をお願いします!!』』

「開始時刻は正午!俺の合図と共に、ヨーコはを焼き尽くせ!」

『了解!』

「ミーコは、の回収!」

『了解!』

「レイコは、2人が魂の殲滅、魔石の回収を終えた後、抜け殻になったむくろごと魔王城以外を凍結、閻魔に連絡をして、を地獄に転送!」

『了解いたしました』

と、作戦変更は伝わったようです。


『あのぉ…ドクターは何をなさるおつもりで?』

流石の族長さんも、話が見えず、私に聞いてきます。


「えと…私にも分かりません。なんせ、ドクターのやる事ですから」

『なるほど…』

あ、諦めたね…族長さん。


実のところ、ハラハラしているのは、私と族長さんだけ。


魔族領に向かった3人は、何の疑問も持たずに、指示通り動くようです。


チーコに至っては、「ちょっと時間がかかりそうね」とか言って、昼寝をしています。


ただ今、11時55分…。


って、樹海に来てから何日も経っているはずなのですが、『夜』を経験しておりません。

食事も睡眠も休憩もしていません。


「そりゃあ、ドクターが《夜を切り取ってる》》からだよ?時間にして、1週間は経ってるね」

と、チーコが言います。


ドクター!!何してんですか!!


「仕方ないよ…ご主人様、やりたい事があると、夜を切り取って、やる事が終わったら、夜をまとめて繋げちゃうから」

「は?初耳なんですけど?」

「暗視が効いて、体力、魔力共に枯渇しないイノリ様には、支障ないと思うんだけど?」


地獄では、時間の概念がなく、この世界でも、昼夜を自由に切り合わせ…。


これ、神様達、怒らないのかしら?


そんな事を考えていると、チーコは一言言って寝てしまいました。


「つか、ご主人様だよ?」


「あぁ、そうね…」

これには納得する他ありませんでした。


☆☆☆


そんなこんなで、時間となりました。


魔族領は、城壁の向こう側。

私が城門前に居た時、警備兵は確かに『魔王様に知らせねば…』的な事を言っていました。


まず、間違いはないでしょう。


「では始める!」

『『『お願いします!!』』』


スィィーー!


ゴクリ…。


ただ今、私は空中にて、ドクターの隣で作戦を観察中。


「死神属性発動!!」

「は?」

例の、訳のわからない属性…。


クイッ!


ドクターは、手のひらを上に向け、指を立てます。


ザワザワ…。


風が揺らぎ、魔族領の方から、地響きが聞こえます。


これは、領民が倒れていく音と、無数に見える人質達(?)が浮いている音…。


「転送!」

怪我人、死体が、引き寄せられるように集まってきます。


浮遊しているのは、キラキラと光る魔石、あと、ゆらゆらと漂う魂。


「よし!後は任せた!俺は治療に移る!」

『『『了解!』』』

あれ?これで終わり?


「ドクター、もうちょっと見てていいですか?」

「あぁ、好きにして…輸血はチーコに頼むから、魔王討伐までは自由にしてていいよ」

「あ、それなら私も…」

「いいんだよ、チーコにもたまには働かせないと…」


スィィーー!


まぁ?確かに?

チーコは、何故か要領良く、手を抜いてる感はあります。


怪我人、死体は、約2000人ほど。

樹海の真上に、それこそ《ワラワラ》》と浮遊しております。


それを、片っ端から治療して、チーコの輸血後、地獄へ転送していっています。


受け取り人が、コウモリですから、チーコの眷族なのでしょう。


一方、ドクターの治療は、傍目から見たら、空中に居る敵をバッサバッサと切り倒して、落として行っている感じ。

でも実際には、ちゃんとした施術。


絵面が悪い…以外は、問題が無さそうです。


「これって、救護施設を作った意味ないよね?」と思ったのは、私だけではないはずです。


まぁ、予想以上に人数が多かったから、方針変更…と言ったところでしょうか?


死体には、片っ端からを詰め込んでいます。

種族に関係なく…。


つまり、人間でも亜人でも、すべて妖精族となってしまうと思うのですが、そのへんは目を瞑りましょう。


さて、ヨーコとミーコはというと、ミーコが俊敏さを生かして、魔石から魔石を飛び回り、次々と地面へいます。


はたき落とした反動で、魔石から魔石に飛び移る…まるで曲芸です。


ヨーコは、ミーコが飛び回り、魂だけになったエリアを、使える魔法すべてを駆使して消滅させています。


ざっと見て、魔族領の規模は何十万人単位。


しかし、ミーコのスピードは尋常じゃなく、ヨーコも負けてはいません。


おそらく、普通の視力では、2人の姿は捉えられないでしょう。


そして、そのスピードは、作業を決して時間がかかるモノにはしないという現れでもあります。


そう、もうすぐ、私達の出番と言う事です。


☆☆☆


しばらくすると、ヨーコとミーコが帰ってきました。


今は、レイコが仕事をしているようです。


ちなみに、ドクターは治療を終え、閻魔さんと連絡をしている様子。


流石に、地獄での受け入れのため、姿は表していません。


『そうそう、精霊族っぽい奴らは、こちらに返してくれ…それと、龍人族に属するリザードマンは龍族領へ…死んでた奴らは、全員、妖精の卵を入れてあるから、と伝えておいてくれ…え?人間?魂が妖精だから、こっちかな?え?獣人族?あぁ、しばらく確保だ…交渉に使う』

ドクターは、これまた物騒な事を言っていますが、ここはスルーしておきましょう。


まぁ?確かに?

復活した獣人族が、石化された領に返されても、揉めるだけでしょうが…。


ひとつ確信が持てるのは、精霊族領とは違い、獣人族領の交渉は、一瞬で終わる予感がする…という事です。


かくして、レイコも無事、任務を終え、帰ってきました。


それは、私とチーコの仕事が始まると言う事。


『早く!早く!ウゥー!!』

チーコが、正気を失いかけています。


ドクター曰く、輸血にかなりの血液を消費したので、貧血になっているとの事。


血液を食事とする吸血鬼が、輸血できるって事実はスルーなんですね?


『グォォーー!!何じゃ!この有様はぁーー!!』


天をもつんざく怒声で、喚く人物…おそらくは、いえ、間違いなく魔王。


一瞬のうちに、全領民が声も立てずに倒れ、秘密裏に樹海や地獄に転送され、レイコによって凍結された時点でも、魔王は外で何が起きているのか、まったく気づかなかったようです。


ドクターの作戦によると、魔王城は凍結させていません。

従者は何をしていたのでしょう?


「あぁ、強力な睡眠魔法をかけておいた」

「いつの間に…」

「死神属性を発動した時」

「………」

「この死神属性、結構使える」

「………」

『あははは!』


唖然としているのは、族長と私だけ。

笑っているのは、精霊女王様。


後の3人は、まったく動じていません。


「さぁ!チーコ!好きなだけをしろ!!」

『待ってました!!』

「んじゃ私も…」

私は魔力摂取役…のはずだったのですが、チーコがストップをかけます。


『イノリ様…魔力も私に下さい!』

「え?うん、まぁいいけど…ドクターがいいなら…」

「おぅ…構わんぞ!妖精を魂代わりに入れた時、輸血と魔力を同時にしてもらったからな…好きにしろ!」

『ありがとうございます!!』


『許さんぞ!誰だ!我の領地を荒らした奴はぁーー!!』


『遠隔吸血!!』


あ、無視した…。


ズゴゴゴォォーー!!


「!!!」

こ、これは…!!


魔族領から、こちらに向かい、血液が押し寄せてきます。

まるで、火事の時の消化活動、放水作業。


そこへ現れた無数のコウモリ…。


(?)


コウモリは、まるでチーコの口に、放水された血液を誘導するかのように配置しています。


ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク…。


『ふぅ…ご馳走様、おやすみなさい』バタン


チーコは、ものの数分で、すべての血液を飲み干してしまい、そのまま寝てしまいました。


いいのか!それで!!


何の見どころも無い…いや、多少は驚きましたが、呆気ない幕引きでした。


まぁ、ドクターの施術に付き合わされ、血液も魔力も使い果たしていた事実は変わりません。


チーコ、お疲れ様。


という事で、作戦は最後の段階に入ります。

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