第39話 ドクターのとんでも交渉術 2

『では、まずは森と民をを元に戻してやらんと…』


パチン!


族長が指を鳴らすと、森の氷は溶け、息を吹き返していきます。

それに合わせて、氷ついていた精霊族も、目を覚ましていきます。


「チッ…術者って族長かよ…蘇らせるんじゃなかった…」

こらこら…本音出過ぎ!

まぁ、だからなんでしょうけど…。


『これで、お主の条件は無効となった…しかし、今度はこちらからの条件次第では、我々がお主の従者になる事もやぶさかではない』

「くそ!やられた!!」

だーかーらー!

本音出過ぎだって!!


『ついてまいれ…』

「いや、めんどくさい」

『まてまて、こちらの要件は、病気に関する事じゃ…動かせるわけなかろう』

ごもっとも!


『お主は、精霊族を仕切りたいのじゃろ?』

「いや、従者にしたい」

『同じ事じゃ…まぁよいわ…』

族長、流石に呆れています。


絶対に、さっきの言葉、信用されてませんよね?


ザッザッザッザッ…。


族長に連れられて、やってきたのは大樹の根元。


大樹には、樹木の洞窟とも言えるがあります。


立派な大樹にも関わらず、樹洞の周りが変色し、枯れています。


『これは、精霊族の命の源、という、魔素毒に侵され、枯れかけておるがの…』

「で?」

ドクター、まったく興味なし。


「要件は、この大樹じゃないだろ?」

『ふむ。お主の目はふし穴ではなさそうじゃの?…ホッホッホ』

「視力には自信があるんだ…中から、澱みが滲み出ているのが見える」

『なるほど…入るが良い』

出ました!

〇〇には自信があるんだ…ドクターって、これで全部片付けちゃいますよね?


まぁ、実際見えているんだろうけど…。


つか、私はそんな澱みは見えませんが、何なやらイラッとする感じはしています。


はて?何故でしょう?


その答えは、すぐに判明しました。


『『『おかえりなさいませ…族長様』』』

樹洞に入ると、王宮の豪華なホールらしきところへ案内されたのです。


イラッとする感覚は、ホールの奥にある扉の中から…おそらくは呪術の類。


扉の前には、メイドっぽい精霊が控えています。

こんな場所で、キラキラと光る羽根がついているあたり、妖精ではなく、精霊なのでしょう。

自信はありませんが…。


『今日は、客人を連れて参った、精霊王様にお眼通りを申し出たい』

『ご用件をお伺いしても?』


『よい!』


控えのメイド精霊の言葉に反応したのは、ホールに響き渡る念話のような声。


精霊王とか言うから、男かと思いきや、思いっきり女性の声でした。


精霊女王じゃん!と思ったのは、私だけではないはず。


「なぁ、女王様!もしかして、呪いの魔法でもかけられたか?精霊族でも解除出来ないなら、魔族、それも魔王クラスの強力な呪い」

『ふむ。お主は、医者で間違いないようじゃのう』

まって!まって!女王様!!

今の会話に、なかったよね?


「そこまでわかってるなら、俺の要件もわかってるよな?」

『無論じゃ』

何故、上から目線?


あ、ドクターだからか…自己解決。


☆☆☆


『それにしても、お主の従者は、ずいぶんと優しい性格なのじゃろうのう』

「なんだ?それ」

『我の眷族にバカにされ、森を凍らせはしたが、この大樹だけは凍らせずにいてくれた…感謝する』

へー!レイコ、やるじゃん!


『そもそも、本気で凍てつかせるつもりなら、族長ですら、解凍は出来なかったじゃろうて』

マジっすか…ドクターの言っていた、ロウソクの火を吹き消す程度ってのは、あながち間違いじゃなかったのね…。


氷女こおりめ、恐るべし!


「まぁ、俺たちには効かんけどな…」

さいですか…。


「で、この世界の魔王を倒せば解呪できるんだな?」

『ふむ。やってくれるか?やってくれたなら、お主の要望を全面的に受けようではないか…いずれにせよ、我が死んだら精霊族は、いずれ滅びる運命をたどるであろうからな…』

「次期王を決めたらいいんじゃねーの?」

ドクター!空気読んで!!


『お主…まぁ、良いわ…』

あ、女王様、諦めた。

ドクターとの会話あるあるですね!


聞けば、代替わりをしたところで、女王様は、実年齢150歳。

最年少の精霊女王様だそうです。


その代替わりの際、隙を突かれて魔王に禁呪をかけられたのだとか。


解呪の条件は、精霊族の隷属、女王の嫁入り、樹海の放棄。


つまり、魔王の嫁になれ、眷族は全員奴隷、土地は魔族領にする。

…という事。


ドクターの出した条件と、あんまり変わってないところが笑える。


でも、ドクターは土地を支配したいのではなく、使だけだし、従者と言っても、コマ使いにするだけだし、嫁云々は、あんまり関係ない気がします。


ちょっとだけ…ほんのちょっとだけ、ドクターの方がですね…。


「確認だが、魔王を倒せば解呪されて、お前も助かる…それでいいか?」

『息の根を止めて、魔力を遮断せねば無理じゃな…』

「あー、俺の倒すは、だから安心しろ!試合とか模擬戦じゃねーんだから」

『あ、そう…わかった』


女王様、ドクターと話してて寿命縮まないのかしら?


「さっそく、取り掛かるか…」


とか言ってますが、何をするのでしょう?


『全員集合!』

『『『『はーい!』』』』

ドクターは、大樹の外に出て、念話でみんなを呼び寄せたようです。


「まずは、ヨーコとミーコで、魔王に囚われている、攫われた多種族を救出!その後、多種族と交流を持ちたがっている、の救出!魔族以外でも、魔王に賛同してる奴らはいらねー!!その違いは、耳と鼻で分別しろ!」

『『ラジャー!!』』

確かに!人質はいるかもです。

つか、魔族の中にも、魔王の支配下にならない平和主義な人達はいるんですね。


救出した魔族の中に、怪我人や死人がいたら、まとめて連れてくる様に…とも付け加えていました。

優しいんですね!


「従者は、1人でも多い方がいいだろ?」

はい、前言撤回!


「その後、レイコが先制攻撃、凍土にしてやれ!魔族を含め、魔王に与する全員を冷凍保存、その後、ユキコに頼んでな…素材、魔石を回収したら、あとは食材にでもしたらいい」

『了解しました』

なんか、魔族殲滅作戦に聞こえるんですが、気のせいでしょうか?


「チーコは、レイコから連絡があり次第、ここから魔王の血液を搾取、干からびてもいい。イノリは、血液がきたら、血液の流れに沿って魔力を吸い取る…以上だ」


「え?私が魔力を吸い上げるんですか?」

「お前、魔王の魔石…その上級石のを取り込んでいるだろ?容量は十分なはずだ」

予想はしてましたが、やっぱりバレてましたね…。


そのやり取りに、目を見開いて驚いているのは、案内をした族長本人。


『いったい、何をなさるんで?』

「え?魔族を壊滅させて、魔王を倒す!んで、精霊女王に謝罪させて、2度と歯向かわないよう…手を出させないよう釘を刺して葬るだけだが?」

『魔王相手に??』

まぁ、そういう反応になりますよね?

勇者じゃないんだし。


「俺たち、してるからな」

『魔王慣れ…とは?』

「いや、気にしなくていい。要するに、魔王ハンターだと思ってくれればいい」

魔王ハンターて…。


まぁ、いいけど。


打ち合わせ?、段取り?

ま、それが終わったところで、皆はそれぞれ配置につきます。


「あ、そうだ…魔王城は、残しておいてくれ」

『分かりました』

ドクターは、レイコに追加の指示を出します。


はて?


ただ今、私とチーコは待機中。


ドクターは、1人で大樹の周辺を勝手に開拓し、救護施設を作っています。


開拓許可は、精霊女王から族長を通して、精霊族全員に知らされました。


連絡係は、森に生息する妖精達。

伝達スピードが半端ないです。


で、開拓のお手伝いに関する申し出は、すべて却下。


「邪魔だからいらない」

ドクター!言葉選んで!!



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