第29話 ドクターと私は同類らしいです。
カチャッ
「ふぅ…地獄に紅茶とは、良く言ったものですね」
『仏ね…まぁ、敵だけど』
ただ今、お部屋でヨーコさんとくつろぎ中です。
私は、とりあえず一通りのエリアでの見学、体験を経て、普段はドクターが使っているという部屋で、ヨーコさんと、のんびりと過ごしています。
部屋は、異世界で泊まっている宿屋…もとい、高級ホテル並みの部屋と、同等かそれ以上。
ドクターが肉塊から、普段の姿になるまでは、空き部屋となっているので、案内をされたのです。
メイドとして派遣されたのは
猫娘 名前ミーコ
雪女 名前レイコ
話相手に
妖狐 名前ヨーコ
この3人が付いてくれています。
しかし、お茶を淹れたのはヨーコさん。
食事を作るのもヨーコさん。
おかしいよね?
『いやぁ、イノリ様が私を話相手に指名して下さいましたけど、基本的に給仕は私の役割ですし』byヨーコ
『ネコマンマなら作れます!』byミーコ
『かき氷なら作れます!』byレイコ
『猫舌なので、味見をしないのであれば…』
byミーコ
『熱々がすぐに冷凍品になってもいいなら…』
byレイコ
『少しでも、大王様のそばに居たくて勉強しました』
byヨーコ
「あ、はい…理解はできましたよ?気にしないでね」
って、それ以上、何んて言えばいいのよ!!
ぶっちゃけ、ミーコとレイコはいらないんじゃね?とか思ってしまいます。
「ドクターって、もしかして、新月のたびに地獄に来てるの?」
もう、家事の話はいいです!
で、話題変換…ふふふ。
ミーコとレイコは、空気を察してか、黙って会釈をし、部屋を後にしました。
『そうですねー!ここに時間の感覚は、あまりないんですけど、普段なら1ヶ月ぐらい…今なら、10日ほどと予想されていますね』
「あぁ、邪龍を食べたから?」
『そうですそうです!邪龍は、新月にこそ力を発揮しますから』
なるほど!
邪龍核を隠したのは正解かもしれませんね。
地獄の住人的に…プッ!
川体験で思いました。
地獄に来るような死者には、何かしらのペナルティーを与えたくなる衝動に駆られてしまうという事に…。
そう!この私ですら、ほんのちょっと意地悪をしたくなるんです。
もし、ドクターが地獄に来たら、死者にとっては、地獄で地獄を味わう結果になる事は、容易に想像が出来ます。
『あ、それ、想像じゃなくて、実際にやってますからね』
「………」
『死者も、大王様の姿を見たら逃げ出しますし』
「………」
マジかー!!
☆☆☆
そんなこんなで、どれぐらい、この部屋で過ごしたでしょう。
地獄には朝がありません。
死ねない死者の罰も、基本エンドレスであり、長寿、不老不死の妖怪を含めて、地獄の住人そのものが時間に対して疎いのです。
ですから、ドクターが言っていた300年が現世の3年というのは正解な日数なのでしょうが、それ以外はアバウトと考えなければいけません。
滞在時間
現世で1週間が、地獄で1ヶ月
現世で3日が、地獄で10日
まったく計算にあっていません。
現世の3年が、地獄の300年であるなら、上記の日数は、思いっきり適当という事になりますよね?
まぁ、今更、どうでもいいのですがね…。
異世界も、地球と時間の流れが違うようですし、私達は不老不死らしいので…。
ここは、ヨーコさんの言うのを鵜呑みにしたフリをして、合わせるしかありませんね!
地球には、『郷にいれば郷に従え』という諺もあります。
現世の1週間は地獄の1ヶ月、前世の3日は地獄の10日。
もう、それで良い事にしましょう!
本音を言えば、いちいち考えるのがめんどくさくなったからに他ありません。
うん!
しかし、どこの世界にも不測の事態というものが存在し、あらゆる計画、思惑が、一瞬のうちに無意味化してしまう事があります。
例えば、
大規模ライブの予告なし休演。
有給をとったファンは、無駄な有給を消費した事になり、容易万端に夜も寝ないで待ち侘びていた人の苦労は水の泡と化し、運営側は、ライブの成功で大儲けのはずが、チケット代の返却対象の対応に負われて大赤字になってしまう。
和平のために、要人を迎え入れるはずの国が、要人を暗殺者に殺され、戦争に発展する。
よくある話です。
そして、ここ地獄においても、ソレは例外ではないという事。
ある出来事が発端となり、平和且つ、スムーズに運営されていた世界が、天災などにより、いきなり人々に不安と混乱を撒き散らしてしまうという、現代社会の不測の事態をも、軽く超えてしまう事だって起きてしまう。
そう…この地獄をも震撼させる不可避な最大最悪の不測の事態(憶測)も起こってしまう事だってある。
それは、住人の予想を遥かに超える大事態!
ドクターの復活でありました。
☆☆☆
ソレは、唐突に何の前触れもなく、訪れたのです。
ガチャッ…。
「よう!イノリも来てたのか!地獄巡りは楽しかったか?」
「あ…えと、はい!」
「それは何より…ふぅ。ヨーコ、お茶を淹れてくれ、あと、食事も…あれだけこき使われたら、流石の俺も腹が減る」
『は、はい!ただ今!』
やはり、肉塊になっても、意識はあったようです。
「あの…何故ドクターが復活してるんですか?」
「あれ?俺が邪龍食べたの、見てたよね?」
「まぁ、見てましたけど…」
「まぁ、そういう事だ」
どんな事??
「で、残してあった邪龍のブレス核は、イノリが取り込んだ…と」
ギクッ!!
何故それを!!
「そりゃ、邪龍を食べたからに決まってるだろ?」
「へ?」
ドクター曰く
邪龍を食べた事で、邪龍に関する事、それこそ、体の異常であったり、考えであったりが、手に取れるようになった。
との事。
(まさか…)
「あぁ、イノリが閻魔に頼んで、邪龍核を隠したのも知ってる」
ガーン!!
「す、すみません!ドクターが、邪龍化したらイヤだなと…つい」
妖怪達の憂さ晴らしも、私の画策も、予想通り、ドクターには筒抜けでした。
カチャッ
『お待たせしました、イノリ様、大王様の邪龍化は有り得ませんから、どうぞご安心を』
「ヨーコ!いらん事言うな!」
『ヒッ!』
「ドクター!ヨーコさんを、あまり責めないで下さい!地獄も案内してくれましたし、最初の反省も踏まえて、私に尽くしてくれています!」
「ふむ…イノリが言うなら、それはそれとしよう…下がっていいぞ」
『はい!イノリ様!ありがとうございます!では…』
ガチャ…。
心なしか、ドクターが俺様キャラになってる気がします。
(もしかして、これがドクターの本性?)
「あー!地獄を掌握したのはいいけど、威厳を保つのは疲れるわー!」
えと…違ってましたね。
ただ、私の前では、冷静沈着なキャラだった事は忘れているようです。
なんか、子供みたい…クスクス。
「さて、久しぶりに地獄巡りするか!」
「私もお供します!」
「え?えと、留守番しててくれないかな?」
ドクターが、地獄で何をやって恐れられているのか…めっちゃ興味があります!
「いいじゃないですか…ドクターの仕事ぶりを拝見したいですよ、私も!」
「いや、その…見せもんではないと言うか…」
「いいじゃないですか!ドクターばっかり!連れて行かなきゃ、ここでブレス吐きますよ!」
「え?ちょっと待て!それは流石に…」
カァァー!
私の口に、赤い魔法陣が浮かび上がり、獄炎の炎が形作られていきます。
「ちょ!」
ゴォォォー!!
ズドォォォーン!
スッがァァァーーン!!
チュドォォォーーーン!!
部屋の壁は破壊され、遠くで大きな爆発が起きました。
「初めてブレスを吐きましたが、結構な威力がありますね…ね?ドクター?」ニヤリ
「………」
「それに、もう私の前でクールさを装っても無駄ですからね!」
「………わかったよ」
私の勝ちです!やった!!
ダダダダ!
『はぁはぁ…い、今のは何です?山がひとつ吹き飛びましたよ?!』
私のブレスに、飛んできたのは閻魔さん。
「あぁ…イノリが獄炎ブレスを放っただけだ」
『だけ??』
「ちょっと言い合いになってな…」
『それだけの理由で??イノリ様も、そんな性格何ですか??』
(も?)
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