第27話 ドクター!私、地獄巡りしますね!
さて、肉塊になって遊ばれているドクターは放置して、私は何をしましょう?
それは決まっています!
ドクターが魔改造した地獄を見て回るのです!
閻魔さんに許可をもらい、案内役は妖狐のヨーコさんに頼みました。
理由は簡単
面識がある事
名前がある事
空を自由に移動できる事
以上、単純な理由です。
ヨーコさんは、異世界風に言うなら『空間移動』『縮地』『浮遊』というスキル持ちに属します。
つまり、風魔法、もしくは風魔術。
習得した能力ではないので、この場合、風魔法に該当するでしょうか?
私はもちろん、足の裏からの『ブレス飛行』。
龍のブレスは、ただ口から吐いて攻撃をするだけのものにあらず!です。
もっとも、ヨーコさんには『普通、そんな事できないからね』と、ツッコまれましたが…。
まぁ、いいでしょう…何はともあれ、地獄巡りの始まりです!
私は、移動中、地獄巡りに際し、ある疑問を解決する事にしました。
元々、魔改造された地獄を見るのが本題なのですが、聞かずにはいられなかったからです。
答えてくれたのは、もちろんヨーコさん。
疑問①
何故、ドクターは選定神の存在や、異世界の存在を全く気にしてない(動じない)のか
答え
①地球の現世より、地獄での生活が長かったから、マヒしているだけ。
②異常思考のドクターは、地球の人類より、地獄の住人の方がウマが合うみたいだから。
③地球みたいな、堅苦しい法律がないから。
確かに…ドクターにとっては、現代の法律が邪魔で、自由に研究ができないからと、現代の生活を捨てて、時代を超える気満々でしたからね。
度重なる自己改造実験や、私みたいな人工生命体を作り出すような人は、人間より妖怪の方が、気があうかもしれません。
疑問②
何故、地獄の住人や妖怪達は、ドクターのいいなりになっているのか
答え
①改造されるのも、ある意味娯楽だから。
②地球では忌み嫌われ、排除される事も危害を加えられる事もある皆の治療を、難なくしてくれるから。
③ぶっちゃけ、逆らって勝てるとは思わないから。
つまり、ドクターに勝てる気はしないけど、面白い事をしてくれるし、治療もしてくれるから逆らわない…って事ですかね?
そして、ヨーコさんは付け加えました。
『私達、異世界に行っても、モンスターや亜人族扱いだしね』と。
場所によっては、討伐対象になったり、差別対象になったり…と、不都合の方が多いようです。
ちなみに、ヨーコさんは『九尾の狐』、いくら人間体になれたとしても、間違いなく素材対象として、狩られる側なのだそうです。
雪女→氷の精霊扱い
カッパ→人魚と同じ扱い
牛鬼→ミノタウロス扱い
鬼→鬼人族扱い
吸血鬼→悪魔族扱い
亡者、ゾンビ→アンデット
亡霊→妖精扱い(は?)
など、カテゴリーが妖怪や化け物、幽霊ではなく、こうして細かくカテゴライズされるのだそうです。
なんとなく、理解はできます。
ヨーコさんは、間違いなく獣人族になるでしょうし。
ちょっと同情します。
☆☆☆
ドクターが
異世界をスルーする理由
地獄の住人(強制滞在者含む)がドクターに従っている理由
そして、ドクターが地獄をホームグラウンドにしている理由
これらが、あっさりと判明しました。
簡単に言うと『ドクターの思考回路はちょっとおかしい』。
うん。これがしっくりくる!
「で、ヨーコさんも、何か改造されてるの?」
『されてるよー』
「教えて!」
『やだ』
ガーン!!
ヨーコさんは『そのうちわかるよ』と笑ってはぐらかしてしまいました。
『さぁ、ついたよ!』
地獄名所①
岩山の盆地にある堤防と川。
ドクターがキャッチボールをしていた場所、何の変哲もない野原。
『堤防沿いの空き地は副産物ね』
「え?」
『メインは川そのもの、入ってみたら?』
(入ってみる??)
じゃなくて!
確か、カッパの川流れ地獄とか言う、変な場所だったはず。
そして…。
「なんで来た時、すぐ側にあったこのエリアが、こんな遠くにあるの??」
そういう事です。
ざっと、5kmは飛んでましたよ??
『あぁ、地獄のエリアは自立型だからね…場所は好きに変えられるんだよ』
まーた『自立型』っすか!
つくづく、ドクターって『自立型』が好きですよねっ!
「もういいです!んじゃ、入ってみますね!」
ザブン!!
(私は、おそらく泳げるはず…って!)
「キャァァァーーー!!アァーー!!」
川に入った途端、ものすごい勢いで流された私。
穏やかに見えたのは表面だけで、水中はものすごい勢いの、まさに急流!
こんなの泳げるはずないじゃないですか!!
私は、流されるままに、しばらくは流れに身を任せる事にしました。
「私、諦めの早さには自信があるんだ」
いや、これは違うか…。
まぁ、それはさておき、どんな仕組みになっているか、興味があった事。
いざとなれば、ブレスで脱出可能であると気づいた事。
なら、ここは、流れに身を任せるしかないでしょう!
『やっぱり、実験が好きなんだね…』
とか、ヨーコさんが言ってたような気がしますが、その声は瞬く間に消えてなくなりました。
ただ今、岩場の洞窟の中…壁や天井に、ヒカリゴケという、テンプレな薄明かりがあり、まるで下水道のような雰囲気があります。
ただし、左右に通路は無し。
ゴツゴツした岩場も無し。
あるのは、流れに逆らって、必死で泳ぐ死者の群れ。
『どけー!』
『俺たちの邪魔をするんじゃない!』
『俺は生きる!俺は生きる!お前!邪魔!!』
泳ぎながら、死者達が口々に、私に向かって罵声を浴びせてきます。
まぁ?確かに?
流れに逆らって泳ぐ死者達、流れに身を任せてる私、普通にぶつかりますよね?
だから?
☆☆☆
ここは地獄、生前に悪い事をしてきたから、ココに居るわけで、この川は、その報いを受けるためにあるわけで…。
つまり!
私が罵倒される言われは無いのです!
「今、罵声を浴びせた人!やり直し!」
『『『え?』』』
ドカッ!ドカッ!ドカッ!
『『『あぁー!やべでぐだ…ブクブク…』』』
ふん!
地獄の住人のくせに、謙虚な気持ちがないなら、これは自業自得というやつです!
私は悪くない!!
必死に泳ぐ死者達…でも、何故?
何のために必死になってるの?
「ねぇねぇ…ちょっと聞きたいんだけど…」
私は、必死で泳ぎながら、前へ進もうとする死者の1人に話を聞く事にしました。
もちろん、ブレスで浮遊しながら…。
邪龍のブレスなだけに、碌な能力がありません。
この場合、毒は論外、石化も論外。
残るブレスは火炎と凍結。
使い勝手が悪すぎる!!
で、思いついたのが、凍結ブレスを火炎ブレスで溶かしながら風を作り浮遊する、混合ブレス。
私、もしかして頭いい??
『し、質問なら早くしてもらえませんか?…ふぅ…ふぅ…』
「せっかちね!だから、こんな所で泳ぐハメになるのよ!」
『いや、この急流で立ち泳ぎは、流石に堪えるので…』
「死者のくせに生意気!」
まだ、聞ける死者は何人もいます。
こいつ、沈めてやろうかしら…。
死者からの情報をまとめると
①このエリアに放り込まれるのは、殺した相手を、海や湖、川などに沈めていた犯罪者。
②入水自殺をした自分殺し者。
が主で、他の犯罪者や自殺者は、それに見合ったエリアに入れられるらしい。
ここで気になるのは、どんな理由があるにしろ、自殺を選んだ人は、もれなく地獄行きになるという事。
もちろん、そういう精神状態に陥れた人や会社も、正当な理由がない限り、こちらに来るとの事。
そりゃあ、地獄も手狭になるわけですよ。
『も、もういいですかね?この急流を泳ぎきったら、罪が許されるんですよ!頑張れば、また輪廻転生の輪に入れてもらえるんです!』
岩山から岩山まで、堤防のある見える部分が、約500m。
トンネルのスタートからゴールまでが10km。
そのループした川を、全力で泳ぎきったら罪は許される。
途中で諦めたり、川に流されたら、最初からやり直し。
(ん?)
という事は、さっき私が沈めた人達は、スタート地点に戻って、やり直しをしていると?
なんか悪い事したわね…いや、私は悪くない!
「ありがとうね!頑張って!」
私は、死者にお礼を言い、肩にポンと手を当てて、石化のブレスをプレゼントしました。
『ちょ!重たい!肩が動かな…ブクブク…』
と、沈んでいきました。
ま、地獄だし、これぐらいいいよね?
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