第24話 ドクターのヤンチャぶりをスルーできない私です。

「ふぅ…これで邪魔者はいなくなりましたね…」

まぁ、邪念や悪意も、まとめてしたら、他の雑菌と同じ扱いができるとわかっただけでもヨシとしましょうかね。


あ、とりあえず、当初の目的だった貴族や神官に恐怖は伝えられたでしょうから、解放してあげましょうかね。


スィスィスィ…。


口に縫い付けられた糸は、ごく普通の綿でした。


(これ、わざとですよね?)


ドクターは、基本、人工的な糸は使いません。

細胞を糸状にして縫い合わせ、患部に適応させて傷口や切除部分に手術跡を残さない施術を好みます。


細胞を可視化できるレベルで紡ぐのは、普通はありえないのですが、『視力には自信があるんだ』とか言っているドクターには、容易な事なのでしょう。


「はい、口の糸は取りました。縫合跡も回復魔法で治しました。これに懲りたら、邪龍信仰なんてやめて、平和に暮らして下さいね」


(ふう…元々、悪人だった人に言っても、あまり効果はないかもしれませんが…)


「こ、この女!邪龍様を食べて悪魔化した男をぶっ飛ばして人間に戻したぞ?!」

「その男を樹海までぶっ飛ばしたぞ!!」

「そんな事ができるのは魔王様ぐらいだ!」

「帝国に敵対する凶悪な存在が目の前にいる!!」

「魔王様に報告せねば!!」


(この人達、なんか失礼ね!)


「あんた達!今、私あんた達を助けたと思うんだけど?ぐだぐだと、ずいぶんな事を言ってくれるじゃない!!お礼とかないの?死にたいの??」

死にたいの?は余計だったかな?


「この女!やはり帝国を滅ぼす気だ!」

「早く軍部に知らせろ!防衛体制を整えるんだ!」

失礼な人質は、助けたはずの私に、思いっきり失礼な事を言い放って、去っていきました。


「今なら滅ぼせるかもですが…」

ドクターの悪ふざけの後に、容赦ない罵声…めちゃくちゃ理不尽に感じるのは、気のせいではないはずです。


ヒョコッ…。


『あのぉ…あねさん、ちょっと、怒りのオーラ、抑えてくれませんかね?』


地面から出てきたのは、ドクターがいつもコマ使いにしている閻魔大王様。


「あら、失礼…ちょっと、イライラする事が重なりまして…オホホ」

『姉さんも、旦那寄りですよね?基本的に…』

「どういう意味ですか?あ?」

『いやいや、現在は、性格形成の時期だと思うんですが、やはり側の性格になっていくんだなと…』


これ、褒められてませんよね?私!!


「もしかして、ドクター以外には毒舌ですか?いくら閻魔大王様でも許しませんよ?」

『いえいえ、とんでもない!姉さんの能力は、すでにこちらで実験済みですから、我らが貴女様に逆らう事はありません!』

ん?私の知らない時に、私の能力の実験をしていた??


意味がわかりません。


『まだ、人格形成ができていない時ですよ。その頃には、旦那はすでに指名手配されてまして…地球では、自由に実験が出来ないと、我々、地獄の一角を使ってイノリ様を組み立てていらっしゃいました』

あら?初耳だわ!

ちょっと面白いかも…!!


「で?いつもはドクターに呼ばれてしか現れない閻魔大王が、何故、突然、ドクターのところではなく、私の前に??」

正論です。

私は、閻魔大王とは、ほとんど面識がありません。

ドクターの従者って言われた方がしっくりとします。


『旦那から、の物が手に入ったから、取りにくるよう言われておりました』


ん?約束の物とは??


☆☆☆


『そろそろ、旦那の力が弱まってきている時間なので、こちらに参りました』

「はい?」


ただ今、夕刻。


閻魔大王曰く

本日は新月の夜

ちまたで、新月になると力が弱まるとか、力が使えなくなるみたいな設定があったので、弱点となるように細胞をいじった。

常に最強よりも、弱点があった方がカッコいいから。


ドクターって、バカなんですか?


更に閻魔大王は続けます。


実験が失敗して、思わぬ副作用が出てしまったので、なんとかしたいと思っている。

要件がある時は、早めに連絡が来る。

で、現在に至る。


「で、約束の物とは?」

『それですね』

閻魔大王が指を差したのは、邪龍の胃袋。


確か、コールタールみたいな胃液が入っていると言ってた気がします。


「あの胃液が必要だと言う事ですか?あれはなんですか?どうして必要なんですか?何で邪龍なんですか?どうしてドクターは邪龍を食べる選択をしたんですか?」

あ、ちょっと質問責めをしてしまいましたかね?

閻魔大王がタジタジしています。


ヒョコッ…。


そんな時、タジタジしている閻魔大王の横から、助け舟が現れました。


『これ、娘!宰相をあまり困らせるでない』

「え?閻魔大王が宰相??貴女は誰?」

現れたのは、灰色の着物を着たおばあさん。


ま、まさか!この人は!!


『よっこいせっと…娘、わしを知っておるようじゃのう…ホッホッホ』

地面から出てきたおばあさんは、私を見ると、得意げにドヤ顔をしています。


『バァバ…さっそく頼む!』

閻魔大王…もとい、閻魔宰相が、おばあさんに声をかけます。


「貴女は、あの有名な『砂かけババァ』さんですよね?」

『あぁ、昔はな…』

「昔??妖怪にも、昔とかあるんですか?」

『あるのう…あやつが大王になってからな…おおよそ300年になるかのう』


あやつとは、おそらくドクターの事。

大王とはドクターの事。

だから、閻魔は宰相となり、ドクターの側近として、コマ使いになっている。


地獄で300年過ごしていたから、喋りがいちいち


(なるほど…)

なんとなく、ドクターの過去が明らかになった気がします。


☆☆☆


「で?昔、砂かけババァだったのなら、今は何なんですか?」

『砂化バァバじゃ…あやつに改造された』

「………」

ドクター!地獄で何してんですか!!


『旦那は、人体実験はしないけど、妖怪実験は繰り返していたんですよ…死なないから』

「ひどっ!!」

『まったくじゃ!!』

閻魔さんと砂化バァバさんに同情しますよ!

マジで!


「もしかして、子泣きジジイさんも、何らかの改造をされたとか??」

『何故じゃ?』

「なんか、砂かけババァさんと子泣きジジイさんって夫婦みたいだから?」

『バカモン!夫婦などではない!…が、改造はされておる』

されてるんだ!!


子泣きジジイさんは、『粉木ジジイ』となり、つまり妖怪となったらしいのですが…。


ドクター!

何を妖怪で遊んじゃってるんですか?!


砂かけババァ

砂をかけるだけでは攻撃力が低い

砂化バァバにした

任意で、すべての物を砂にできる

かなり強力


子泣きジジイ

泣いて重くなるだけでは、うるさいだけで何の意味もない

粉木(おがくず)ジジイ

粉塵爆発を起こせる

かなり強力


バカですか!バカなんですね!!


『で、本題じゃ…これを砂化する』

砂化バァバは、胃袋を指差し、妖気を送ります。


妖気は、若干、瘴気に似ています。


『胃袋の中は、瘴気が液体化したものじゃ…それを砂状にして、宰相の漢方薬にするのじゃ!やれやれじゃよ…大王が地獄から瘴気を排除してしまうから、こうして定期的に摂取しなければ宰相は浄化されて転生してしまう』

『今更転生なんかしたくないっすからね』

あらぁ…ドクター、ずいぶんと好き勝手にやってますよね?


再生細胞も、地獄で発見したとか言ってましたし。

地獄の住人が可哀想になってきました。


砂化バァバは、胃袋の中身を砂化して、閻魔さんに渡しました。


『ところで、これはなんじゃ?』

砂化バァバさんが指差したのは、4つのブレス核と邪龍の核。


火炎、凍結、毒、石化。

そして、邪龍を邪龍たらしめる核。


『ブレス核はともかく、邪龍核は、旦那が弱点を克服するために食べようとしたんでしょうな…その下ごしらえに、邪龍を食した…ってところですかね…』

と、閻魔さんが推測し

『馬鹿げた弱点なぞ作ろうとするから痛い目に合うのじゃ』

と、砂化バァバさんが呆れております。


(もしや…)

私は、ドクターのように硬いものを食べられるわけではありません。

しかし、ブレス核をしてもらい、体内に取り込んだら…。


私は、砂化バァバさんにお願いしてみました。


『まぁ、お主は大王のパートナー。ふむ。よかろう。使い方は、自分で試行錯誤するのじゃぞ?』

「はい!ありがとうございます!!」


(よし!!)

私の望みは、あっさり承諾をしてもらえました。


強大な力を欲しているわけではありません。


しかし、少しでも、ドクターのストッパーにならなければ!!という気持ちが強くなったのは間違いないと思います。


これが本音です。


それにしても、ドクターの弱点とは、いったい…。

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