第19話 ドクターは無意識にドラゴンを鍛える。
とりあえず、ドクターの指示は遂行できました。
『イノリ!よくやった!かなり自分の体を操作できるようになったな!ご苦労!』
「あ、はい!あ、ありがとうございます!」
『歯切れが悪いな…もっと自信を持て!あんなえげつない結界…もとい血界は中々思いつかないぞ!期待以上だ!』
「ありがとうございます…」
私が考えて作った結界じゃないからねっ!
返答も歯切れが悪くなって当たり前なんだよ!
ドクターなら、ちゃんと指示してよねっ!
と、これぐらいの愚痴は許してもらわないと、精神構造に支障をきたします!
私の人格が、どんどんとおかしな方向へ行ったとしても、それはドクターの責任という事にしましょう。
こうして、実直な助手としての立ち振る舞いが、いつまで続くのかは、私本人にも予測不可能。
人間の人格形成は、幼児期に確定するという情報がインプットされていますが、私は今まさに、そんな状態なのです。
『では、ちょっと城の中に居る悪人達に挨拶してくる!』
シャキン!
出ました!
お得意の次元切り!
無詠唱でもいいから、転移魔法でも使ってくれれば、異世界感が出るのですが、いかんせん、メスで次元を切る仕草で、切り裂き魔感の方が勝ってしまうのが残念で成りません。
ズッシィーーン!!
『ね、ねぇさーん!!』
ドクターが城に向かってすぐ、もの凄い音と共に、ドラゴンの叫びが頭をつんざきました。
『つ、次変わって…』
『え?よくわかんないけど、わかったよ』
『情けない!』
『一度解体された父上には言われたくありませ…ん』ガクッ
(ん?)
誰が、何の話をしているのでしょう??
ここで消去法。
父上は、もちろん黒龍。
確か、ブルーとレッドに付き添っていたはず。
↓
金龍、銀龍は、樹海の帝国側で監視。
↓
グリーンとイエローは、母である白龍救出作戦のために待機中。
↓
残るは、ブルーとレッド。
↓
『変わって』からして、倒れたのはブルー、叫んだのはレッド。
これらの配置変えは、『悪人集め』をする際に、ドクターが指示した内容です。
これで間違いないでしょう。
☆☆☆
『追加情報』
私が、簡単な消去法で所在確認をしていると、脳内から別の声が聞こえてきました。
『私、貴女の自立型脳ね。よろしく!』
「………」
脳まで自立型とか…並列思考とか、普通にできるんじゃ?とか思ってしまいます。
『できるねー』
「はいはい…で?追加情報って何?」
『倒れたブルーの全ステータスが、20%アップした』
「へ?」
『ドクターを頭に乗せてたから』
「はい?」
すみません。
自立型脳さん、意味がわかりません。
自立型脳さん曰く
ドクターは、いつも懐にメスを忍ばせている
↓
ドクターの白衣は強化細胞で出来ている
↓
メスの総重量40トン
↓
その他、注射器なら医療器具もろもろ5トン
↓
次元収納により、普段使わないものは重量に含まれない
↓
白衣の重量は強化補正により60トン
↓
次元収納を除いて、総重量100トンを常に身につけて行動している
↓
ブルードラゴンは、頭の重さを軽減する為に、魔力で身体強化をしていた。
↓
ドクターがいなくなって、魔力枯渇もあり倒れた
という事らしいです。
さらに、普段、普通に歩いているのは、ドクター自身の筋力であり、重力を制御して体重を誤魔化していたからなのだとか…。
そりゃ、残像も残らないスピードでオペができるわけですよ!
私のナース服は、そんなに重くはありませんが、いろんな耐久性はすごいらしいです。
(し、知りませんでした…)
ブルードラゴンさん、ゆっくり休んでくださいね。
☆☆☆
一方、ドクターは、城に行くと言ってた割に、現在は樹海にて、レッドドラゴンの頭の上に乗っています。
「ドクター?城に行ったんじゃ?」
当然の疑問です。
『あー、奴らに忠告してきた』
「やけに、早くないですか?」
『まぁ、念話が聞こえるスピーカーを設置してきただけだからな』
「へ?忠告は?」
『スピーカーに触ったら死ぬからな…と』
「………」
悪人たちに、何か言うのかと思ってました。
『いやぁ、ドラゴンの頭って、案外座り心地がいいんだよ…だから、遠隔で忠告する事にした』
ドクター、確か『読心術は得意』とか言ってましたね…確か。
そこで、自立型眼球が新たなる能力を教えてくれました。
私の視力も、大抵チートだと。
ドクターの視力は、顕微鏡レベルで見られるし、オンオフで大気中のあらゆる元素を選択し、見る事ができる。
で、私の視力は…というと、見たいと思うものを、どこに居ても見られる遠隔、透視、能力凝視、異変箇所サーチなどができるように進化したとの事。
なんすかそれ?ってなります。
『とりあえずテストテスト!』
と、眼球さんに言われるがまま、ドクターのいる方向へ視線を移しました。
本体である私は、もちろん、ギルド内にいます。
「こ、これは…」
私が見たもの…それは!
ドクターを頭に乗せているレッドドラゴンが、身体能力に、フルで魔力を使っていたという事実。
発せられている魔力が尋常ではありません。
ブルードラゴンも、先程まで、あんな馬鹿げた魔力を使って、ドクターを頭に乗せていたんですね?
『ドクター、ドラゴンの頭に乗っている時、こっそりと自分に重力かけてるからね…今、ざっと150トンぐらいかな?』
「なんのために?」
『んー…ドラゴンを屈服させるため?知らんけど』
「嫌がらせの可能性は?」
『80%ぐらい』
「いやいやいやいや!」
『まぁ、これで、全ステータス15%上昇は見込めるね』
「わざと鍛えてるとか?」
『あ、それはないね』
ガーン!
断言されてしまいました。
それを聞いて、私の中の、ドクターのイメージがどんどんと変わっていくのを感じ、めまいがしてきたのでした。
『今は、そんな事気にしてられないからね』
by自立型脳
『余裕ぶっこいてるけど、かなり焦っている…心音バクバク』
by自立型耳
『イノリも、安心してられない…自分の能力を早く把握しなきゃ…』
by自立型髪の毛
『意識して、私達を使って!やりたい事、能力でわからない事は、早めに相談してね』
by自立型脳
あれ?
ドクターの話から、いつのまにか私の話になってるんですが?
気のせいですかね?
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