第17話 ドクターは掃除をやるみたいです。

「とりあえず、2000万枚だけはギルドに持っていこう…これでこの国は終わりじゃ…」

「父上!次期国王の私が…」

「バカモン!次期も何もないわい!早く、支払いの準備をするのじゃ!!」

「あんな輩に…」


ヒュゥーーン!

『王太子!お前、死にたいのか?』


「父上!こ、これは…」

「そうじゃ!お前が外で何をしたかはわからぬ…だが、何か画策をしようとしたり、反抗的な態度をとったら、こうして手紙が届く…国家統一の野望も妻に知れた…娘達にも見放された…これ以上逆らうと、殺されるかもしれないのじゃ…すべてを投げ打って支払うしかあるまいて…」

「父上…」


おー!なんか、感動のシーンみたいになってますが!


内容はただの『茶番』ですね…これ。




さて…中央の王国は、崩壊したと言っていいでしょう。


で、ドクターは…というと、樹海の高い場所から、ブルーの頭に乗って城を見つめ、紙で包んだ石を持って様子を伺っています。


『城の方はどうです?』

「あぁ、予定通り、王様と王太子だけになって、必死で金貨を集めてるわ…ハッハッハ!」

『よく見えますね…』

「俺、視力には自信があるんだ」

『定期的に石を投げたのは?』

「あいつら、いらん事ばっかり言うから、脅してやった…ハッハッハ!」

『よく聞こえますね?』

「俺、聴覚には自信があるんだ」

『………』


(ブルーさん、その気持ち、良く分かります!)


ドクターと話していると、自分の中の常識が音を立てて崩れ去り、無言になってしまうのです。


『何故、王国を崩壊させたのですか?あそこは、三国中、1番大きな国…潰すには惜しい気がするのですが…』

「いや、ちゃんと手は打ってある。俺たちの拠点だしな」

『どんな手か、お聞きしても?』

「あぁ、王国内の掃除が終わったら、王妃達を元に戻す…で、王妃を筆頭に国政を引き継いでもらうってとこだな」

『掃除ですか…』

「あぁ、神殿で、金を取って治療をしていたあたりから、良からぬ企みの臭いがプンプンしてたからな」

『ほう…』


ドクター…貴方って人は…!

それって、この国に来て、すぐの事ですよね?!

私に話してくれてても良かったんじゃないですかねー!


「とりあえず、ギルドに金貨が運び込まれるのを見届けてから、次の段取りだ」

『やれますか?』

「余裕…ハッハッハ!」


ん?

何の段取りでしょう?


「白龍、救出作戦」


(!!!)


『今、誰に話しかけたんです?』

「ん?イノリ…俺のパートナーだ」

『ど、どこにいらっしゃるんで?』

「目ん玉だけ飛ばして、隠れて見てる」

『目ん玉だけなのに、話は聞こえるんですか?』

「自立型だからな」

『意味が分かりません』

「だろうな…ハッハッハ!」


ガーン!!

バレてました!!


いつからでしょう?


「教えない…ハッハッハ!」

『なんか、独り言にしか聞こえないんですが…』

「あ、俺、読心術には自信があるんだ」

『左様ですか…』


ブルーは諦めたようです。

もちろん、私も諦めました。


☆☆☆


「もう、めんどくさいから、3つの国をひとつにするかぁ?」

『え?どうやって?』

「まぁ、ひとつと言っても、国をひとつにするわけじゃないけどな…」

『えと…どういう意味でしょうか?』


確かに…意味がわかりません。


「三国ってさ、山脈で分かれてるだろ?」

『そうですね。だから、我々三龍が、それぞれの国を監視していたわけですし…』

「ここから見て、左が王妃の実家、弟がいるんだっけ?んで、右が王妃の兄が王を務める国…だよな?」

『そうですね…中央の国は、元々、今の王が収めていた国、隣国が王妃の家系で成り立っているから、嫁いだのですよ…下手な争いが起きぬように』


なるほど…戦争を回避するために嫁いだのに、中央が隣国を手中に収めようと画策した…という事ですね。


王妃が嫁いだ意味ねーじゃん!!


「だから、中央は王妃に収めさせる。山脈はとっぱらう、今の王族、貴族、神官は排除する…どお?」

『え?どうと言われましても…確かに、隣国は、民度も高く、大した問題は起きていません。国政も安定しております』

「だろ?だいたい、こういうのは、中央から腐っていくんだよ…地方が頑張っていても、首都の官僚が腐っていくのと同じだな…」

『すみません、意味がわかりません』


私にはわかります。

地球の政治にありがちなパターンです。


「だいたい、俺の拠点が腐ってるとか、ありえねーだろ?」


そこを選んだのはドクターですけどねっ!!


「お?ギルドに金貨が運びこまれたぞ?王様と王子と…あれは神殿の関係者か…」

『王妃は、実家に帰っている最中でしたかね?』

「いや、王室付きの従者、王の悪巧みに加担してない連中は、ギルドに集まっている」

『へ?』

「建前だよ…実家に帰るのも離婚も…やる事やったら、戻ってもらうし」

『何をするおつもりで?』


イヤな予感しかしないんですが!


「まずは…閻魔!」

『へい!旦那!お呼びで?』

「例の段取りはついているか?」

『いつでも大丈夫です!』

「よし!ギルドに金貨が運びこまれ、王達が立ち去ったら、迷わずやってくれ!全員、もれなくだ!」

『御意!』


流石のブルードラゴンも目を丸くしています。


『あ、旦那!ちょっと報告したい事が…』

「どうした?」

『餓鬼が、餓鬼じゃなくなりました』

「は?」


閻魔の説明を簡単に説明すると


餓鬼にゴブリンを与えていた

他の妖怪、死者達も食べていた

餓鬼以外には変化なし

餓鬼の体が太り出し、知能を持ったゴブリンに変化した

結果

ゴブリン形態の亜人種となって、食欲がおさまってしまった


という事らしいです。


閻魔

ゴブリン化した餓鬼を地上に出したい

ドクター

却下


「とりあえず、開拓要員として使っておけよ」

『御意!』


☆☆☆


「よし!全員が城に戻ったぞ!始めるか!」


何かが始まるようです。

ワクワクします!


「つーか、イノリ?とりあえず、目ん玉戻して、ギルドに行ってくれね?」


ガーン!!


『は、はい!!』


失態です!

思いっきり、観客気分で見てました!


私は急いで眼球を戻し、ギルドに向かいました。


『ドクター!ギルドに到着しました!金貨の確認終了!王妃様以下、姫様、従者様、総勢50名、地下訓練場にて待機中です!神官、警備兵は誰もいません!』


『人員は、後で確保するとして、騎士団の副団長だけは、そっちに送るわ…って、今送った』

『は、はい!確かに副団長さん、現れました!』

『実験は成功したな…ハッハッハ!』


ドクター!

他人を使って人体実験はしないとか言いながら、他人を使って『転移魔法』の実験はやめて下さい!!


『これから、そいつが騎士団長な…んで、例の冒険者、アイツを副団長に…これ、強制な?王妃に言っておいて!んじゃ!』

『り、了解しました…』


なんて事を頼むんですか!!

そんな内容、王妃に言いにくいって、わかってんの?


ドクターのバカァーー!!

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